ある少年のお話 --<??>--
「終わった後で美味しい物でも食べに行こう」
「うん、解ったぁ!」
「あらあら、外食せずとも私が美味しい手料理を作りますよ」
「だが、どうせならたまには外食も良いかと思うぞ」
「でもやはり愛し子のお祝いだからこそ手料理にすべきだと思うわ」
「うーむ、それもそうだがやはり――」
黒の衣装を身に纏うお父さん。赤を基調としたドレスを身に纏う綺麗なお母さん。
二人は今日の晩御飯について話し合っているようだ。
祝いは祝いとして豪華なご飯を食べるというのは二人とも同じ意見だ。だが外か家かで食べることで揉めている。
揉めていると言っても喧嘩しているというわけではない。笑顔は絶えずお互いにじゃれあっているような感じだ。その光景を見ていて、僕も笑顔になる。
「――はどっちがいいんだ?」
「もちろんママの手料理よねー」
「こらこら、強制しない」
二人は笑顔で話しかけてくれる。これにまた幸せを感じて笑顔になる。
「えーと、えーと……」
どっちにしようか考える。だけど、簡単に答えが出せずに悩む。どっちも良いから仕方ない。
「うーんと……」
「いっぱい悩んでるみたいだな。ならこうしようか。今日の出来が良かったら、手料理ということで。それで出来が凄く良かったら外食。どうだ?」
「あら、あなたズルいじゃない。だってこの子なんだから、凄く良い出来に決まってるじゃない。勝負にならないわ」
「はははは。まぁ、そうだな。でもほら、時間だ。これで決定だ」
「まったくズルいわ」
「ほら二人とも早く行くぞ」
「「はーい」」
「この水晶の上に手をおいてね」
「はい」
ブカブカの修道服を着た赤毛ツインテールの小さな女の子に促され、水晶に手を置く。
「今回はどのくらいの凄い結果が出るんだろうね?」
「そんなの解んないよ。でもやっぱり凄い結果でしょ」
「やっぱり凄い結果が出るのかしら?」
「そりゃぁ当たり前だろう。アイツは『――』なんだから」
「そりゃぁそうよね。だって『――』なんですから」
周りの人たちが騒いでこちらを見ていた。
教会にはかなり人数が集まっている。満員といった様子だ。
「ほら、そこの人達黙って下さい! そろそろ『――』の測定を始めますので」
ガヤガヤとうるさくなっていた周りを注意して女の子は測定を始めようとする。
女の子は僕と同じ歳なのに凄く立派だ。確か女の子は天才と名高い女の子呼ばれていた。だから、僕と比べて大人なんだろうな。といっても服は大きすぎるようでブカブカな感じが僕より子供にも見えるが。
「それでは測定を始めます。汝の魂は――」
周りが静かになる。
ここにいる全ての人達が僕の結果を待っている。いや、期待しているのかな?
さすがに緊張してきて手が汗ばむ。だけど僕は『――』だ。だから大丈夫。いや、結果を出さないと。
緊張のせいか時間がとても長く感じる。
「……え? ウソ……」
何十分も待ったような感覚の後に女の子が声をあげた。たぶん、測定が終わったのかな?
でもまだ驚愕の表情のみをしただけだ。結果はまだ解らない。ただ、表情からかなり変わった結果だということが解る。どうなのだろう? 凄かったのかな?
「え? 何々? 凄かったのかな?」
「たぶん、そうだろうな」
「歴史を覆すような凄い結果だったのだろう」
「いやぁ、俺はこの時代に生まれて良かったね。これで資源が豊かになる」
周りもうるさくなる。周りの期待も大きくなる。笑顔が伝播している。
そんな中、僕も期待が大きくなる。ワクワクだ止まらない。
そんな状態が続いた後に、女の子は表情を取り戻し口を開く。
「すみません。動揺してしまい、結果発表が遅れました。では結果発表します」
「ゴクリ」
この場に居合わせている全ての人間が息を飲んだ。それだけ結果が待ち遠しく、期待が高い。
そんな中、女の子は口を開く。
「魔力はゼロです」
「え?」
僕は思わず唖然としてしまった。
そして誰もが結果発表の内容を理解しきれていないようで静寂が続いている。僕自身も当然、理解しきれていない。本当に? 魔力がゼロなの?
「ま、魔力ゼロなの?」
僕は理解できないため、確認をする。というよりも間違った結果を聞いてしまったんだと。そう信じてもう一度確認した。
「……えぇ、魔力ゼロです。でも――」
聞き間違っていたということではなかった。
「ありえねぇだろッ! 今度の戦いどうするんだよッ!」
「最悪だ。何て時代に生まれたんだ。クソ!」
「そいつは『――』じゃぁねぇッ! 偽者だぁ!」
静かにしていた周りの人達から罵詈雑言が飛び交う。
周りを見渡すと全ての人達が睨んでいる。皆は笑ってはいない。怒りが伝播する。
恐怖のあまりにお父さん、お母さんを捜して見つけ出す。
お父さん、お母さんは睨んでおらず。笑顔であった。
そのことに安堵し、飛び込むように走り抱きついた。
「?」
抱きついた後にポンっと突き放された。
いつもなら抱きしめ返してくれるのに。
顔をあげるとそこには笑顔のお父さん、お母さんがいた。
「おとうさ――」
「誰が『お父さん』だ」
「まったく勘違いも止めて欲しいわね」
「えッ??」
お父さんとお母さんの言葉に驚く。お父さんがお母さんが。何で? 聞き間違いかな?
聞き間違いだと信じてもう一度抱きつく。
「おとうさ--」
「離れろッ!!」
「わッ!」
今度は強く突き放され、尻もちをつく。
驚きながら、見上げてお父さんとお母さんを見る。
お父さんとお母さんは酷く顔を歪ませていた。周りの人達と同じ表情をしていた。
そしてゴミを見るような目で僕を見ていた。
「はぁ、まったく赤の他人をここまで育てたのに収穫ゼロか! 何れは育てた恩を大きく返してくれると思ったから育てたというのに!」
「まったくだわ。子供なんて鬱陶しいけど、大きな恩があるってだけで我慢出来ていたのに」
「??」
お父さんとお母さんが何かを言った。そう何かを。僕は解らない。解りたくないッ!!
「まだ解らないのか? だからガキは嫌いなんだ! 俺はな、お前の親ではない!」
「私もそうよ。あんたみたいなバカなガキの親がなけないわよ!」
解りたくない! 解りたくないッ! 解りたくないッ!!
「ガキがッ! もうお前の面倒をみる理由もない! 勝手に生きろ!」
「まったくよ! もうガキの面倒なんてイヤよ! いきましょう」
「あぁ行くぞ」
何が何だか解らない。解りたくないッ!
解りたくない! 解りたくない! 解りたくないッ! 解りたくないッ! 解りたくないッ!! 解りたくないッ!! ワカリタクナイ! ワカリタクナイッ!! ワカリタクナイッ!!! ワカリタクナイッッ!!! ワカリタク---!!