13話
「なんだか少し疲れているようですが、大丈夫ですか?」
あいさつのため学院長室まで案内された俺は、その時点でもう力尽きようとしていた。ラルツの使った風の魔法による補助は、初心者の俺ににとってはいささか強力すぎたのだ。何とか怪我をすることだけは免れたが……
「まあ、怪我もないよう出し大丈夫でしょう。これから魔法を学んでいけばこの程度のことでへこむ暇なんてなくなりますよ」
最初の問いに答えたのは俺ではなくシンシアさんだ。まるで見ていたかの物言いにちょっと反発してしまうが、八つ当たりだと気付いてその感情を引っ込める。
「はい、特に、問題は、ありません」
もし問題があるとすれば、ここが職員室でなく学院長室であることだが……シンシアさんがこの部屋で唯一ある椅子に座っているからそういうことなのだろう。
「じゃあ、改めて自己紹介と行こうか。私はこの『ネルレシア王国立中央魔法学院』学院長シンシア・アーヴァンクライトだ。そしてそこにいるのが、学年主任で、君の担任となるロイ・アーノルド先生だ」
「ロイ・アーノルドです。1学年の間は基本すべての授業を教えることになりますので、よろしくお願いします」
ようやく最初に俺を気遣ってくれた人の紹介をしてくれたわけだが……とても若い。シンシアさんも若く見えるが、アーノルド先生もそれに迫る若さだ。黒髪だが西洋系の顔つきでさぞかし女生徒にモテそうな容姿だ。
「アスカ・グランツ、です。よろしく、お願い、します」
「ではアーノルド先生、後はお願いします。それとアスカ君にはこれを」
そういって渡されたのは一振りの剣だ。持ち手から片手剣の類であるとわかるが……片手で振り回すには厳しい重さがある。
「わかりました。それではアスカ君、教室に行きましょう」
そういうアーノルド先生に押され、学院長室を出ることになった。……いやこの剣について説明してくださいよ。
「さて、それじゃあ歩きながら少し話そうか。授業まであまり時間がなくてね。それと学院長先生にある程度の事情は聞いているから」
1年生の校舎が少し離れた所にある為ゆっくりしていられないらしい。
「それでは、まず、この剣、ですが」
「鋼魔法の発動媒体になるね。生活魔法のレベルならともかく、実戦に使おうと思ったら媒体なしで魔法を使うのは難しいからね」
ちなみに、この剣だが『素剣』というもので、この世界におけるもっともスタンダートな剣らしい。まあ剣なんて使えないけど、こういうのを見るとやっぱり異世界なんだと再確認させられる。
「その剣はかなり強力なものだから、他の魔法の触媒にもなりますよ。手入れについては同室のラルツ君にでも聞いてください」
あれ?『素剣』っていわゆる『鉄の剣』みたいなものじゃないの?詳しく聞くと、製造年代によって質が大きく変わるらしい。この剣がいつの物かは、アーノルド先生も知らないらしいが400年前に起こった鍛冶の再活性期のものというのが最有力らしい。
「まあこれから学んでいくことですから、今はただ『いい剣』だとわかっていればいいですよ」
了解です、江戸時代初期の大業物をもらったってことですね?……とんでもない一品じゃないですか!思わず思考が敬語になってしまいましたよ!?
「……そこまでびくつく必要はありませんよ。道具というのは使うためにあるのですから。何はともあれ、教師である以上過剰な支援はできませんが、困ったことがあればいつでも相談に乗りますから」
思いっきりビビッているうちに教室までついてしまい、簡単な自己紹介をして席に着いた。隣には同室の二人がいてやっと少し落ち着くことができた。……あれ?なんて自己紹介したっけ?
アスカは、『素剣』を手に入れた。




