能力
・・・事情はまだいまいち分からないが、オレはどうも神様から選ばれて違う世界に来てしまっているらしい。
「ライトニングリッジさんですか・・・。リッジさんとお呼びしても?」
「・・・いいですよ。」
ナミアははにかみながら笑顔を向ける。まぁ、親切な人に介抱されたみたいで良かったな。・・・美人だし。
「ところで、ナミアさん、ここはどこなんですか?」
「うぇ!? ・・・前に言った気もしますけど、セルティックの町ですよ。もしかして、それも忘れちゃったんですか?」
ナミアはやや悼むような表情でこちらを見る。・・・ころころ表情が変わる人だな。
ナミアの説明によると、この町はヴェール大陸のほぼ中心にある、比較的大きな町なのだそうだ。
「セルティックの町・・・。それはそうと、今僕はその、お金とか持ってなくて・・・。」
ちょっと情けない気持ちになりながら、ナミアに相談する。よくよく見ると、ナミアは美少女だがオレより年下かもしれない。ちなみに、オレは自分の年齢も分かりません(多分20歳くらい・・・)。
「あぁ、心配は要りませんよ。うちは商人の家ですが、そこそこ余裕もありますし、この大陸にはお互いに助けあわなくてはならない慣習がありますから。」
ナミアのその言葉を聞いて安心する。あまり長く世話になるわけにはいかないが、当面は衣食住の面倒も見てもらえそうだ・・・。
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ナミアが部屋を出てから、オレは少し考える。
(さて、少しずつ状況は整理出来てきたけど・・・。)
オレはつまり、神様にこの世界へ移動されて、ライトニングリッジ(なんという中二ネーム!!)という名前でこの世界で暮らさなければならないらしい。
(まずは、お金を稼ぐ手段を見つけてからだな。・・・そういえば、スキルをもらった気がする。)
意識すると、頭の片隅に先程の文字が再び浮かび上がってくる。
Lightning Ridge (ライトニングリッジ) Lv.1 スキル『選出』
(『選出』かぁ・・・。どんな能力なんだろう・・・。名前だけ見ると、選び出す、って感じの能力だろうか?)
スキルに思いを馳せる。これも一応、神様からもらった能力なんだよな・・・。すると、頭の片隅に新たな文字が踊った。
スキル『選出』
1日1回使用可能。使用する場合は心の中で『選出』を強く意識する。
効果は、有りとあらゆる事象の確率を無視し、自身若しくは自身の望むものを選び出す能力。
(・・・神様の言葉もそうだけど、この能力もめっちゃ分かりづらい! というか、スキルとかゲームみたいだな・・・。今更だけど。)
イマイチ分からないが、まずは使ってみるのがいいだろうか・・・。何げに、確率を無視するって、神様らしいチートな匂いがするぜ。
(うーん・・・適当なものは・・・)
ナミアにあてがってもらった部屋を見渡す。ふと目に入ったビー玉?らしきもの10個と花模様の花が入っていない花瓶があった。
(よし、これをこうして・・・)
ビー玉の一つにポケットに入っていた日本製マジック(水性)に「リッジ」と記入し、他のものと一緒に花瓶に入れて、『選出』!と念じつつ、一つのビー玉を取り出す。
(・・・!! マジかよ! ・・・いや、偶然か?)
一つ選び出したビー玉は、「リッジ」と記入したものであった。
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それから数日、ナミアの家の手伝いをしながら、生計をしていた。ナミアの家は、剣や槍なんかの武器を中心に地方の卸屋から購入し、それを売り捌く武器専門の小売店のようであった。
「いらっしゃいませ!! ・・・ほら、リッジさんも声を出して!」
「い、いらっしゃいませ!!」
オレは今、ナミアと一緒に店の受付をしている。・・・自慢ではないがどもり具合から、オレは以前コミュ障であったに違いない。
「ありがとうございました!! ・・・ふぅ、今日のお店はこれでおしまいかな。リッジさんがいてくれて助かったよ。」
「いえいえ、オレなんかそんな役に立てなくて・・・」
オレはほとんど店番をしていただけだ。・・・ナミアの家は、ナミアのお母さんが早くに他界し、現在、ナミアとナミアのお父さんが店を切り盛りしているらしい。最も、ナミアのお父さんはほとんど地方へ武器の仕入れに行っており、店はナミアに任されている状態のようであるが。
「ううん、私一人だと、全然休憩もできなくて、すごく助かりました!」
「そ、そういってもらえると嬉しいけど・・・。」
この数日の間に、ナミアとは大分打ち解けた。聞けば、ナミアは今年で15になるらしく、妹みないな存在になってきている。・・・もしかしたら、以前のオレにも妹がいたのかもしれない・・・。
「・・・? リッジさん、大丈夫・・・?」
ナミアが心配そうに見つめる。オレは時々、以前のことを考えてしまうので、少し心配かけてしまっているようだ。
「なんでもないよ、大丈夫。」
「そう? じゃあ、晩御飯の準備に移っちゃうね。」
そう言いながら、ナミアはどこか嬉しげにキッチンへ駆けていった。