27話
「ティ、ティーナ、流石に、も、もう、限界……」
最初こそティーナの早足に合わせてついて行ったが、もう限界です。俺が全身筋肉痛だってこと忘れてるに違いないだろう。
「あ、ごめんなさい」
「ゴメン、おれも忘れてたよ」
ラルツ……お前もか!
「まあ、次は、気を、付けて、くれ。もう、流石に、限界」
正直座り込んでしまいそうだが、今座ったら今日1日立てなくなる気がするので耐える。とは言え少し休憩はしたいのも確かだ。
「じゃあ次は軽食でもとれるところに入ろうか?」
「わたしここら辺のお店のこと知らないわよ?」
まさかまた歩き回るのか?今はちょっと勘弁してほしいんだが……
「せっかくだし全く知らないところに入ってもいいじゃないか。ほら、そこの店に行ってみよう」
「た、助かった……」
店が近くにあった幸運に感謝しながら椅子に座る様子に、2人が苦笑を漏らす。いや、本当にきつかったんだからな?
「何を頼もうか?俺はオレンジジュースにするけど」
「せっかくだしケーキも欲しいわね……イチゴのショートと紅茶が無難かしら」
なんていうか……異世界の食べ物なのに、地球と全く同じものがあるのかと驚いた。厳密には全く同じじゃないんだろうけど、せいぜい品種が違う程度の差だろう。まあ、元の世界の『人』とほとんど違いが分からない『人』が住んでいる世界だし、植生その他、地球とほぼ同じものがあったっておかしくないか……
「俺、お金もってないけど」
「ちゃんと払ってあげるから心配しないで」
そうは言っても金銭感覚がないからどうしたもんか……あ、メニューにちゃんと値段も書いてあった。紅茶が550にオレンジジュースが350か……
「じゃあ、コーヒーを」
ちなみにコーヒーは500だ。単位がいまだ不明だが、このメニューを見る限り多少の上下はあるようだが日本と同じような金銭感覚で大丈夫そうだ。
「ん……まあまあね」
そういいながらケーキを食べるティーナを横目に、ラルツと少し目で会話する。
(ギルドで出た聖銀って触れないほうがいい?)
(おれが触れたら一大事だけどアスカだったら問題ないと思うよ)
(……まあ予想はついたし思わず逃げ出したくなるような古傷にむやみに触れるつもりはない)
(そっか)
おそらく今後、これ以上の以心伝心はできないだろう会話を奇跡的に行い、コーヒーに口を付ける。すると今までコーヒーを飲んでいて感じたことのないうまみが口の中に広がった。
「そっか、強化か……」
昨日遺跡で確認したことだが、<全身外装>では視覚などの五感も強化されていた。おそらく味覚にも強化がされていたのだろう。全身筋肉痛をごまかすためにごく薄くだが強化していたのが、思わぬ収穫になったようだな。
「もう少し休んだら……そうだね、次は城かな?」
おそらくギルドでのことを気にしてなかなか話しだせないティーナを気づかってか、ラルツが今後の予定を立てる。その結果、城を見物した後に魔導具屋で今後の遺跡での授業に役立つものを買って帰ろうってことになった。
「(……まあ、あの話が出ないんだったらそのほうがいいんだけど……)」
「ティーナ?」
「……なんでもない」
さすがに一切触れないとかえって気になるみたいだな。ま、口を出すつもりはないけど。ちなみに会計の時に通貨はS『シリング』というらしいことがわかった。
意外と引きずるタイプなのか、微妙に危なっかしい足どりでの案内となったので、ラルツが時々フォローに入っていた。まあ、次の目的地に着けたみたいだからいいけど。そう思ってそれを見上げる。
「え?あ!そうそう、これがこの世界の中心である『王城』ね!初代様が直々に作り上げたって話で、現代の魔法使いじゃ破壊はもちろん、侵入、遠視、透視、盗聴他色々一切不可能って代物よ」
『王城』か……
「この城に、名前はあるのか?」
「え?だから『王城』よ」
何を当たり前のことを言っているんだこいつ?という顔を一瞬だけしたあたり、俺の設定忘れて多っぽいな……とはいえ俺も今思い出したんだが……
「そうじゃなくて……『王城』って、『王の城』だろ?その城の、固有名詞を知りたいんだ」
そこまで説明してやっと俺の疑問を理解したようだ。だが、またすぐに首を傾げる。
「そういわれれば、って思ったけど……わたしこの城の名前知らないわ」
ティーナがラルツに視線を向けると、ラルツも首を横に振った。疑問は残るがこの件は保留だな。
「そっか、じゃあ、中を、見学とか、出来たりしないか?」
「出来るわけないじゃない」
ティーナは騎士だって話だからちょっと期待していたのだが、世の中そう甘くはなかった。当然といえば当然なのだが……仕方がない、王族とは初代について話してみたかったのだが。
「王族について、聞いても?」
「いいわよ、って言っても当代の女王陛下と王女殿下の2人しかいないから最近特に変わったことは無いけど」
ラルツから純血は2人って聞いていたけど、王族に属する人も2人しかいないのか……万が一が無いようさぞ大事にされているんだろうな……高慢ちきな縦巻きロールのお嬢様が浮かんでしまったのは無理がないことだと思う。
「ミコトも言っていたと思うけど、王族固有の魔法といってもいい『全属性魔法』があるから実力は他の追随を許さないレベルよ。年齢は陛下が40歳ぐらいで、姫様が15歳ね。今年学院に来るって話もあったんだけど、王配殿下のご崩御によりお流れになってしまったの」
もし学院にいたらもっと早くあの話が上に回ったでしょうね、とティーナがラルツに聞こえないように言ってきた。隠れ里の話だろうけど、どうするべきか……初代のことを聞いてから考えるべきかな?
「人族の純血で、人の意見を受け入れる柔軟性もあるし、決断力もある、もちろん行動力もあるし……少なくとも悪いうわさは聞かないわ」
そんな完璧超人いるわけない!って言いたくなるな……
「こんなこと言っちゃいけないんだろうけど、当然誇張も含まれていると思うよ?でも国民としては『こんな欠点があります』って宣伝されるよりこの方がずっと安心だからね」
「なるほど」
その国民が王城の前でこんなことを言えるんだからどこかの独裁国家とは全く違うんだろうな、などと結構失礼なことを考える。
それからしばらく、『こんなところで話していいのか?』と思わず言いたくなる話題をつづけた。
曰く、王族は割と自由な人が多いらしく護衛を振り切って街を散策する者が多かったと。
曰く、現女王は月に一回お忍びで孤児院に通ってお手伝いをやっている時期があったと。
曰く、現王女は護衛を振り切って東の『火の王』が治める公国の城に忍び込んだことがあると。
曰く、現王女は喧嘩を止めに入った騎士団を半壊させたと。
曰く、現王女はつい1年前まで傭兵ギルドに入り浸っていたと。
曰く、現王女は御忍びの際スリにあってそのスリ師の所属する組織を壊滅させたと。
「やけに、王女の話が、多い気がする。あと、この話、王女単独じゃなかったんじゃないか?」
例えば『友人と』という言葉が抜けてるところがあるんじゃないか、と思ったがそこまでは口に出さなかった。まあ、言うまでもないリアクションが帰ってきたため、言う必要がなかったという方が正しいかもしれないが……と、気が付いたら門を守る衛士がこちらをちらちら見ながら話しているのが見えた。
「どうかしたの?」
「いや、衛士が、こっちを」
「ひょっとしてここで長いこと話をしてたから不審に思われたかな?」
いやなこと言うなって、ってこっちに来たぞ!
「(行くわよ!あなたのことを知っている人なんてかなり少ないんだから!)」
「(え?急に逃げた方が、怪しまれるんじゃ?)」
「(逃げ切れば問題ないよ)」
確かにいくら調べても欠片も情報が出てこない俺が捕まったら、いくらティーナでもあらぬ疑いをかけられるかもしれない。ということで逃げ出しました。ええ、後で体が悲惨なことになってしまったが仕方がないだろう。
この30分ほどのちに、黒髪の少女に怒られる衛士の姿が目撃されたというが、アスカたちの耳に入ることは無かった。




