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抜け! 漆黒の短剣!! --<勇者>--

 突然だが、俺は勇者だ。

 昔から永らく続いている勇者の末裔と魔王の末裔の戦い。

 その勇者の末裔である俺は現代の勇者ということになっている。

 それで俺は魔王に戦いを挑み、惜しくも敗退した。

 そして、此度の戦いは魔王に軍配が上がって終わりを迎えた――訳ではなく、俺は今も生きている。

 但し、俺は今なお、魔王城にいる。

 それでは捕らえられたのだろう。と思うのは自然だろうがそれも違う。

 俺は今――。


「そのへっぴり腰は何だッ! せっかく俺がみてやっているのにそのへっぴり腰はないだろう! お前はそれでも俺と戦って勝つつもりはあるのかッ!」


 魔王ことヴェルト・ラウム・ユーベルに叱られていた。

 そう俺は今、魔王ヴェルトの元で修行を積んでいた。

 ちなみにヴェルトは人間とさして変わらない見た目だ。瞳は鋭く鼻はスラッと高いのが特徴で端正な顔つきだ。髪の毛は黒くミディアムヘアで目のあたりまであり、瞳は黒き輝きを放っている。見た目年齢からも人間で言う美青年といって差し支えないだろう。


「クッ! もう一度ッ!」


 魔王城の玉座の前で大きな両刃剣を振りかざす。……いや、振りかざそうとした。

 俺は振りかざす前によろめいて体勢を崩した。どうやら、この剣は少し重いような気がする。


「まったくなってないな。そこまで酷いと言うこともないな」


 ヴェルトは溜め息混じりに言った。


「少しばかり筋力が上がれば大丈夫なんだよ!」


 ヴェルトに対して言い返す。俺がもう少し筋力が有ればヴェルトなんか目じゃないはずだ。そう俺だって勇者なんだ。


「お前、減らず口は相変わらずだな」


 ヴェルトは呆れたように言った。酷くバカにされている。


「減らず口なんかじゃない! 真実を言ってるだけだ! それよりもヴェルトも俺のこと名前で呼べよ!」

「フンッ! 名前で呼んで欲しければ、もっと認めれるような奴になれ。そうすれば、呼んでやろう」


 ヴェルトはいつも俺のことを「お前」呼ばわりする。ちなみにだが、俺の名前は「お前」とかではない。一応。


「それよりもヴェルトと呼ぶな。せめてヴェルト様としろ。俺は認めた奴にしかヴェルトと呼ばせん」

「様なんて仰々しいだろうが。俺はそんな風に呼ばねぇよ」


 まったくヴェルトは何様だ。自分自身に様付けとは大層なことだ。


「俺は魔王様だぞ。だから、仰々しい訳などない」


 そうだったヴェルトは魔王様だったのだ。忘れてた。

 それでも俺はヴェルトに様付けはしない。


「でも俺は魔族ではないし、勇者だし様付けしないよ。まぁそれ以上にヴェルトなんかに様付けしたくないって気持ちが強いからな」


 そうヴェルトに様付けるのは嫌だ。感情的に嫌なのだ。それが一番の理由。


「……お前はまた地獄を味わいたいようだな」


 ヴェルトはそう言いながら、右手に魔力を集束させていく。

 デジャブだ。この光景をどこかで見たような気がする。

 ――思い出したアレは俺が魔王城に来た時の話。燃やされ続ける『永遠なる業火』の拷問魔法だ。


「待て待て待てッ! ここは落ち着いて話し合おう!」


 あんな地獄をもう味わいたくない。だって痛いし、熱いし本気でキツい。

 俺の必死なる訴えを聞いたヴェルトは動きを止めた。


「ふう、ヴェルトもやっと話がわかるようになったか。まったく、一時はコイツはバカなのかと――」

「非礼を詫びろ」

「え?」


 ヴェルトは手に集束させた魔力を用いて魔法を放つ。『永遠なる業火』を俺に向かって放った。


「ギャァァ!!」


 再び、俺の絶叫が魔王城に響き渡った。










「ハァハァハァ……」


 俺は荒々しく呼吸する。

 そんな俺を見ていたヴェルトは口を開く。


「これで自分の立場を解ったか! まったく、バカを相手にするのも疲れる」


 俺のことを酷くバカにした口調で言った。

 それにしても失礼な奴だ。俺はそこまでバカじゃない。立場くらいは解っている。

 俺の立場それは――魔王を滅する勇者だ。そうこのヴェルトよりも凄い立場なのが俺だ。それぐらいは解っている。それぐらい解っていることを証明しておこう。


「自分の立場くらい解ってる。俺が勇者でヴェルトよりも上の立場だってことはな」


 誇らしげに胸を張って言った。これでヴェルトも俺を認めるであろう。まったく、世話の掛かる魔王様だ。

 さっそくヴェルトは俯いてワナワナと奮えていた。どうやら、感動し過ぎて奮えているのであろう。感動を誘う俺はやっぱり偉大だ。ヴェルトにも見習って欲しい。

 ヴェルトはクワッと顔を上げた。

 その表情は酷く赤みがかっていた。興奮し過ぎだろヴェルト。そんなに感動されたらいくら俺でも恥ずかしい。


「いや、そんなに心が奮えるとは思わなかったよ。でもヴェルト、恥じることはないよ。俺は偉大だから仕方ない」


 感動をして止まないヴェルトにこれ以上、偉大だと示さなくていいという気持ちを込めて言った。

 その偉大な俺の言葉を聞いてかヴェルトは更に顔を紅潮させた。また偉大だと思わせてしまった。まったく、俺ってば。


「……お前が偉大だと?」


 ヴェルトは震えた声で言った。


「あぁ、そりゃ偉大だろう」


 当然、といった声で返す。まぁ当然だからそういった声にはなる。


「偉大なら……」


 ヴェルトは言いながら、手に魔力を集束させた。

 あれ、デジャブ?


「これぐらい防いでみろ! このゴミがッ!」


 ヴェルトは『永遠なる業火』を放った。


「これ、三度目ぇぇぇぇ!」


 俺は必死になって避けようと剣を捨てて横に飛び派手に転がる。

 なりふり構わず横に飛んだおかげで直進してきた『永遠なる業火』を避けることが出来た。


「それで防いでみたつもりか! 甘いわッ!」


 ヴェルトは叫んだ。叫んだ内容が気になり、俺は避けた『永遠なる業火』を見た。そしてギョッとする。


「ウソッ! マジかよッ!」


 ある光景を見た俺は驚いた声をあげた。

 ある光景――それは避けたはずの『永遠なる業火』が再度、俺に向かってきていた光景。

 これでは『二度あることは三度ある』と証明してしまう。それは是非ともキツいので否定しなければ。

 俺は必死に周りを見渡して何か回避する術がないか確認する。


「無駄だッ! この俺が放った魔法を防ぐなど俺の魔法と同等の力がなければ防げん!」


 ヴェルトは己が魔法の威力を説明した。もっと嬉しい説明をしてほしいものだ。


「クッ!」


 俺は思わず呻き声をあげる。『永遠なる業火』は俺を弄ぶようにゆっくりと詰め寄ってきた。ゆっくりといってもこのままでは俺のもとへ到達してしまう。

 必死に周りを見ても特に役に立ちそうなのは――。


「これだッ!」


 俺は壁に掛けられていた漆黒の短剣を手にとった。これは魔王の玉座にある剣だ。だから、凄い剣に違いない。

 俺は漆黒の短剣を右手に持って構えた。

 漆黒の短剣は何故か俺の手に馴染むような感覚があった。


「お前がその剣を扱えるものか! 大人しく焼かれろ!」


 ヴェルトは俺の姿を見てそう言い捨てた。


「そう簡単に諦めてたまるかぁぁぁ!」


 俺は叫びながら漆黒の短剣を『永遠なる業火』に向かって振るう。絶対に斬ってやる。諦めてたまるものか。あんな目にあうのは――もうゴメンだ。


「ガキィッ!」


 俺の斬撃が『永遠なる業火』とぶつかりあった。

 どうやら、一瞬で弾かれるような結果には繋がらなかったようだ。


「何ッ!?」


 ヴェルトは予想外だったようで驚きの声をあげた。

 だが、まだ本当に予想をぶった斬ってはいない。俺はそうなるように漆黒の短剣を持つ手に力を込めた。


「う……おぉぉぉぉぉ!」


 全力を振り絞るように叫び声をあげながら力を込めた。

 漆黒の短剣はそれに答えるように黒き光を発した。


「まさかッ!?」


 ヴェルトが驚きの声をあげた。

 その声が聞こえた直後に『永遠なる業火』が俺の手によって斬られて消滅した。


「……はは、やったぜ」


 俺はやってのけた。ヴェルトの予想を斬ってやった。

 そのヴェルトは余りの驚きで固まっていた。

 今まで俺が予想外な程に期待外れでしか相手を驚愕させれなかった。だが、今回は違うようだ。これは気分が良いな。


「どうだヴェルト! やっぱり俺はすご――」


 俺はそう言いながら床に倒れた。何故か解らないが疲れたようだ。

 俺は床に突っ伏したままに瞳を閉じていく。


「……今後はお前を名前(グレイ)で呼ぶ」


 俺が瞳を完全に閉じて意識が落ちる前にヴェルトは俺を名前で呼ぶと決めたようだ。

 それを聞いた直後に気が抜けて意識は闇へと誘われた。

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