8話
「たった30分で魔法を覚えたってホント!?」
勢いよく扉を開け、大音声で尋ねる。脅かして見ようとは思っていたが、本気で少し跳ね上がっていたのでやりすぎだったとも思わなくもない。
「違う」
落ち着くまで少し時間がかかったようだが、目の前の少年、アスカは質問の内容をやっと理解したかのように答えた。
「どういうこと?母様は朝のうちに魔法を使えるようになったって、言っていたんだけど」
ノックもせずに入ってきた少女、ティーナは怪訝そうな顔をしてさらに詰め寄ってきた。まあシンシアさんに聞いてきたなら『違う』といってもわからないだろう。とりあえず夕食までもう少し時間もあるようだし、二度手間になるかもしれないが説明しておこう。
「たしかに、朝は、シンシアさんに、教わって、魔法を、使ったが、それから、一度も、使えなかった」
「はい?一度は使えたんでしょ?」
ティーナが不思議そうな顔をしているので、やはり一般的な事ではないのだろう。朝の出来事を、俺視点でティーナに話してみたら、それはもう微妙な顔をされた。
「母様ったら……裏ワザにもほどがあるでしょうに。でもだからって一度使えた魔法が使えなくなるなんてありえないんだけど?」
<火よ、灯れ>
「…………ホントに何も起こらないのね……それより、せめてい一声かけてからにしてくれない?結構驚いたんだけど!」
「お互い、様」
先にやったのが誰だったか思い至ったのか、目線を外される。……まあそこまで根に持ってるわけではないしいいんだけど。
「あ~それじゃあもう一度やってみましょうか?母様は忙しそうだったし、今度はわたしがやるから。大丈夫よ、万が一があってもそんなひどいことにはならないらしいし!」
……なんだろう、ものすごく逃げ出したくなってきた。否、逃げ出すべきだと本能が警鐘を鳴らす!
「遠慮、する!」
アスカは にげだした!
にげられない!
ティーナは アスカに おそいかかった!
アスカは つかまった!
「なによ、逃げなくてもいいじゃない」
「何やら、不穏な、空気を、感じた、もので」
今もできることなら逃げたいが、状況があれなのでどうにもできない。具体的には、押し倒された状態だ。俺はうつ伏せなのがせめてもの救いか……
「案ずるより産むがやすしよ、魔力流すから頑張って!」
そういってすぐ魔力が流れてくる。シンシアさんの時より、何というか肌が泡立つような落ち着かない感じがするが、そこまで違和感はない。
<火よ、灯れ>
「出来たわね」
「ああ、できた」
思いのほかあっさりできてしまった。それを確認してティーナが俺の上から降りる。……ちょっと名残惜しいと思ってしまった俺は男として間違ってないはずだ!
「それじゃあもう一度やってみて」
火が消え、立ち上がった俺に軽く言う。曰く、これでわかることがあるという。
<火よ、灯れ>
ええ、予想通り火なんか欠片も起こりませんでしたとも!
「やっぱり、魔力の放出に慣れてないからかな?一番最初のきっかけさえあれば大丈夫だけど、慣れるまではそのきっかけがないと魔法は使えないかも?」
要は着火役が必要ってことですか?使えないな俺……
「……しかたないな~、使えるようになるまではわたしがきっかけになるしかないか。それじゃあ、この話は終わり!さっそくだけど行くわよ!」
「ありがとう。それと、どこへ?」
ティーナは俺の腕を引きすぐ歩き出してしまったので、歩きながらの質問だ。何気に初めて部屋の外に出たが、照明もしっかりあって思いのほか明るい。
「学校よ。正確には『ネルレシア王国立中央魔法学院』研究員も結構いるから『学校』じゃなくて『学院』が正式名称ね。そこの寮に入ることになったから」
ずいぶんと急な話だが、手続きは終わっているらしい。ティーナもそこから通っていたが、俺を拾って実家に戻る許可を得ていたらしい。
「荷物なんてないから楽ね。知り合いに雑貨買っとくよう頼んでおいたから、ついたらお礼言いなさい」
そのまま一言も口を出せないうちに、俺は初めて外の世界へと行くことへなった。




