里華 1
2006年
6月29日〜霞島山高校〜
午後5時の理科室。
外は雨がザーザー降っていて、朝から今に至るまで雲はずっと灰色だった。ちょっとだけ時間の感覚が狂っているような不思議な感じがする。理科室は普通の教室より少し違う。8人掛けのデカい机がタテ、ヨコに3つずつ、合計9つの机がある。この教室には私しかいないが、もうそろそろ2人のどちらかが来るに違いない。「あれ?里華ちゃん?どうしたの、電気も付けないで」
そう言いながら電気を付けて中に入ってくる男の子がやって来た。
今は夏服だからわかりやすいけど、まるで今まで太陽の紫外線を受けたことがないくらい肌が白いくて髪の毛はストレート。私は少しだけパーマがかかってるから、(うらめしぃ〜あぁ、違う違う!うらやましぃ〜)と毎回会う度に思う。ちょうど眉毛を隠すくらいの長さで下ろしている。その男の子はリュック型の鞄と、ギターケースを持っていた。
「お、さっそく来たね広志。それが聞いてよ!雨がめっちゃ降ってるよ」「…え?誰が見てもわかるけど…」
「もぉ!もうちょっとツッコンでよ!!面白くないなぁ〜」
「ああ、ご、ごめん!」こんなやりとりをしながら広志と私は9つある机のちょうど真ん中にある机へ近づき木で出来てる丸い椅子に腰掛けた。
「まったく幼稚園から一緒だっていうのに全然変わってないなぁ君は」
広志は会話を急にやめ、手に持っていたギターケースからギターを取り出した。私はギターのことはよくわからないけど、どこでも見るような普通のギターだ。広志はギターのチューニングをしながら笑って
「里華ちゃんだって変わってないよ。なんたって里華ちゃんは幼稚園の頃から雨が……」
ガシャーーン!!!!!広志が何かを言いかけたところで不意に廊下で誰かがコケた音がした。その証拠にイテテテ…と男の情けない声が今聞こえてきている。
「わりぃ、遅れた!!」
そのイテテテの主は大輔だった。大輔は身長が高くて、髪の毛は上へ上げている。だけど、上へ上げても違和感のないくらいに短かくて、まるで広志とは正反対だ。大輔は私達の近くに来て座る間に
「いやぁ〜なんだってこんな今日はツイてないんだ」と誰に言うまでもなくつぶやきながら椅子を移動させ座った。
大輔が座った時点で私達の部活動は始まる。座る椅子の位置は毎回一緒で、大輔が黒板に背を向けて私は大輔から見て右側、広志は大輔から見て左側と良い具合いにトライアングルが出来るのである。この位置が3人が3人とも落ち着くのだろう。私はというと…つい寝ちゃいそうなくらい落ち着いてしまう。
「今日なんか悪いことでもあったの?」広志は大輔を心配そうな顔をして大輔に聞いた。
「良いの悪いのって聞いてくれよ!朝は寝坊して遅刻、宿題忘れる、昼は急いで来たから弁当忘れる、そしてさっきの見事なこけっぷり…はぁ〜」
「は、はは…ま、まあそういう日もあるって。げ、元気だそうよ、ね」
あきらかに落ち込んでいる大輔に広志はなんとか笑って励まそうとしてるけど、果たして本人はそれが苦笑いになっていることを知っているのだろうか。それは広志にしかわからないことである。