9話
~~~クリスティーナ~~~
わたしは異邦の少年、アスカの手を引いて学院への道を歩いていた。この少年を拾ってすぐはそれなりに興奮したが、時間が経つにつれて『付かず離れずぐらいが一番』と思っていた。今となっては難しいことだけど……
アスカは、外部から魔力を受けなければ魔法を発動できないことが分かったからだ。魔力の知覚が難しい人にたまにあることらしい。私が学院に入れることを提案した以上、何とかするのはわたしの義務だろう。まあ、あんなこと教師だってそうできることじゃないわけだし。
そう、私はつい数年前まで『神童』と呼ばれていた。12歳の時に、魔力量・魔法適性がAランクに届き、A級魔法使いになるための国家試験を受けることになった。だけどその試験に落ちて、ここ最近まで無気力に過ごしていた。
別に試験に落ちたから無気力になったわけではない。上には上がいるなんて知っていたし、試験だって最初から落ちることが決まっていたからだ。A級魔法使いは、実力だけでなく精神的にもトップクラスの者しかなれないので、この試験は単に『こんな子がいる』ということを世間に知らせるためのものだった。
ただ、その時私は『会って』しまった。たとえどれほどの才に恵まれようとも、師に、時に、状況に恵まれようとも、決して届かない『完成された』存在に。もう少し幼ければ純粋に憧れることができたし、もう少し成長していれば反発でもしてたのだろう。でも、その時の私にとっては絶望にしかならなかった。
この国を『完成』させた『初代国王』の弟子にして盟友である『光の王』、おとぎ話や英雄譚で語られていた存在は、800年たった今でも変わらず君臨していた。『光』を扱う魔法使いの『目標』であり決して越えられない『壁』であった。
そしてわたしは、前に進めなくなった。周りは、魔法ではなく人格を成長させるべきとか何とか言っていたから、魔法の練習をしなくなった私を不審には思わなかったみたいだけど。
(いけないな、ついネガティブになっちゃう。せっかく自分が知らない『世界』を知っている人がいるんだから、気にするならそっちでしょうに。できることなら、私に出せなかった『答』を見せてくれればいいんだけど)
幸いなことに、かなり深く考え込んでいたのだがアスカは気付かなかったようだ。それほどこの王都に変わったものがあったのかな?
~~飛鳥~~~
ティーナに連れられ屋敷を出ることになったが、シンシアさんに挨拶しなくてよかったのかな?まあ、主導権がない以上考えても仕方のないことなんだが……俺の前を歩くティーナは、何か難しい顔をしているので話しかけないほうがいいだろう。馬車なんかを用意するようにも見えないから、学院ってのは近くにあるっぽい。ゆっくり街並みなんかを見ていようか。
なんていうかお約束だが、街並みは中世ヨーロッパみたいだった。その割には石畳がやけに整ってたりして違和感もある。さらに街灯まで完備されており、ここら辺の治安が良いのだろうと予想できる。
(おまけに俺が入れるような教育施設まであるんだから……この世界のどこに問題があるのかねぇ?)
学生になることはカミサマのシナリオ通りだと思うので、ここで何かしらのヒントがあることを祈っとこう。ついでにしばらく俺自身の育成をがんばってみるか、あるいは学院関係者しか行けない施設を巡るのもいいだろう。
(後は代々の騎士である『アーヴァンクライト』が世界を救う勇者様になるのか見ていくことかな?)
一日考えてみて、ティーナは俺の『案内役』か『勇者』になるんじゃないかと思っている。最初は『案内役』一択だったが、別に直接『勇者』にあって問題あるのか?と思い出だしたら、そういう結論になった。決めつけるのはよくないけど……
そういえば、魔法が自由に使えないのも問題だな。今のところ何かしようと思ったら、ティーナに相談して助力を得ないと何かあったとき危険すぎる。早く使えるようにならないと……別にこの世界のことを知るだけなら危険はないのかな?それならゆっくりでもいいのだけど、やっぱり最悪の事態を想定してやっていたほうがいいかな?
ああ思考がループしてきた。もうなるようになればいいや。散歩気分でゆっくりしよう。べ、別にティーナとつないだ手が気になって頭が回らなくなったわけじゃないぞ!ただ朝からずっと今後について考えていたから疲れてきただけだ!
本当のところはわからないが周りが暗くなってきたこともあり、表面上は平然と学院の門をくぐる二人であった。




