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第三話 戦闘

 柚葉達の前に現れた少女は手に持った長槍の穂を朱音に向けそのまま突撃してきた。

 朱音は体を大きく反らせ攻撃を既の所で回避する。

 その反射神経は人間の物とは大きくかけ離れていた。

「へぇ。凄いじゃありませんか、私の攻撃を初見で避けるなんてぇ~」

「これぐらい当たり前よ」

 朱音はハンドガンを構え、銃口を少女に向ける。

「逃げないの?」

「はい~。銃弾ぐらい避けられますからぁ」

「腕には相当自信があるようね。名前ぐらいは聞いておこうかしら」

「いいですよぉ。小嶋(こじま)(ゆかり)と申しますぅ~」

「私は秋坂朱音だ」

 朱音の名前を聞いた瞬間、紫は不敵な笑みを浮かべた。

「あなたがあの秋坂朱音さんですかぁ。それじゃあ、遠慮なく殺れますねぇ」

 再び槍を構え直し、その穂を朱音に向ける。

「貫かれて下さぃ~」

 間延びした口調からは考えられない凄まじいスピードで再び突撃をする。

 朱音もまた紙一重の所で紫の突撃をかわし、左手に握ったハンドガンのトリガーを引いた。

 初速度約365メートル毎秒の銃弾が紫の脇腹に風穴を開けた。同時に紫の槍も又、朱音の背中を切り裂いた。

 二人が交差し、血飛沫がアスファルトを赤く染める。

 常人ならば気を失っていてもおかしくない量の出血であるが、二人の少女は尚も臨戦態勢のままであった。

 朱音は銃口を、紫は槍の先を互いに相手に向けている。

 この異様な緊張感に、柚葉は完全に飲み込まれていた。魔法少女になって日の浅い彼女は、戦闘というものを見るのはこれがまだ二回目だ。一回目は梓が逃げてしまったので真剣な戦闘を見るのはこれが初めてであった。

 対峙する両者の肩が呼吸と同期して上下している。

 血が傷痕から流れ続けるが二人はまだ意識を保っている。いや、二人はそもそも出血のことなど気にしていない。これぐらいの傷は何度も受けてきた。痛みに慣れてしまっているのだ。

 別に痛みを感じない訳ではない。魔法少女の痛覚は人間のそれと同じだ。しかし、彼女たちは幾度も殺し殺されてきた。故に自然と自分の痛みはもちろん他人の痛みにも慣れてしまうのだ。

 柚葉は二人の闘いをただ見つめることしかできなかった。無論、朱音は柚葉にそうさせたかったのだが。

 膠着状態に突入してから約一五分後、紫の右手が3センチほど下がった。

 朱音はその隙を見逃さなかった。

 引き金が引かれ、弾丸が発射される。放たれた弾は紫の右肩に直撃し、肉と血液が飛び散った。

 紫は血が溢れ出す右肩を抑え、歯を食いしばっていた。

 もはや戦うだけの力は残されてはいない。

 紫は持っていた槍を光の粒子に変え、逃げる準備を整えた。

 追うかどうか迷ったが、無用な戦闘は避けたかった朱音は拳銃を構えるだけでこれ以上攻撃しようとはしなかった。

 銃口を向けてはいるものの撃つ気配がないことを察し、紫は背を向けてその場から消えるように去って行った。

 少女たちを覆っていた闇は消え、空は再び夕焼けの赤で染まる。

「柚葉、大丈夫?」

「え……う、うん」

 柚葉は二人の闘いに見惚れていた。心を奪われていたのだ。

「あのっ! 朱音ちゃん、怪我が! あれ……ない……?」

 朱音の背中は制服が覆っている。先程の傷がまだ残っているとすれば、その背中は真っ赤になっているはずである。しかし、朱音の背中はなんともない。

「ああ、これね。結界の中で受けた傷はその結界が無くなれば消えるのよね。疲労とかは残っちゃうけどね」

 自分の背中をさすりながら朱音はそう言った。

「疲労は残るんだよね? じゃあ……」

 今の朱音はあの戦闘の直後であるにもかかわらず疲れているようには見えなかった。

 柚葉の視線に気づき、朱音は俯いた。

「力の差、っていうやつかな」

 自らの左手を見てぽつりと呟いた。

 『朱音は強い』。何と無くだが、柚葉は気付いていた。それも並の強さでは無いということを。

 朱音のように強くなりたい。柚葉は心の中でそう思っていた。

 自分が戦いたいと思っていることに柚葉は驚いた。

 何故自分たちは殺し合わなければならないのか、柚葉は分らなく、絶対にしたくはないと思っている。だが朱音の闘いを見て、自分も強くなりたいと思ってしまった。その感情の変化は自分が魔法少女になってしまったことが原因なのか、それともまた別の原因に因るものなのか、今の柚葉には到底分かりはしなかった。当然のことである。それはどの魔法少女もが当たってしまう問題であるからだ。

 恐らく朱音はその答えを彼女なりに見つけたのだろう。

「朱音ちゃん」

「どうしたの?」

 朱音は柚葉が次に何を言うのかを知りたかった。そのためにこの戦闘を見せたのだ。

 

「私に戦い方を教えて」


 この言葉を聞くのは二度目であった。

 魔法少女同士の悲惨な闘いを見ても同じことを言える。柚葉に覚悟ができたことを朱音は悟った。

「分かったわ。だけどもう後戻りは出来ないわよ。絶対に、魔法少女の秘密を知る」

「うん。その為に魔法の権化を倒す」

 歯車が回り出した。



       ◇                         ◇



 週末、柚葉と朱音は路地裏で結界を張っていた。

「まずは武器を出すところからね。どんな武器を使いたいかイメージして」

「武器の種類なんてわかんないよ」

 つい数日前まで普通の女子中学生だった柚葉には無理もない。

「大丈夫。具体的な武器の種類とかは関係ないからさ、どう戦いたいかだけを考えて」

「わかった……やってみる……」

 納得できないところもあったが、言われた通りに自分のやりたい戦い方をイメージしてみる。

 具体的な戦い方は思いつかないが、朱音の様に戦いたいな、とぼんやりと思った。

 その時、柚葉の両手に光の粒子が現れた。

「来たわよ!」

 朱音の言う通り、光の粒子は柚葉の両手の中である形へと収束していった。

 現れたのは二丁拳銃。朱音と同じモデルであった。

「朱音ちゃんのと同じ……あれ⁉」

 たった今現れた二丁拳銃は再び光の粒子と化した。

「ど、どうしよう……」

「心配しなくていいわよ」

 折角現れた武器が消えて慌てている柚葉に対して朱音は冷静であった。

 二丁拳銃が消えた瞬間、再び柚葉の小さな手に重みが伝わってきた。

 光は収束し、柚葉の右手に一振りの青竜刀が現れた。

「結構いるのよね、二種類の武器を持つ魔法少女が」

 柚葉はそれに該当した。二丁拳銃と青竜刀。それが柚葉の武器ということになった。

「これが私の武器……」

 右手に握られた青竜刀を眺め、ぽつりと呟いた。

 そこにはしっかりとした重みがあった。その重みこそ、命を奪う物の重みであった。

「じゃあ、訓練を始めようか」

 朱音も左手にハンドガンを出現させる。

「はい」 

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