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フィクション

作者: 笑わない猫


スマートフォンからの投稿ですので段落がつけれてません


申し訳ありません

一言でいえば、好きだったのだ。




いや、なんのことはない。

私が彼に恋をした、愛した、嫌った、軽蔑した、どんな現象であれ、私が好きだったのは変わりない。


黙ったところで何かなるわけでもなければ、喋ればどうにかなる事でもない。


告白にもならなければ、別れの言葉にもならない。


私が口にした言葉全部、そういう風に飲み込まれる。



彼が、私が。

漫画の中で生きてるとして、


いや生かされているとして、


それでもただのモブキャラにすぎない。


彼も、私も。


どう足掻いたって主人公じゃない。



けれども、


モブキャラ同士のイベントもないわけではない。

実質それがどれほど愉快でも、悲惨でも、物語に支障は無いし、どうにでもなるご都合問題。

ノープロブレム。


だから私が彼を好きだとして、なんの問題もないのだ。


口に出さなくても


出しても



ノープロブレム


いや、


フィクションだ」


「僕はフィクション好きだけどな」


そんなご都合主義な彼が言った。

呑気に冷たいこの屋上のタイルに寝転びながら、彼は続けた。


「だって、なんでも作り出せるんだからね。まったく、脚本作りなんて神様の特権そのものだとおもわねぇ?」

「おもわねぇ」


そんな勝手な彼の言葉を勝手な言葉で私は切り捨てた。

彼はそれでも大してなにかあるわけでもなく、眉毛を片方あげるだけだった。


「ところで」


彼はふと今思い出したかのように声のトーンを上げた。

寝転んだ姿勢はそのまま顔だけ少しこちらに向けて屋上のフェンスの上に座る私を見た。


「なんだよ」


もちろん、私の後ろには何もない。いや、何もないわけではない。

多少汚れた空気があるだけで、その下にはコンクリートの道が舗装されている。

このまま後ろに体重をかけて逆さまに落ちれば、無事に死ぬ事ができるだろう。


「そろそろそこからおりてくれないねぇ?」

「後ろ向きにおりていいなら良いけど?」

「バカ言うなよ。それだと降りた時に舞いあがるスカートの中が見えねぇじゃねぇか」

「なんでそんな男の馬鹿な欲情に付き合わないとダメなんだ」


ちぇ……と彼はため息をついた。

決して本気で私のスカートの中を見たいわけではないだろう。

なんだかんだいいつつ私をこの場から下ろしたいのだ。まったく、なんて、わかりやすい。


「何色?」

「白」

「なんだそれ、色気ねぇな」

「白が一番受けがいいのよ」

「学生なら確かにそうなのかもなぁ」


よくまぁ、レディーの私に向かってそんな話題を振れるものだ。

いや。私だから振れるのかもしれない。


なにもかもが、嘘で、フィクションで。

だからこそ、言える事なのかもしれない。


「お前はノンフィクションが好きなのか?」

「嫌いに決まってる」

「あ?」

真実ノンフィクションなんて、嫌いよ」


それならば、凝り固まった嘘の方が好きだ。


「なら、なになら良いんだよ」

「さながら真似事ファンフィクションね」

「それのどこがいいんだよ」

「元々からしっかり土台があるのは凄く楽なのよ」


相変わらず寝転び続ける彼を見ながら私は大きく上半身で伸びをする。

「んー」とつい声が漏れる。


「せっかくそんな声出すならもっと色っぽく出せよ」

「バカじゃん」

「うっせーよ」


でも、彼がこうしてきてくれた事に関して、私はかなり嬉しかった。

そりゃ、今から行うフィクションの邪魔をされてしまうことを思えばかなり邪魔臭いものだけど。

紛いなりにも惚れてしまっている私にとってはかなりよいシチュだ。

屋上で二人きり。ときめくシチュだ。ときめきメモリアルだ。


「まさしくそれもフィクションだ」


そう、そんなことがあるはずないじゃないか。




フィクションなんだよ」



屋上に駆けつける人なんていないし、私は変わらず一人きり。

一人フェンスに腰掛けるかわいそうな悲劇のヒロイン。

いやいや、モブキャラでした、申し訳ございません。


結局、生まれて、泣いて、笑って、ハイハイして、食べて、飲んで、立って、歩いて、喋って、走って、喧嘩して。

全部全部、真実ノンフィクションで、最初から最後までフィクションだ。


私がここで泣いたところでそれは誰にも気づかれないし、高笑いしたところで誰も気づかない。

結局のところ私はフィクションで、なにもかも無かった幻想の脚本の中の、漫画の中のモブキャラで、

うっすらと消える存在なんだ。


なんの価値もなく、きっとできないことで終わるはずの人生フィクションに楽しみを考えるなら、わたしは何を選ぶだろうか。


真実ノンフィクションなんて懲り懲りだ。

お断りだ。

いっそフィクションにまみれた人生を送りたいものだ。



「ということで、さよならバイバイ」


そんな妄想しながら私はフェンスの奥へ落ちるのだった。





「そうそう、これもフィクションさ」



そう、何でもかんでも口にすればそれは嘘になり真実になり、真似事になる。

歴史に名を馳せる偉人どもは、みんなみんな真実ノンフィクションフィクションに溢れている。


そして私のようにフィクションを愛する馬鹿な人間も出てくるのだろう。



そして、




「彼みたいにフィクションを打破しようと突っ込んでくる脚本家ぎぜんしゃも、出てくるわけだ」



目の前の彼にそう告げる。


「うん」


なんて。


返事をしてくれるフィクションが起こるわけもない。

これは真実ノンフィクションで、フィクションにまみれた真似事ファンフィクションの完成系。



「私ね、彼のことが好きだったの」


こうして口にしてもほら、彼は答えないのだから。


結局、同じなのだ。


黙ったところで何かなるわけでもなければ、喋ればどうにかなる事でもない。


告白にもならなければ、別れの言葉にもならない。


私が口にした言葉全部、そういう風に飲み込まれる。

だって全部全部




フィクションなんだから。



そんな言葉も、脚本も、


私が次目を覚ます頃には


真実ノンフィクションに変わってるはずだからさ。



あーぁ


やはり私には脚本作りはできない。




ある県立高校の一角の屋上で


そこの学生の惨殺死体


その高校の下の歩道で


そこの学生の自殺死体



まったく本当に


フィクションのような真実ノンフィクションだ。



まったく本当に、どうしようもないほどに

人はみんな彼のように




脚本を作りたくなる。





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