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プロローグ

遥か天の先からゆらゆらとゆれながら白色の冷気を持った粒がうっすらと白みがかった

大地に降り積もっていた。鼻息すらも白色に変わる冷気に満ちた世界、それは冬の寒い満月の夜だった。

人気のない人の立ち入らない深い森の中で小さな少年は大きな白色の何かを見つめそして息を吸い込み響く声で叫ぶようにして口を開く。


「僕が勝ったらお前は僕の子分に、僕が負けたらこの森は諦める。それでいいんだな!?」

「構わなぬ」


 深みのある声に重々しく伸し掛る存在感、何百年も生き続け人や獣たちを見守ってきたその存在は

大きく首を動かし頷く。しかしその姿は優しさなど微塵も感じさせはしない。それは姿ゆえなのか神獣だからなのかとにかく

それは自然界に存在しない巨大で絶大な力を持つ存在。一見して白熊に近い外見をしているが目は黒ではなく白く獣独特の野性味も持ち合わせてはいない。

少年はそんな存在を見つめ白く伸びた銀色の髪を一瞬宙に揺らせながら手に握る木の棒を前へと突き立てる。瞬間、少年は片足を勢いよく蹴り出し前へと加速した。


「僕は最強、この世の王となる器、神だろうがなんだろうがこの手で屈服させ全てを手に入れる!」


 少年のその活きのいい声に白き者も両手を地面につけ体を前へと加速させ地面を蹴り上げ音を立てながらさらに早く素早く走り出す。

 それは一瞬の出来事だった。めくるめく振りゆく雪の粒が眼球に触れ消えていくそんな一瞬、肉をたたくような鈍い生々しい音が耳に響いた。

 瞬間、背後で何かが倒れこむ音が聞こえ少年はひと呼吸置いてその方向を見据えると再び棒を前へ突き出し弱々しく倒れこむそれに勝ち誇った声で言った。


「これでこの町は僕の物、今日からおまえはぼくの下僕だ」


 それは本当に本当に昔の記憶、まだ小さく幼かった頃の記憶。

 彼、野神龍一が小学生だった頃の幼い未熟な頃の記憶。あれから6年彼は後悔していた。

 あの日、あの後に交わした約束を彼は後悔していた。


 それはある夜、ある晩の出来事、人は眠りにつき多くの民家で灯りが消され明日に希望と絶望を抱く深い暗闇の夜。

 太陽の上がっていないそんな闇の統べる刻、人とは違う獣とも違う者たちが人里はなれた御社の前に闇がうごめくようにして集っていた。

 その数おおよそ二千、大きな者や小さき者、体に火を纏う者や骸骨だけの姿の者までその種は色とりどりだった。

 彼らは日本で古くから浮世絵などで描かれ夢小説などで語られてきた日本にいるとされている妖怪たち、そして幽霊と神々の使者たちだ。

 この土地、熊野市は古くから多くの神が存在し各地に複数の神社が設けられている妖怪にも人間にも神々にも重要な土地とされてきた。

 そんな熊野市の外れにある山の奥深く、通常の人では踏み入ることが出来ない大きな結界の中に存在する本当に小さな形をした御社の前に

 熊野市に存在する大半の妖怪と神々、そのほかにも彼の地より訪れた妖怪や神々が集まり御社の前に座り込む一人の若い青年を監察するようにして

 その場に鎮座していた。そんな彼らをめんどくさそうに欠伸をしながら竜一は眺める。時刻は丁度2時、丑の刻。人々が活動を停止し眠りにつく頃

 闇を統べる者たちは活発に動き出す。


「えぇーと俺がこの町、熊野市を管理し始めて6年、人を食らわず人を襲わず、迷惑をかけない。その約束を守れた君らはとても偉い。だから今日はそんな君たちに

 褒美を使わせよう」


 黒色の目、黒色の髪、黒色の学生服、すべてが黒く白く見えるのは肌の部分だけ、前髪で片目が隠された青年。その手には武器もなく

 戦う術など持ち合わせていないであろうそんな彼を多くの妖怪や神々がその言葉に耳を傾け声を発した。竜一はそんな彼らの声に答えていく。


「褒美とな? 我々妖怪に何を下さる」


 最初に声を上げたのは昔京の都で陰陽師を勤め、悪鬼に食われその身を奪い妖怪と化した悪鬼、炎月エンゲツ。

 人の形はしているが頭には角と両手からは火がメラメラと燃え滾っている。


「炎月、それに他の連中も聞いてくれ。お前たちに与える褒美とは挑戦権だ。今俺が束ねているこの総勢2000もの妖怪、神々の長の座を賭けた

俺と戦う権限をお前たちに与えよう。集団で襲ってくるもよし一対一でたいまん試合をしてもよしその方法は自由だ」


 黒色の眼に映し出される月夜の光、その光に照らされ影を作り出している妖怪たち。彼らはその声を聞いた瞬間に互いに互いを見つめ会い困惑の表情を浮かべた。


「白神様……それが褒美なんて本当にいいませんよね?」


 小さなトカゲのような妖怪がそういって捨てられた子犬のように竜一を見据えた。


「無論、その挑戦権はおまけだ、本当の褒美は1000年酒なんて呼ばれている幻の名酒『御仏の酒』をお前たちに振舞うことになっている」

「な、なんですと? あの名酒御仏の酒がここに!」

「おぉぉぉー!酒の中の酒、妖怪人生でお目にかかれるとは思いもしなかったあの酒がここに」

「ほっほっほ、懐かしいあの名酒をまた飲める時がくるとは」


 複数の小さな妖怪と千年妖怪と呼ばれる老妖怪たちがその竜一の言葉に歓喜の声を上げる中、一人の妖怪が高らかに声を上げた。

 腕には一本の長刀が握られ落ち武者のように黒色の鎧姿をした顔も無く皮膚もないただあるのは鎧の隙間からもわもわと沸き立つ

 黒色の煙と鬼のお面がつけられた鎧。一歩あるくとメシメシと音が鳴り響き空気が淀む。竜一はその存在を見据え口元を緩め微かに笑う。


「白神、貴殿が申した先ほどの挑戦権とやら拙者快く受け止めよう。拙者は貴殿との一対一での死闘を申し込む」


 うっすらと月明かりで照らされた森、その中で鎧の存在するその場所には深い闇が靄にようにかかり闇化が進行している。

 闇化とは悪霊や妖怪が殺意や悪意をもってその場所に存在することによって空間を淀ませる現象の事。それは森や生命を奪い

やがて土地を腐らせる。


「やる気バリバリって感じだね~いいよ。君と戦ってあげる。まぁー俺なんてただのひ弱な人間だからすぐに負けちゃうかもだけどね」

「謙遜なさるな貴殿の噂は耳に入っておりまする」

「へぇーどんな噂?」


 首をかしげながら竜一は笑みを浮かべる。


「貴殿は若干11歳でこの土地神々集う大地熊野市の長である白神を下し、己が自ら白神となった。その後配下に多くの妖怪神々を従い今では関東地区最大の

裏の権力者、噂によれば一振りで山が裂け瞬きだけで闇を消滅させるという。しかし噂と違うのは白神を下したときの姿は白く長い白髪だったはず。しかし

今では黒色の髪に黒く淀んだ気配を放つまるで妖怪のような存在となられておられる」

「噂ってのはしょせん噂なんだよ。この俺に一振りで山が裂けると思う? 瞬きだけで闇を消し飛ばせると思う? 無理無理そんなことできないって、俺はただの

人間なんだからさ、それに俺が白髪? 俺は昔からずっと黒髪だよ? ほらね、噂なんて本当に当てにならない」


 その言葉に周囲の妖怪たちが鼻で笑った。


「そこの若いの威勢がいいのは結構だが、決闘はよしておいたほうがよいぞ? 口ではああ言っているがあの男の実力はわしら土地神でも

 叶わぬほどに絶大で強大で天地がひっくりかえっても変わることのないほどに最強、それゆえ長くこのモノと一緒におるものは戦うことを

 諦め配下として生きる道を選ぶ、わしも昔はそちのようにあの男に戦いを挑み数秒でやられてしもうたよ。大天狗であるわしがああも簡単に

 敗れるとは思わなんだ。ハッハッハとにかくよしたほうがよいぞ、やるだけ無駄じゃけいのぉ」


 背中に漆黒の翼を持ち、赤く伸びた鼻、片手には鳥の羽から作られた団扇を持ち長く伸びた髭と特殊な着物を着た妖怪。鴉たちの長であり風を操り森を支配する存在

 大鴉天狗はそう言って鎧に問いかけた。その声に竜一は溜息を漏らす。


「やめてくれよな。俺あんたらより強いとか全然思ってないよ? 実際喧嘩とか弱いし臆病だしそんなすごい人間じゃない」


 その言葉に再び多くの妖怪たちが笑う。


「お前が臆病で喧嘩が弱い? 嘘も休み休み言えよ。この土地で最強と呼ばれてた白神を倒した時点でお前は最強じゃねぇーか」

「そうだそうだ~」


 炎月と小さな妖怪たちがそう言うと龍一は一瞬彼らを見渡して溜息と言葉を口にした。


「俺を担ぐな! ったくお前らは……」


 竜一がそういってあきれ果てたように言うと、鎧の者が言葉を交わす。


「貴殿が強者ならばそれもよし弱者ならば切り伏せるまで、貴殿の実力が噂どおりのモノなのか確かめさせていただく」


 そういって鎧の者は手から剣を抜き取り鞘を宙へと投げるとただ佇む竜一に向かって加速した。

 しかし竜一は何もせずその場に立ち尽くす。それは一瞬で終わるはずだった。目をただ閉じ、受け入れるだけで終わってくれるはずだった。 

 けれども時代がそれを許さない、世界がそれに納得しない。運命は彼を縛り、その道から引き離そうとは決してしなかった。

 一秒か、数秒か、どれくらい目を閉じているだろうか、一向に振り下ろされない刀、数秒前まではすぐ目の前に迫っていたその刃がいまだ数秒たったいまだ

体に触れない。傷みもなく何もない。ただ一瞬聞こえた甲高い鉄が耳に響き残るだけ、竜一は閉じていた眼をゆっくりと開き前を見た。すぐに何が起こったのか竜一

理解する。目の前に突如現れた白色の毛皮をした獣、かつてこの土地を治めていた最強の神、白神。それが今目の前で鎧の者の刀を片手で受け止めそして佇んでいた。


「なんで俺の邪魔をする? 後一歩で俺は晴れて土地神としての役割を放棄できていたのに」

「放棄などできない。神はこのようなことで決めれるほど簡単ではない。私がお前を土地神として任命できたのはお前の素質が大きく関わっている。

 だからたいまんなど意味も無い。お前が敗れたところで何も変りはしない。土地が荒れ最悪な結果に陥るだけだ」

「えぇー死に損って事かよ」

「そうだ」

「はぁ、なんで俺あのときお前の話飲んじまったのかなぁ~マジで後悔」

「私もなぜお前に土地神としての権限を与えたのか不思議に思う。だがもうお前はこの土地の神だ、その責務を全うしろ。それまでは死なせはせぬ」

「ほほぉー貴殿がこの土地を昔守っていた神、白神の白月ハクツキかしかししょせんは過去の者、拙者の邪魔をしないでもらいたい」

「過去か、しかし過去の者である我にお前は傷一つつけれずに敗北する。あの頃の竜に比べればお前など足元ではいつくまわる蟻と等しき存在よ」

「その減らず口この刀、死魂刀でふさいでくれるわ!」


 

 鎧の者が剣を一瞬背後に戻り、すばやく居合い切りの構えを取るとすぐさま剣を白き獣に振り下ろした。

 刀は一瞬で加速し、空を音を立てながら滑る。瞬間獣の腕が刀と触れ合う。しかしその瞬間刀は跡形も無く消え去り次の瞬間

 鎧の者は勢いよく背後にある木々に吹き飛ばされ力なく倒れこんだ。


「ありゃー結構痛いぞ? って神経とかあんのかなあの体に」


 竜一が眺めながらバラバラになった鎧を見るとすぐに白いものが言う。


「竜一、こんな茶番はいい、ここにいる連中に今日ここに集めた本当の理由を言ってやれ」


 竜一はその声に頭を掻いた。


「わかったわかった。言うよ、言えばいいんだろ?」


 白い大きな獣が龍一の声にコクリと頷く。

 それを視界に捉えながら首を左右に音を鳴らすようにして動かしながら軽い身のこなしで鳥居の上へと竜一は飛ぶ。

 そして周囲を見渡した。先ほどまで騒がしかった森の中が突如彼の行動によって静まり返る。

 そして静まり返ったのを見計らって竜一は大きく息を吸い込み声を音にして口に出した。


「えぇー君らを今日呼んだ本当の理由は今、巷ちまたを騒がせているとある事件のことについてなんだよね。うん、簡単に言えば俺やここにいる土地神たちに大きく

関わり合いのある話なんだけど、みんなは知ってるかな? いや、てか知ってるよね。人間だって知ってるくらいの事件だしね」


 そう言うと、炎月が酒瓶を口に含みながら小さな声音を口にする。


「神殺しか」

「そうそう、いま世界のあちこちで神が殺されてるんだよね。それも跡形も無く。話によれば食われてるって話だけどね」

「神を食う、そんなこと本当にできるのか?」

「できるらしいね。シロツキが最近この町から姿を消してたのはその神殺しの真相を探るため、で、昨晩かえって来て事の真相を話してくれた。

 どうやらその神食いは複数いてこの熊野市にもやがてやってくるみたいなんだ。だからここにいる連中で各所にいる神々を守るっていうのが今日君らを

集めた理由なんだよね。もちろん俺も協力するし精一杯やるつもりだよ。だからみんな俺に力をかしてくれない?」

「白神様の命令であればなんなりと従うのが我ら兵の役目、この場にいるものは誰もが貴方を認め、尊敬している我らはこの命に代えてでも

貴方の命令に従いましょう」

「あぁーそれは嬉しいんだけど命の危険とか感じたら一目散に逃げてね、死ぬのはあまりよくないからさ」


 そういってその長い夜を終えた。

 竜一が家に戻ったのは夜会を終えて朝の4時であった。大きなベットの上に横たわり天井を見据えながら竜一はぽそりと声を響かせる。


「土地神なんてならなきゃよっかたよなぁー夜も寝れねぇー朝昼は学校、夕方は妖怪たちの相談&見回り、ったくなんで人間の俺がそんなことせにゃーならんのだ

 まったく白月のやろー俺をこき使いやがって……って今日も学校か、後4時間しか眠れねぇーちくしょー幼い頃の俺のバカー」


 そう言って長い長い夜を竜一は終えた。


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