RIAα3
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結果から説明しようじゃないか。
"nonameは過去に飛んだ。"
彼の計算が正しければ。
理論上、光のスピードを超えることができたなら、人は過去にさかのぼれるのだという。未来に行くことは不可能だ。現実は一つしかなく、ベクトルも一つしかない。
それには人を乗せるキャリアが光の速度を超える必要がある。
しかしながら、人間の重さを考慮しても、そのキャリアが光の速度を超えることは難しい。どうにかして、人の体重だけでも軽くしないといけない。
nonameはその問題について、一つの可能性を提示していた。
奴はそのアイデアを出す代わりに、実験体になりうる先着券を得た。実験体になる権利を真っ先に得るということは自滅行為にすぎない。
でも、もしも、その技術が確立していたら? その技術が信頼に値するレベルのものであったなら?
"実験が成功してしまったなら?"
そのときはnonameを賞賛せねばならない。彼は世界で初めて時間旅行に成功した人間として名前を残せるのだから!
調査員が井上の部屋を捜索し、特に何も成果を得られず、肩を落として去っていってしまった後で、彼は腹を抱えて笑い声をあげる。
nonameやっぱりお前は最高にイカシた野郎だぜ。名前を捨てたのに、この世に名を残すだなんてさ!
肉体には重さがある。
精神には重さはない。
二つを分離させてしまえるVRMMO「BOOK」の機能にお前は誰よりも先に気がついていた。
タイムスリップすること。お前がどうしてもBOOKを取り戻したかったのは、ただ完全世界にいくことではなかった。お前ははなから移動そのものを目的としていたんだ。
BOOKに意識を預けながら、そのハードを時間移動させたならどうなるか?
意識は一体全体どこに宿ることになるのか?
極秘機関とされているBOOK。
それを公にしたくない奴らはそれそのものが消えたことについて、どういう対応をとるだろうか? 手のひらを返して、存在を消滅させるか?
タイムスリップについても同じことがいえる。
そんな危険な人体実験をどこの法律が許す?
「法律は人のやったことを許しはしないさ。許すのは人だ」
最高にイカシた奴だぜ。
なぁ、タイムスリップは成功したかよ?