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国会  --<聖女>--








「この度の勇者と魔王の戦いはやはり、魔王の勝利に終わったのではないのか?」

「うむ、そうだな。連絡はないが、勇者の実力から考えて恐らく外れていないだろう」

「ならば、やはり戦を行うべきではないのですか? 我が国は大飢饉により蓄えもなくなり、飢餓で苦しむ人が溢れてしまっている。これ以上、魔族に領土を取られては我が国には滅びます」


 この場では人間の国王と将軍などと言った人間族の層々たる面々が一同に会し話を行っている。

 勇者と魔王との戦いに関する話をしている。

 そして戦争を始めようという会談だ。


「また戦争を始めるとこの協定を結ぶ前の状態のように泥沼化して問題があるのではないですか?」


 私は教会の聖女の地位をもってこの場で反対意見を出した。

 そして意見すると同時に皆が会談している場に一枚の羊皮紙を出す。

 それは協定の書かれた羊皮紙。








『勇者と魔王の戦い』

 嘗て、勇者の属する光の民(人間)と魔王の属する闇の民(魔族)により戦争は泥沼状態で行われていた。

 戦争は泥沼状態で長く長く続いてしまっていた。その戦争は地獄と呼んでも差し支えないほどにひどかった。

 餓えた人間は人間を襲って食料を確保し、魔族と通じている者ではないかと魔族裁判を行われたりした。

 敗走する魔族は同じ魔族に誇りなき者として処刑された。

 戦争により土地は疲弊し、作物は育たなくなり、人口は著しく減退した。

 この戦争の両国を代表する勇者と魔王は問題視をし、協定を結ぶこととした。

 

・勇者・魔王協定

 戦争については一時休戦とし、相手の領土に許可なく侵入することを禁ずる。

 また、代表する勇者の末裔と魔王の末裔の一騎討ちを行い、勝者に領土を譲渡する。

 また一騎討ちは20年に一度行うこととする。

 







「この勇者が記した通り、協定は両国の代表により取りきめられた協定。それを破るとなると悲惨な戦争に発展し、我が国の民に被害が出ます」

「ふん、その前に暴動が起きてしまうわッ! それをどうするというのだ小娘がッ!」

「それでも――」

「双方ともに黙れッ!」

「……くッ!」


 将軍と私の間に国王が割って入る。

 さすがの私と言えど国王に意見する程、立場は強くない。

 というよりもこの場で一番低い立場だ。


「トランター将軍、お主の意見を申してみよ」

「はッ! それでは意見を述べさせて頂きます」


 先程まで私に対して高圧的な態度をしていた、髭をたっぷりと生やした大男のトランター将軍が立ち上がり、意見を述べる。

 ちなみに立ち上がる時にこちらを見て勝ち誇った顔をしていた。……本当にむかつく。


「この度の勇者と魔王の戦いは我が国の勇者の負けと判断し、戦争を行おうと思います。それから先程、小娘――失敬、聖女マリア殿が仰ったように泥沼化は免れたいことは必至です。だから、私はそうならぬように策を用意しております」

「うむ、どういった策だ」


 国王はトランター将軍の意見に口をはさむことなく、先を促す。

 私も意見をしたかったが、国王の意見に介入し、話を止めるようなことは出来ない。


「それはです。我が国の民はあれから、何倍にも膨れ上がったこともあり、兵力も数倍となりました。それに対して魔族はあれからそこまでの民の増大もなかったため、兵力の増大もそこまでないと考えられます。このことより、まず真正面から敵対したとしても数倍の兵力となった我が国の勝利は間違いないでしょう。

 また、我が国が誇る兵士を宣戦布告の使いと出して、宣戦のついでに魔王を暗殺するのです。史実から読み取るに奴等は正面からの戦いにしかなれていないはず。だから、魔王は暗殺できるはず。そして、魔王が暗殺できたとするなら話は早いです。後は相手が降伏でもしてきたところをバッサリと切り捨てていくだけですから」

「うむ、良い考えだな」

「ハッ! ありがたき言葉でございます」


 国王はトランター将軍の意見に賛同の意を示した。

 これ以上のない愚策だというのに。

 確かに兵士の人数でいえば、魔族比べるほどもないくらいに多いだろう。

 ……だが、魔族は民一人一人が戦おうと思えば、人間の下級兵士並には戦える。そのことにより実際に考えているよりも兵士の人数の差は少ない。

 あと、もちろんだが人数のみで戦の勝者が決まるといったことではない。

 やはり人数も勝つためには必要だが兵士の熟練度も必要となる。なぜならば、いくら兵士の人数が多くても熟練度が低い兵士であれば、戦いでも役に立たない。

 人間は平和ボケしたということもあり、熟練度はそこまで高いとは評価しにくいだろう。

 それに比べて魔族の兵士はモンスターが住む森などが近いということもあり、実戦は豊富で熟練度も高く、一人一人の魔力も魔族特有で高い。

 それから暗殺などを行い、敵の大将を打ち取ったところで汚い策で打ち取ったということになるだろう。すると魔族の怒りを買う可能性も非常に高い。怒りを買ったため、彼らが死兵にもなって我が国を責めるとなれば我が国もろとも両国が滅びることだろう。

 大体、暗殺を行ってきた国に対して降伏するなどと思っているようだが、そんなことはありえない。汚い策により、国王を暗殺されて黙っている国などないはずだ。

 といったようにダメな点を挙げればキリがないといった程にまったくもって愚策としかいいようのない策だ。

 だから、この策には反対しようと口を開く。

 

「国王様、先程の策に関しては――」

「黙れッ! お前は軍の人間ではなく教会の人間だろうがッ! 戦いの素人のお前如きに策に対する意見なぞ出来んはずだぞッ! それとも教会様は絶対の境界を飛び出して、軍も取り仕切り国の掌握でも行うつもりか?」

「くッ!」


 確かにトランター将軍の言う通りだ。

 だが、策が採用されてしまってからでは全てが終わってしまう。

 

「私は――」

「うむ、この度はトランター将軍の良策に任せてみるぞ!」

 

 自分の処罰は気にせずに意見をしようとした矢先に国王が割って入り、決定してしまった。

 地獄の選択を決定してしまった。

 

「策を挙げたトランター将軍よ。後のことはお主に任せた。朗報を期待して待っておるぞ」

「ははッ! 国王様のご期待に添えるように努力致します!」

「うむ、良い返事だ。では会議については以上とする」


 国王は会議を以上とし、部屋を出て行った。

 私は先程決まった策の内容に茫然としたまま、椅子に座っていた。

 

「ふん、小娘がッ! お前はただの教会のお飾りでしかないのに意見などしよって! だがな、お前の意見に反して戦争は決まってしまったのだ。だから、お前は教会にでも戻って黙って指でも加えて俺の活躍でも聞いておけ!」


 トランター将軍は私にそう言って「ガハハハッ」と笑いながら出て行った。

 その後にトランター将軍と共に幾名かの将軍と大貴族が私を睨みながら出て行った。恐らく、トランターと同様で戦争を行うことに賛成している者達なのだろう。

 そうして、人を見送っている内にほとんどの者達が会議室を出て行ってしまった。

 そうほとんど出て行った。だが、ほとんどということは残った者達がいたということだ。それは私を除いて二人いた。そして、そこに残った一人となる青年と呼べる程に若い将軍――レニが口を開く。

 

「マリア殿、私はマリア殿が考えていることと酷似した考えをしていると思います。恐らく、これが地獄を作るの引き金になると」

「そうですわね。私は確かにこれが地獄を作るの引き金と考えています。だから――」

「何としてでも止める必要があるでしょ?」


 私のセリフを奪ったのはこの場に残ったもう一人、大貴族の一人であり『凍結の魔女』という異名を持つほどの実力のある若い女性――ミネアだ。


「そうです。止める必要があります。だから、今から私たちで作戦会議をしませんか?」

「あら、奇遇ね。私もちょうどそれを提案しようと思っていたとこだわ」

「そうですね。及ばずながら、一将軍である私も参加させていただきましょう」

「いいわよ。というよりもあなたの参加は決まっていたのだけどね。それに先程のは会議と呼べる代物ではなかったしね。ちなみにだけど、私は参加しているつもりはなかったわよ。仕方なく来てやったってだけだしね」

「確かに、私もそうですね。さっきのは軍を掌握したトランター将軍のしたいようにしていた会議ですしね。正直に言って意味があったのかは疑問ですね」

「あんたよく言うねぇ」

「はは、ミネア殿程ではないですよ」

「なにおぉー!」


 はっきりとしたミネアの言葉とレニの言葉のやり取りに思わず笑みがこぼれる。先程までの絶望とは打って変わって余裕があるのかもしれない。

 この国はまだ捨てたものじゃないと思わせてくれて、余裕を与えてくれるには十分な程に心強い二人だったから。

 

 

 

 





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