RIAα1
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「noname」
名もなき作家が世界を紡ぐ。
井上はnonemeと待ち合わせをする。
おまえのやっていることは価値ないことなのだ、といいかげん気づかせてやるつもりだった。
世界は広い。国内旅行を思う存分行うだけでも、一年という日々は短すぎる。
部屋に閉じこもってばかりのこいつはもう少し、外の世界をみるべきなのだ。
nonemeは相変わらず浮き世離れした格好で井上の前に姿を現す。ポンチョを羽織り、下に黒タイツを履いている。選んだブーツの先はとがり、悪魔的に見える。
「もう少し、格好に気を配れよな」
「悪いな。運命の蝋燭について一晩考えていた」
おまえのそういうところ嫌いじゃないよ。井上はnonemeの肩をたたいてやった。
運命の蝋燭について一晩考えることのできるお前はやっぱり最高にイカした、いかれ野郎だ。
「例えば、人間の一生というものは蝋燭の長さによって決められていると仮定する。炎が強ければ強いほど、蝋燭ははやく溶けていくが、その分、強い灯りを放つことができる」
「男は太く短くだよな。分かるよその思想」
「井上は大事なことを見逃している」
「大事なこと?」
「一人の蝋燭が大きく燃え上がったとする。するとその場の気温はあがるが必携。ならば、近い空間にいた別の蝋燭もまた、その飛び出た炎の熱によって溶かされていくのが自然だろ?」
やっぱりこいつは最高だ。誰がそんなことを思いつくことができるって言うんだ。
「暑苦しいやつが側にいるだけで、人間の寿命はすり減っている、と言いたいんだな。一理あるよな。近くにいるだけで疲れるもんな」
「だからといって、炎を小さくすれば運命が長くなる、というわけでもない。炎が消えると、蝋燭は溶けずに残る。けれど、蝋燭としての役割は終えてしまっている。死に際の炎が一時復活するのを見たことがあるか?」
「ないな」
「人が生き返るのはそのときだよ井上。蝋燭が増えるんだ。溶けた蝋をもう一度束ね、新たな蝋燭が生まれるんだよ。井上もそういう体験をしてみるといい」
「そうしようと思ってたところだよ」
井上はnonemeを連れ立つと、駅に向かった。
「お前の蝋燭は死んでいた」
「俺の蝋燭は内側からもえているんでね」
「いや、関係ないし」
nonemeが嬉々として現れたのは旅行から戻った数日後だ。
「やっと完成したぞ。RIAの世界。僕が描いた。ソフトとして認められたんだ」
「よく審査が通ったな。おめでとう。素直にお祝いするよ」
「ありがとう。RIAの世界は僕にとって特別だからな」
「実用化はいつだ?」
「近いうちにということだった。安全性が認められると、俺もあの世界にいく」
不適合者を半数かかえた機関の出した答えは一つだ。
開発を延長する。
それにともない、新たな世界観をここに求める。
nonemeがBOOKを取り戻そうとしのびこんだのはその日の夜だった。