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RIA  作者: aoto
3/9

RIAβ1


 ナルとは幼なじみの関係だ。

 父母が見せてくれた写真の中には、同じ赤ちゃん姿の二人が駕籠に並んで入れられているものがある。きっと同じ写真が、彼の家にもある。


 小学生にあがるまではよく一緒に遊んだ記憶があるのだけれど、異なる小学校に進んでからは疎遠になってしまった。

 たまに出くわしても"ああ"とか、"うん"といった、ものをぶつ切りにしたあとにでる吐息のような言葉しか交わさない。


 時間というものは不思議なもので、彼とは疎遠になったけれども、人生のスタートラインをともに過ごした友人の一人として、彼の一番大事な核のような部分を私は知ったつもりでいるのである。


 きっと、そういう核となるものはそう簡単に損なわれる種類のものではなくて、だから、彼が二次元の世界に行ってしまったときも、ただなんとなく、漠然とした認識の中で、

「彼ならそうするだろうな」

 と納得してしまったのだった。


 久しぶりに出会う彼の性格は暗く変わってしまっていた。彼を変えてしまったものがなんなのか、私にはわからない。昔のように、ちょっと手を握ったりなどして、二人並んで座ってさえいれば、何かしらのとっかかりを見つけることができるのだと思うのだけれど、思春期を迎えた私たちは素直になれずにいた。

 ぼう、と大きく胸が腫れ上がるような、圧迫感を覚え、どう接していいのか全くわからなかった。


 そういえば、幼い頃は言葉など必要としていなかったかもしれない。


 私たちの地域には祭りがある。

 

 二次元と三次元をつなぐ役割をもっている、今では数少ないイベントの一つだ。三次元の人々は作り物の世界に恋いこがれ、幻想に寄り添い、一つのドラマになりきる。二次元の人々はリアルな空気が知りたくて、もの試しに現実世界に顔を出す。ここでならば、自分の居場所を表現できる空間もあるのだと。

 そのように、社会不適合なナルは説明していた。


 男が刺されたとき、真っ先に疑われたのが彼だった。

 さまざまな人の口から噂は飛び交った。私の最終的な見解は、彼はそんなことはしない、というものだった。

 うまく説明はできないけれど、ただなんとなく、そんな気がするのだった。

 幼馴染だから。

 人々はそんな理由で納得してはくれないのだけれど。


 祭りの事件が解決したのは、彼が「RIA」の世界に旅立った後のことだ。以来、彼は植物カプセルの中でぐっすりと眠っている。


「ミコトちゃん懐かしいわ」

「野絵子おばさんこそ久しぶり」

 お見舞いにいくと、野絵子おばさんが出迎えてくれた。おばさんは明るく、世話好きで、頼もしい人だった。

「全く、ナルときたら」

「いいんですよ」

 おばさんの性格と本質とは異なるのだろう。野絵子おばさんの顔はやつれていた。強がっていても、本当のところは成海を心底心配しているのだ。

「何か、こいつから聞いていたこと、とかなかった?」

 なかったわ。私はうそを言った。

「ずっとこの調子ですか?」

「そう。私には全くよくわからないわ。こいつの考えていることもわからないし、もう、わからないことだらけよ」

 私は野絵子おばさんの肩を支えてあげた。

 時間というものは本当にすごい。おばさんの肩は、私が成長した分、小さくなっていた。

 肩ごしに幼なじみを一瞥する。


"こんな役を押しつけやがって"


 幼なじみの顔に浮かんでいるものは、幸せとも煩悶ともいまいち判別がつかない。

 あのころに生きていた幼なじみは、どこか遠くの方にいってしまっている。あの時代の彼のことならなんでもわかるのに、今の時代の彼となると、私には全く分からない。何もわからない分、失った差額を計り知ることができる。


 きっと君の見せている"幸せ"な顔は本当に本物なんだろうね。三次元におけるこの状況を表しているのか、大好きな二次元を満喫しているのか、それさえもわからないのだけれど。


 私はツカツカと彼の眠るカプセルに近づくと、そのプラスチック越しに、一度大きく頬のあたりをぶってやった。

「ミコトちゃん!」

「心配ないわ。おばさん。こいつはもうじき帰ってくる。私が帰らせてみせる。今のはおばさんの分。目を覚ましたときが、こいつの最後。私の本気がナルの脳天直撃するんだから」

 ふふ、とおばさんは笑ってくれた。

「ミコトちゃん。帰って早々、最後にされたらかなわないわね」

 私はピースをして、自分の部屋に直行した。


 ごめん。おばさん。

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