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狼は嘘をつく  作者: 山神ゆうき
大神京
3/15

2・4~5

啅人(たくと)はとても元気でサッカーが好きなやつだった。2人でよくサッカーをして遊んだことは覚えている。

4歳だからかその場から動かずにボールを蹴るだけであったのだが、コントロールがうまかった。


保育園の近くには川が流れている。俺と啅人は自由時間に保育園を抜け出して2人で川に行った。


その川で悲劇が起こる。俺は足を滑らせて川に落ちてしまったのだ。

俺は必死に這い上がろうと何度も何度も手を伸ばそうとしては沈みの繰り返しだ。

親友の啅人はというと驚いたような顔をして数歩後退り、逃げるようにどこかへ去っていってしまった。

それを最後に俺は気を失い、深い川のそこへと沈んでいった。


ーーーー(幕間)ーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーー


気付いたら俺は見知らぬ場所にいた。どこかの庭だろうか、綺麗な噴水と花壇がある。

そして、目の前には大きな門があった。俺はその門に向かって歩いていた。


「駄目!!」


後ろから知らない声が聞こえた。俺は振り返ると、そこには4階建ての大きな屋敷があった。


ここで意識が途切れる。


ーーーー(幕間)ーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーー


次に気付いた時は真っ暗であった。なんでこんなに真っ暗なんだろうと思ったのだが、自分が目を閉じていることに気付く。

目を開けるとここは『國矢部小児緊急センター』という病院であった。

母の話では啅人が必死に保母さんに助けを呼び、保母さんの一人は俺を救出でもう一人は救急車を呼んだらしいのだ。

保母さんは俺の親に謝り、俺の親も自分の子にも責任があるから、と言い、そのおかげで大事(おおごと)にはならなかった。


そして、啅人は俺の中では親友ではなくなっていた。そう、啅人は"命の恩人"なのだ。

もし、啅人が助けを呼ばなかったら俺は死んでいただろう。

俺は幼いながらも啅人のことは絶対助けようと誓ったのだ。


俺は退院して、5歳になった。

5歳になってからも時々、溺れたときの診察で病院に通っていた。


ロビーで付いているテレビをなんとなく観ていたら、どこかの高校の『弓道部』の特集をやっていた。

隣に座っている眉が太く、肩までの黒髪の女の子はムフー!ムフー!と興奮して観ていた。

そして、裸足で椅子の座る所に立ち、弓道部の真似をはじめていた。テレビを観て、『(きゅう)』『(どう)』『()』『(ゆみ)』『()』という漢字を覚えた。(しかし、数日後には忘れる。)

俺は母親に手を引かれ、診察室に向かっていった。


向かっている途中で面白いものを見掛けた。


「き、今日から研修をします、佐次田(さしだ) 五月(さつき)です!よ、よろしくお願いします!」


と研修生は頭を下げた。


「こ、こちらこそ新人ですが、よろしくお願いします!」


と猫耳を付けている新人看護師も頭を下げる。

それを見て、研修生が下げ、また新人看護師が下げを繰り返していた。近くにいた木刀を持った看護師が腹を抱えて笑っている。


診察が終わり、俺は診察室から母と一緒に出てきた。國矢部(くにやべ)先生も一緒に出てきて、「お大事に!」と優しく言ってくれた。

母は深々と頭を下げた。

俺はなんとなく、先生の胸の名札を見る。


『國矢部』と書いていた。最初の漢字は読めないが、後の漢字はさっき観たテレビにあった。


「お母さん。俺、この漢字を知ってるよ!『()』と『()』だよ!」


自慢気にいう。


「ヤブ医者先生!ありがとうございました。」


俺は意味が分からず、この言葉を発した。同然、母の顔は真っ青である。


すぐに母は「すみません!すみません!」と頭を下げる。

本当ならここでこの『ヤブ医者』という言葉は終わりであるが、運悪くそうはならなかった。


「あははは!ヤブ医者だって!ヤーブ医者ー!ヤーブ医者ー!」


と近くで聞いていた女の子が気に入って音頭をとり始めたのだ。


女の子はその場で親から怒られる。

しかし、周りで聞いていた患者達に広まり、この日から『國矢部先生』のあだ名は『ヤブ医者』となった。

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