勝負
「オレは今度の選挙、王都から出馬する。」
第52回議員選挙が1ヶ月後に控えた夜、ゴルコンダ、アーガイル、そしてタウトナという若い男が集まっていた。
「代表! それは無茶ですよ!」
タウトナがオレに向かって叫ぶ。タウトナはヴェール大陸の最北端で最年少で下院議員となった頭の切れる男だ。
「そうだな、タウトナの言うとおりだ。ライトニングさん、貴方は我が等の代表なんだ、ここで負けてもらうわけにはいかない。ゴルコンダさんもそう思うでしょう?」
「・・・・・・小僧、何か勝算はあるのか?」
アーガイルは心配そうに、ゴルコンダはオレを睨みつけるように見つめる。
「もちろん、勝算が無くてはこんなことは言いませんよ。絶対にランメルスベルグを討ってみせます。」
「・・・・・・そうか、お前がそう言うなら、わしは何もいう事はない。」
「そんな!! アーガイルさんは反対ですよね!?」
「・・・タウトナ、代表がこういったらもう聞かないだろう。今までだってそうだったんだ。私は彼を信じることにするよ。」
「そんな・・・。」
ゴルコンダ、アーガイルはオレが十分に勝算があると見て・・・いや、オレを信頼してくれているから、反対しないのだろう。
「代表・・・僕にはあなたを止める権限はありませんが、僕は王都の出身です。あそこでは下院は絶対に上院に勝つことはできません。いえ・・・勝つことはできなくなりました。あの、ランメルスベルグ議員が手を回してしまったから・・・。きっと彼は、今回もありとあらゆる手段を使って、妨害してくるでしょう。それでも、王都から出馬するんですか?」
タウトナがオレを必死に説得しようとしている。
「タウトナ・・・お前はまだ若い。しかし、状況がよく見える賢い男だ。だからこそ、その年齢で民衆の信頼を得て、下院議員になれたのだろう・・・。だが、オレもここは引くことはできない場面なんだ。ここで臆すれば必ず負ける。そういう、我々にとっての分水嶺、瀬戸際なんだよ。」
「代表・・・・・・。」
タウトナはオレを説得することは諦めたようであった。
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「ねぇ、これで最後なのかな・・・。」
ゴルコンダらが帰った後、オレはナミアと食卓を囲む。
「いいや、ナミア。これが最後なんじゃない、始まりなんだ。ゴールさんの敵はオレが取る。そしてナミアも絶対にオレが幸せにする。そのために、ランメルスベルグを倒すことはその始まりなんだ。」
「でも、お兄ちゃんの力でも、王都は流石に無理だよ・・・。他に何か手段があるの?」
ナミアは心配そうな目で見つめる。
「・・・いいや、手段なんてない。いつも通り、神様からもらったこの『選出』の力でオレが政治の頂点に立つだけだ。・・・なぁナミア、オレは今まで、どうしてこんな力を神様からもらえたのかずっと不思議だったんだ。多分だけど、オレはこの世界とは別の世界から来た。そうして何も分からないところを、ナミアに助けられた。それからは、ずっとナミアと一緒に店を出して、商売に励んで、旅に出て・・・そうしたなにげないことがすっごく楽しくてさ。」
「お兄ちゃん・・・。」
「でもオレは、こんなにズルい力を使って、ズルいことをしている。これからもこの世界を変えるために、このズルい力を使うだろう。・・・でも、それはお前がいるから使えるんだ。お前がいるからこそ、お前がいざとなったらオレが間違ったら止めてくれると思うからこそ、オレはこの力を使える。つまり・・・その・・・オレはお前が好きで、お前のためにこの力を授かったんじゃないかなって思えてさ。」
「・・・・・・。」
「はは、なんだかまとまりなくてごめんな。でもこれだけは言える。オレはナミアに凄く感謝している。そして、世界一幸せにしたいと思っている。そして、オレはそのための力を授かった。なら、負ける道理はない。愛しているよ、ナミア。」
「私も・・・愛しています。」
そうして2人の夜は更けていった。
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第52回議員選挙の日。オレは最大限の力で望む。一方、ランメルスベルグ城では。
「ハハハハハハハッ、勝った、勝つ以外の未来が全く見えない!」
ランメルスベルグは高笑いを続けていた。
「フフフ・・・この日のために、私財を費やして王都の有力者を更に増やし、忌々しい庶民どもの批判を徹底的にしてやったわ! これで奴らは票を獲得するどころか、王都に入ってきただけで石を投げつけられる始末・・・! フン、このランメルスベルグも奴らを大きく見すぎていたようだな。」
ランメルスベルグは私財を投じ、さらに王家のコネまで使って今回の選挙を磐石に固めていた。
「フフフ・・・そろそろ開票結果が出る頃だな・・・どれ・・・。」
投票結果が出て、使いの者が報告に来るのを待つ。
「ン、来たか・・・。」
外が騒がしくなり、使いに出していた若い女が戻ってきた。
「ラ、ランメルスベルグ様、と、投票結果が出ました・・・!」
「どれ、聞かせてみろ。」
若い女は何故か真っ青な顔をしてランメルスベルグを見る。
「と、投票結果は、ランメルスベルグ領のほぼ半数以上がライトニングリッジ議員に投票。ぎ、議席は143議席中、113議席が下院、30議席が上院のものとなりました・・・!」
「ハ? バ、バ、バカなぁ~!!!! ふ、ふざけるな!! 我が領の半数が離反だと! 一体どうなっている!!??」
「と、投票につきましては陛下も確認いただいておりましたので、ま、間違いはないかと・・・。」
「フ、フザケルナァー!!!!!!」
「!!! キャアアア!!!」
ランメルスベルグは狂乱して若い女を思いっきり殴りつける。
「く、くそが・・・! このオレはランメルスベルグ上院議員代表様だぞ・・・! いずれこの大陸全土のトップに立つ者! こ、こんなところで・・・・・・!!!」
城の中では、ランメルスベルグの絶叫だけがいつまでも響いていた。
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結果として、下院は第52回選挙で初めて全議席の過半数を超えることができ、大陸議会が始まって初の政権交代がなされたのであった。
そして、ライトニングリッジ代表は第52回内閣総理大臣に任命されることとなる。