お父さん
・・・ナミアのお父さんが帰ってきた。
ナミアに介抱されてから早1週間。ナミアの家は武器屋をやっており、その手伝いなどして暮らしていたオレであるが、地方に武器を購入しに行っていたナミアの父さんが帰ってきた。
「おぅ! ただ今帰ったぞ、ナミア! 元気か!?」
「お父さん! おかえり!」
店先の玄関で、親子が抱き合って再開を喜んでいる。ナミアの父さんが出て行ってから2週間ほど経っていたらしい。
「すまんな、店番を任せきりにしてしまって! ・・・ところで、そいつが例の男か?」
「うん! リッジさんって言うんだよ! 記憶喪失みたいで、今は店番を手伝ってもらってるんだ!」
ナミアは手紙でオレを介抱したことをお父さんに知らせていたようだ。お父さんの容姿は身長はオレより少し低いくらいだが、体格がかなり良く、ファンタジー世界でよくあるドワーフみたいな格好をしていた。
「ふーん、リッジねぇ・・・。」
「は、はじめまして。ライトニングリッジと申します。この度はた、大変お世話になっております!」
お父さんが睨みつけながら、オレの顔を見る。怖い!怖いですよ、お父さん! 年頃の娘を一つ屋根の下で暮らしていた、どこの馬の骨ともしれないオレが気に入らないのは分かるけども!
「・・・うん! ナミア、お前が言っていた通りのヤツのようだ! ガハハ!」
お父さんは陽気に口を大きく開けて笑いながら、オレの肩をバシバシと叩く。
「・・・? ど、どういうことでしょうか?」
オレが疑問を声に出すと、それにナミアが答えた。
「リッジさん。私もそうだけど、お父さんは昔から武器と人を見る目だけは確かなんだよ。それで商売してるようなものだから。」
「そういうこった! ヨロシクな、オレはゴールドストライクだ。ゴールと呼んでくれ!」
ゴールさんはひたすら陽気な人なのであった。
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翌朝、オレはゴールさんとセルティックの鍛冶屋に来ていた。鍛冶屋といっても、商店街みたいなもので、小さな小売店が連なり、鍛冶をしつつ武器を売っているらしい。
「ガハハ! この辺にも意外と侮り難い掘り出し物があることがたま~にあるからな! こうしてセルティックに戻ると必ず顔を出すのさ!」
「はぁ、そうなんですか・・・。」
何げに初めてセルティックの町を歩く俺であったが(1週間の間は、店番が忙しく余裕が無かったのだ!)、初めて歩く町が可愛いナミアではなく、いい年のおっさんととは。トホホな気分が拭えない。
「なんだ! 元気ねぇな! 若いうちはもっと元気がなければナミアはやれんぞ!」
「いやいや、そういうつもりはないですって! ゴールさん!」
ナミアはあくまで可愛い妹なのだ。・・・なんだか、ナミアと接していると懐かしい気持ちにもなるし。
「ガハハ、まあいい。・・・おっと、目的の店に着いたぞ。」
ゴールさんが立ち止まる。そこはこの辺りではそこそこ広い鍛冶屋であった。店内にところ狭しと、あらゆる武器・防具が置いてある。
「いらっしゃいませ。本日はどういったご入用ですか?」
受付らしき素朴だが可愛い娘さんが声をかける。
「おう、何か掘り出しもんはないかとな。何か新しく入った品はあるか?」
「それでしたら・・・」
ゴールさんと受付の娘さんが話始めた。・・・手持ち無沙汰だな、オレ。
(ん?そういえば・・・)
ふと思い出したが、オレのスキル『選出』はこんな時にも使えるのだろうか? ちなみに、1日1回の制限はあるが、あのビー玉の後も何度が実験してみたが、見事に百発百中であった。
(よし、素晴らしい武器を探してくれよ!『選出』!)
頭の中で強く念じると、店の奥に立てかけられた、一本の黒いオノが意識に浮かんだ。
「・・・コレか? なんか、素晴らしい武器には見えないんだけど・・・。」
オレが近くまで行き、黒いオノを持ち上げたが、あちこちボロいし、それほどいいものには思えなかった。まぁ、ゴールさんなら良いものかどうか分かるだろう。
「・・・ゴールさん、これなんかどうですかね?」
「ん、なんだ、リッジ。気になるものでもあったのか? どれどれ・・・。・・・!!」
ゴールさんは黒いオノを見て、目を見開いている。え、そんなにヤバイものだった?
「・・・お嬢ちゃん、こいつはいくらだい?」
「はい、500ゴールドになります。」
「・・・よし、今日はこいつを貰っていく。」
ゴールさんは会計に向かった。買っちゃうの!? これでホントにただボロいオノだったら、申し訳ないんだけど・・・。
「・・・よし、行くぞ、リッジ。」
「あ、は、はい、ゴールさん。」
ゴールさんは黒いオノを購入して足早に店を出る。付いてこいと言われ、少し離れた裏路地までゴールさんに引っ張られた。
「・・・さてと、この辺でいいだろう。単刀直入に聞くぞ、リッジ。お前はこのオノのことを何か知っていたのか?」
「い、いえ、何となく頭に閃いただけです・・・。」
スキルのことをまだ言うわけにはいかないだろう。
「そうか・・・いや、このオノはな、こうするとっ・・・!」
ゴールさんが黒いオノを高く掲げると、バチバチと紫色の電気が走ったような気がした。
「・・・リッジ。こいつは『霊斧イカヅチノミコト』。雷の魔法を使うことで化ける魔斧なんだよ。」
「・・・・・・。」
電気が走った後のオノは黒いオノではなく、青みがかったオノになっていた。オノからゆらりとオーラが立ち上っているのが分かる。
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『霊斧イカヅチノミコト』 攻撃力153 雷弱点の敵に絶大なダメージ。
かつて神が造ったとされる幻の一振り。全てを穿ち、霊すらも屠る魔斧。