別れ
王都に来て数日が経った。部屋の内装や開店準備でオレたちは忙しくしていた。王都といっても人はそんなに変わらない気がする。
「ふぅ・・・疲れたねぇ、お兄ちゃん。」
「ああ、ちょっと一休みしようか、ナミア。」
大まかな荷解きを終え、開店に向けて武器を立てかけていた。数日やって、やっと一段落してきたところであった。
「・・・それにしても、お父さん遅いねぇ・・・。」
「ん~あぁ、そうだな・・・ちょっと見に行った方がいいかな・・・。」
ゴールは明日からの開店に向けて、議会場で商売許可の取り付けにかかっているはずだ。そんなに許可申請に時間がかかるものだろうか? そうして、オレとナミアはそれから数時間経ったがゴールが戻ってこなかった為、店に鍵をかけて夜の王都にゴールを迎えにいくことにした。
「うーん、夜の王都ってちょっと怖いね、お兄ちゃん・・・。」
「あぁ、離れるなよ、ナミア。」
夜の王都は少し不気味な雰囲気がある・・・。もう少し明かりとか増やしたほうがいいのではないのだろうか?
「あっ! あの辺でちょっと何かあったみたいだよ、行ってみようよ!」
ナミアが指差した方は議会場の中、大きな広場になっているところに人だかりができていた。
「ん・・・でも、議会場の中だから、申請を出さないと入れないんじゃ・・・。ちょっと近くの人に話を聞いてみよう。」
議会場へ続く門の近くにいた人に話を聞いてみることにする。
「あの・・・何かあったんですか・・・?」
「ん、ああ。・・・何でも、地方から来た奴が商売の申請を取り付けに来たらしいんだが、その途中でランメルスベルク議員に会って口論になったようでな・・・。どうも口論の末、地方から来た奴が議員に手を挙げたとか・・・。」
・・・いやな予感がする。オレはすぐさま門に駆け込み、申請を取ろうとする。
「あ、あの、スイマセン! こちらの議会場内に知り合いが入ったようでして、緊急で中に入らせていただきたいのですが・・・!」
「ん、誰だ! ・・・ダメダメ、今は事件が起きているんだ! きちんと申請をしてから、後日改めてこちらに来なさい!」
門番は全く取りなしてくれないようだった。仕方なく、他に数人に話を聞き、夜が更けてきたので、ナミアを連れて家に帰ることにする。
「・・・ねぇ、お兄ちゃん。お父さん、大丈夫だよね?」
「あぁ、きっとゴールさんなら大丈夫だよ。」
オレはそう言ってナミアの髪を撫でる。きっと、ゴールさんなら大丈夫なはずだと自分の気持ちも落ち着かせながら。
・・・ゴールドストライクの処刑が決まったと知らせを受けたのは、その翌日であった。
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・・・後から聞いた話だが、事の次第はこうだった。商売の申請を取り付けたゴールドストライクは、同じ議会場内で商売の申請を取り付けに来ていた女性と、ランメルスベルグ議員が口論になっているのを見つけた。
ランメルスベルグ議員の自宅近くで商売を始めようとしていた女性に対し、平民のしかも地方民風情が貴族の家の近くで商売を始めるのは断固として認めることができないといったものであった。
ランメルスベルグ議員が女性を踏みつけ、手を上げるのをみて、ゴールドストライクが割って入る。それでも執拗に女性をいたぶるのを見て、ゴールドストライクがランメルスベルグ議員の頭を殴り、昏倒させたらしい。
正義感の強いゴールさんらしい行動であるが、マズイことにランメルスベルグ議員は今期の国会の最中であり、上院議員筆頭であったのだ。上院議員は元貴族から構成されており、司法権とも密接に繋がっている。そうした腐敗した政治が、ゴールさんを処刑するという結果になったらしい。
「ヒック、ヒック・・。な、なんでお父さんが・・・。」
「・・・・・・。」
知らせを聞いてから、ナミアは崩れるようにして泣きむせいでいる。
「・・・ナミア、ゴールさんの最後の面会だそうだ、拘置所へ行こう。」
「!! イヤだよ! なんで、お兄ちゃんも最後だなんて言うの! お兄ちゃんは悲しくないの!?」
ナミアが詰問するような目でこちらを見上げてくる。
「・・・ナミア。オレだって悲しいし、理不尽だと憤っているし、何よりまだ信じられない。だけど、ゴールさんが誰にも何も言えずに死んでしまうのは、ゴールさんが一番悲しむことだろう?」
「ヒック・・・・。」
ナミアは少し落ち着いてオレの話に耳を傾けてくれる。
「・・・オレは真実を知りたい。それに、ゴールさんに会いたい。伝えたいこともある。ナミアは一度も会えずにゴールさんとさよならしていいのか?」
「・・・イヤだ・・・。」
「そう・・・。なら、早く仕度をして行こう。」
オレとナミアはゴールさんに会いに、ゴールさんが拘束されている拘置所へ向かった。
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「・・・よう、遅かったじゃねぇかよ。」
多少ヒゲを生やして、少し窶れた風なゴールさんがそこにいた。
「ヒ、ヒック・・・お、お父さん、もう会えないなんてやだよう・・・。」
「・・・・・・。」
ナミアはゴールに会うとまた目に涙を溜め始めた。それは当然だろう、実の、たった2人の親子なのだから。
「・・・あぁ、なんでこんなことになっちまったのかなぁ・・・。そりゃ、オレは粗野なところはあるけどよ、間違っているやつは誰かが直さなきゃならねえだろ。殴るって手段は悪かったと思っている。でもそれで処刑とか、何かおかしいだろ・・・。あぁ、王都ってのはこんなにも政治が腐ってやがったんだな・・・。」
「・・・・・・。」
ゴールさんは諦めたようにオレに話しかける。ナミアは相変わらず泣いたままだ。
「あぁ、ライトニングリッジ。すまないが、ナミアのことを頼まれてくれないか。オリゃそいつだけが心残りでよぉ・・・。あいつが死んでから、オレが一人で育ててきた、自慢の愛娘なんだ。オレが居なくなってから、後を追われたり、路頭に迷うようならオレは死んでも死にきれねぇ。」
「・・・はい、約束します。ナミアはオレが何があっても守ります。」
ゴールさんはナミアのことを本当によく想っている。地方遠征のときもナミアとの思い出ばかり話していた。
「なぁ、ナミア。泣かないで笑っておくれよ。それで、オレを幸せな気分にさせてくれ。」
「!! ・・・はい、お父さん・・・。」
ナミアは目に涙を浮かべながらも、必死で笑った顔を作り、父親に見せていた。
「ナミア。お前はオレの自慢の娘だ・・・。ほかの誰が認めないとしても、オレはお前の良さをしっかり分かっている。お前は自分に自信がないかもしれないが、もう立派な大人だ。リッジと支えあって生きて、絶対に幸せになるんだぞ・・・!」
「はい、お父さん・・・。」
それだけ言うと、ゴールさんはふっと優しい顔に戻った。
「・・・なぁ、リッジ。お前が来てから半年ちょっと、オレはすごく楽しかったぜ。お前がいるからナミアのことも心配することなく、いくことができる。店のこと、ナミアのこと、ヨロシクな。」
「・・・はい・・・。」
ゴールさんの言葉を聞くと、オレもナミアと同じで涙が止まらなくなってしまった。
・・・そうして、ゴールさんとの面会時間が終わった。
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「・・・お兄ちゃん、これからどうするの・・・?」
ナミアが呆然とした顔でオレに問いかける。
「・・・王都の店は一度閉鎖して、セルティックに戻ろう。まずは、ナミアもオレも心を落ち着ける時間が必要だと思う。」
オレもナミアも正直、いっぱいいっぱいだ。これからどうしていけばいいのか、ゴールさんがいなくなって空いてしまった穴は大きい。それでも、オレは心に秘めた思いが一つだけあった。
(オレが、この国の腐れきった政治を変えてやる・・・! ゴールさんのため、ナミアのためにも同じ過ちを繰り返してなるものか・・・!)
オレは自分の持てる力全てを使って、この国の政治を変えることを決意した。