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諜報結果報告  --<魔王>--






 窓からは月の光が差し込み、部屋を照らす。その光を持っていつも通り仕事をしていた。


「コンコン」


 そして、羊皮紙の内容を読んでいく途中にドアからノックがした。

 特に重要案件を考えていることでもなかったので部屋に招き入れる。

 

「入れ」

「失礼致します」


 部屋に諜報員(マシュー)が入ってきた。

 

「何かあったのか?」

 

 マシューが部屋を訪れるということは何か重要な事があることがほとんどだ。大方、報告内容について予想もついているが、部屋に入ってきたマシューを見るなり、何かあったか尋ねた。

 

「はい、ヴェルト様。どうやら、人間達が戦争を行おうと算段しているようです」


 マシューはいつも通り、無表情と言う言葉が似合う程に感情をなくした顔で言葉を告げた。

 報告にあった内容はかなり重要というよりも魔族の将来が掛かった内容であった。

 

「そうか、やはり勇者の報はしておくべきだったか」

「ですが、ヴェルト様。魔族が『勇者との決戦は両者の合意の上で延期している』などと言ったところで、どの道『勇者が勝てるわけがない』と信じ込んでしまっている人間達の行動を変えることはできないでしょう」

「そうだな」


 確かにそうだ。勇者があれだけ弱かったことを考えると人間達はこの度の勇者と魔王の決戦の結果など目に見えていたはず。そのこともあって、戦争への強硬派などが人間達の間で力を増したのだろう。

 そして、実際に勇者が負けたことにより、強硬派の連中の思惑通りに戦争を始めようと動きだしたということだろう。

 これらのことは考えついていたが、報告を聞くまで杞憂であればいいのにと思っていたことだ。

 それがどうやら杞憂に終わらなかったのは、個人としては非常に残念なことだ。

 

「やはり、人間達と戦争を行うと魔族の被害も甚大なることとなると予想されているのですか?」

「うむ、そうだ。魔族の魔力が人間と比べて高いと言っても、人数の差があるのと人間にも強いヤツはいるから戦闘による魔族の被害は大きいこととなるだろう。

 それに戦闘によって農民達の生活や土地を荒らしてしまう。農民達にも影響が出ることによって、国の自給率も下がってしまい、食物に影響は出る。そして飢餓によって苦しむ魔族も出てしまうし、荒れる魔族も出てくるだろう。

 そうなれば、国は荒れすぎて手をつけられない。といった程度の被害が出る可能性があるとは予想している」

「そうですか」


 魔族の能力が高いといっても魔族の兵士では十倍の戦力を相手にして無傷で戦えるわけはない。

 確かに俺や魔将軍などの強い力を持った魔族にとって十人の人間の兵士が束になっても敵にはなりえない。だが、俺や魔将軍クラスの強さを持つ人間にも存在しているし、それ以下のクラスでも中々に強い人間もいる。そういった者達の十人と戦うのは俺や魔将軍でも無傷、いや、勝利を絶対に手にできるかは難しいといったところだ。


 そういったところもあり、実際には戦力として魔族が人間を圧倒しているわけではなく拮抗した状態となっているため、戦争は勝てたとしても激化し長引く。


 そうなると農民達にも甚大な被害を与えてしまう。土地は戦闘によって疲弊し、枯れ果ててしまい、男手は兵士として借り出すことも出てくる。弱き子供や女は戦争によって我が国に侵入してきた人間の手によって殺されてしまうことも出てくる。


 農民への被害により、我が国には飢餓で苦しむ人も出てしまい、苦しむ者が荒れることも国の現状を見て荒れる者も出てくる。

 もはや国は荒れすぎて立て直すには相当な時間を要するようになってしまう。

 それが戦争を行った結果といったところだと予想していた。


「どうにかして戦争を止めなければな」


 そうそうした状態へとなる戦争は止める必要がある。

 そうでなければ、『勇者・魔王協定』を結ぶことに至った先祖達の嘆きを無視してしまうこととなる。

 

「そうですか。ですが、戦争を止める手立てはないと存じ上げますが」

「いや、一時的に戦争を止める手段はある」

「そうですか。ヴェルト様がそう考えておられるのであれば、問題ないことなのでしょう」

「といっても五分五分の作戦だがな」

「でしたら、勝率を上げるために動くことはございませんか?」

「いや、マシューに動いてもらうようなことではないから大丈夫だ。とりあえずマシューはそのまま諜報を続けておいてくれ」

「了解致しました」


 そう言ってマシューは低頭した。

 普通ならば、自身の諜報活動にも影響が与える可能性のある作戦内容を聞いてみたくなるとは思うのだが、マシューは何ひとつ聞かない。本当に優秀だと言える。恐らく、俺の言葉を信用をしてくれているからだろうとも思うが、中々出来ないことだ。

 

「そうだ、マシュー。人間が戦争をする理由は何だったのか解るか?」

「理由は『大飢饉により蓄えもなくなり、飢餓で苦しむ人がいる』といったところでした。といっても戦争の強硬派としてはあくまでキッカケとして利用しただけのようです」

「そうか、解った。その問題を解決出来れば、戦争を一時的にではなくキッチリと止めることは可能か?」

「私は可能性としては高くなると推測しております。但し、強硬派の意思を滅することは出来ないので絶対とは言い切れませんが」

「そうか、解った。戦争をキッチリと止める手立ても考えついたから、そっちを実行できるように手配しておいてくれ」

「了解致しました」


 その後、手配する内容についてマシューに説明をする。

 説明を聞き終わったマシューは「失礼致しました」と言って低頭して出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅー、一時的に止めることが出来るといったが大丈夫だろうか?」


 自身が考えた作戦の勝算を考えて頭を抱える。

 実際には五分五分とは言えない程に低いかもしれないからだ。

 あの場ではマシューには五分五分といったが、実際には今の状況では解らない。なんと言っても、自分次第ではなく、勇者次第といったところだからだ。

 一時的に止める作戦が上手くいかなかった場合は、キッチリと止める作戦も上手くいく可能性は低くなる。

 

「まったく、魔王のくせに魔族の未来を守れないとはな。そのくせ、勇者が魔族の未来を守るかもしれないなんてな」


 そう一人、呟いて床についた。

 

 






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