第四話 ある魔法少女の独白
私は一体、何がしたかったのだろうか。
私は昔から上辺だけの関係に固執していた。
ただ周りと合わせるだけの簡単な作業。簡単? そんな訳ない。
みんな当たり前にやってるようだけど、私にとっては何よりも難しい問題だった。はっきり言って論外な難易度に感じていた。
小学二年生の頃、私たちのお友達グループでリーダー格の女の子がいた。
その子はテストの点数はそんなに良くないけど運動だけは出来る子だった。
私はその子が嫌いだった。はっきり言えば憎んでいた。
何故その子のことを嫌っていたかはもう忘れてしまったが、どうせ忘れてもいいような理由だったのだろう。
私は昔から力が強かった。自分で言うのもどうかと思うが私は体型はかなりスリムな方だ。背も平均よりも少し低いぐらい。だが運動神経と力だけは同年代の平均を大きく上回っていた。だが周りの和を乱したくない私は運動をする時は常に本気を出さなかった。
その少女を嫌っていた当時の私はあることを思いついた。
あの子を殺してしまえばいいんだ、と。
我ながらにかなり変わった子であったと思う。
浅はかな思考から来る短絡的な考えであったが、行動に移すだけの度胸と人間性の低さは持ち合わせていたようだった。
そう。私はその子を殺害した。
いかに証拠を残さないようにするか、ギリギリの所での思考が楽しかったのを覚えている。鉄パイプで殴打した時の感触も鮮明に思い出せる。
今の私はこの時点で既に出来上がっていた。
最初は恨みからだった。
その後も気に入らない人物は消去していった。
回数を重ねるうちに手段は目的に変わっていった。
次第に殺すことが出来るならば対象は誰でも構わなくなった。
こうして今の私は完成した。
こういうことを続けていると、それがお仕事の人達に自然と目を付けられるようになった。
何度か殺されかけたが、その度に私は彼らを始末した。
五月初旬、私はある一人の女の子を危めてしまった。見た目から推測するに私と同じくらいの年齢の小柄な少女だった。
その時の私は彼女を殺したことがどのような意味を持つのかを理解していなかった。だが、今は理解しているのかと問われてもYesとは答えられない。このことが原因かどうかは分からないが私の身に不思議なことが起こったのだ。
その少女を殺した次の日の夕方も私は街を徘徊し、次の目標の品定めをしていた。できるだけ勝算のある人物を選ばなければならない。絶対に証拠を残さないことが私の美学だ。
そうこうしているうちに一人の小柄な女性を見つけた。その時確信した。この人なら殺せると。
周囲には誰もいない。防犯カメラの視野外。いける。
生まれた時から持っている私の特技。それは危険を察知する能力。
この能力は護身にも使えるし、殺人にも使える。
だから私は背後に近寄る者の存在に気づくことが出来た。
しかし気付くのが遅すぎた。相手はそ道のプロだったのだ。
殺しのプロフェッショナルに普通の女子中学生が勝てるわけがない。
ああ。今までしてきたことの罰なんだな。
背中を鋭利な刃物で刺された。骨を避けて刺せるところは流石プロだなと感心した。
確かにこの時の記憶はある。背骨の横すれすれに異物が入る感覚は忘れられない。
興奮していたからなのだろうか。痛みはあまり感じなかった。しかし大量の血液が体から抜け出ていることは理解できた。
私の背中を貫いた男は、今度は私の頭と胴体を切り離そうとした。
首に刃が入る。その時、ヤツが持っている凶器は鉈ということが分かった。私が使っている道具と同じである。
目の前に闇が広がり、意識が途絶えた。
私が覚えているのはここまでだ。
そして私は魔法少女になった。
魔法少女同士は正々堂々と殺し合いが出来る。だから私は魔法少女になったことを悔やんではいない。そもそも魔法少女になるまえからこの世界に希望なんて一寸も抱いていなかった。
魔法少女になってからは世界が一気に明るくなった。
私の魔法少女としての武器は、人間だった頃の私も好んで使っていた鉈だった。
武器は個人の適性に合わせて決められるらしいので当然といえば当然であろう。
私はその鉈を使って数多くの魔法少女を殺した。勿論私も数多くの魔法少女に何度も殺された。
そして私は例の少女を見つけた。『例の少女』、私が最後に殺した人間。
私は確かにその少女を殺したはずだった。いや、絶対に殺した。この手で後始末もした。
なのに何故その少女が生きているのか。
しかし、その時の私にはその解がすぐに頭に浮かんだ。
あの少女も魔法少女になったのだ。
その少女の隣にもまた別の少女がいた。
隣にいたその少女の名前を私は知っていた。
秋坂朱音。
噂は聞いたことがあるし戦ったこともある。
秋坂朱音は尋常ではない強さを誇る、トップ5に入るような凄腕の魔法少女。実際に戦っても、自分では気付かないうちに私は殺された。
彼女たちの会話から例の少女の名前だけは分かった。その後、例の少女は秋坂朱音と共にいることから魔法少女界でも噂になり、フルネームも私の耳に入ってきた。
大友柚葉。
それが例の少女の名前だ。
私はその少女に会いたくなった。会って殺したくなった。
例の少女のおかげで私は魔法少女になれたのだという妄想に近い仮説を心の中で立てていたので、その例の少女が魔法少女になっていたことを知った私は何か崇拝めいたものの対象が具体的になり、興奮していたのだろう。
自然と私は大友柚葉に興味を持つようになっていった。
この興味は日に日に強くなり、気付いた頃には彼女に特別な感情を抱いていた。
今すぐにでも大友柚葉に会いたい。
只の好奇心なのだろうか。私には分からないが彼女を深く知りたかった。
大友柚葉を手に入れたい。
その感情は、彼女の周囲によくいる秋坂朱音への憎悪もまた孕んでいた。
だが今度の相手は死なない。
私は新たな解決策を見つけなければならない。
◇ ◇
吉良四葉は中学二年生にしてシリアルキラーであった。
最初は私怨からの殺人であったが徐々に殺人そのものを楽しむようになった。
元々世界に対して希望を持っていなかった彼女は魔法少女の世界では稀な部類に入る。
四葉は魔法少女のシステムとしてはイレギュラーな存在であった。だが彼女は魔法少女のシステムに最も馴染んでいる少女の一人かもしれない。
戦いを好む四葉が秋坂朱音に辿り着いたのは必然のことであった。
秋坂朱音——魔法の権化に戦いを挑んだ少女の一人に。