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Pirouette  作者: るるる
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番外編_姫様と私(8)


思い返さずともこの1年間はあっという間に過ぎて行って、再び春が来た。姫様に恋してもう1年も経ったのだと思うととても感慨深い反面、恋をした瞬間に今まで退屈で堪らなかった日々が一瞬で過ぎ去ったことに気付いて驚く。恋って凄いな。

なんてことを給仕しながら考える。今夜は姫様のお誕生日をお祝いするパーティだから、普段は台所で芋の皮を剥いたり、荷物を運んだり、掃除をしている所謂雑用係の私まで人様の世話をする羽目になってしまった。人手が足りないんだってさ。それはまあ分かるけどさ、分かるけど…うーん、どうせならおじさんのお世話よりも姫様のお世話をしたいよ、私は。どうせなら楽しく仕事したいよね!


「おい。」

「げ、出た。お坊ちゃま。」

「誰がお坊ちゃまだ、誰が。」


あっちにこっちに忙しなく走り回っていれば、唐突に声を掛けられた。誰かなんて考えるまでもなく分かる。このものっ凄く不機嫌そうな少し低い声はあのお坊ちゃまの他ならない。案の定、声の方を向いて嫌々ながら目視すると悔しいけれど綺麗な亜麻色の髪とおいなんだそのセクシーな格好は。お前本当に騎士か?なんで胸元全開の服なんて着てるんだよ!…とは口にしなかったものの、まるで台所でゲジゲジを見た時のような反応を示してしまったから思い切り睨まれてしまった。おい、そういうとこだぞ!そういうことするから私は君が嫌いなんだよ!まあそれだけじゃないけどさ。

とはいえ、一応は上司にあたる人物だから渋々「なんですか…?っていうか私今忙しいんですけど……。」とさりげなく迷惑なんですけど的なニュアンスを込めて返事をすると、お坊ちゃまは私を見下ろしてふっと鼻で笑った。は?なにこいつめっちゃ腹立つんですけど…。上司じゃなかったら右手のワインボトルで惨劇が起きてること間違いなしなんですけど。


「そうか。姫様がお前をお呼びだけれど、忙しいなら仕方がないな。」

「いえ、たった今暇になったので大丈夫です!!行きます!!行かせて下さい!!」


な、ん…だと…?姫様が私を呼んでる?私を求めている?よし、血祭は今度にしてやる。有難く思えよな!と咄嗟に手にしていたワインボトルを元の場所に突っ込んでは、エプロンで手を拭きながら即座にそう答える。やばい、今の私、過去最高にきりっとしてる…。鏡で見なくたって分かる、今の私は確実に漢だ。こんな真剣な表情、お坊ちゃんじゃなくて是非とも姫様に見て貰いたい。どうせ鼻で笑うんだろお前!と思いながらも目の前の人を真剣に見上げると、私の予想に反してお坊ちゃまは心底おかしそうに声を上げて笑った。え、そこ爆笑するところ?いや鼻で笑われるよりはいいけどさ…って、なんだ。ずーっと難しい顔ばっかりしてると思っていたけれど、ちゃんと笑えるんじゃん。自分のことでも姫様のことでもないのに、なんだかほっとしている私が居て少しだけ驚く。

お坊ちゃんも、そんな顔できるんだな。素直に笑ったりできるんじゃん。その表情の方がずっといいよ。──とは思うけれど、絶対に言ってはやらない。だって恋敵に塩を送れるほど、私は大人でも漢でもないのだ。


「お姉さん!…ごめんなさい、忙しかったでしょう?」

「いえいえ、ちょうど手が空いてましたから!というか、姫様の為なら何があっても駆けつけますので!もっと!私を!頼って下さいませ!!」

「ふふ、相変わらずへんな人ね。」


なんだか自分でも驚くくらいにお坊ちゃんと言葉を交わしながら足を進めると、私に気づいた姫様が駆け足気味に駆け寄ってきて下さった。はい可愛い。少しだけ申し訳なさそうな声も言葉も控えめな笑顔も最高オブ最高。鼻息荒く答える私にくすくすと笑うその表情だけで昇天しそう。ああ、可愛い…天使…。一体何をどうしたらこんなに可愛くって純粋で、かつひとつひとつが初々しい反応を示す子が生まれるんですか?もしや私、今、姫様を通して世界の神秘に触れてる…?宇宙誕生の瞬間に立ち会うレベルの神秘では???

とまあ、いつになく真剣な表情で姫様を見詰めていると、小首を傾げた後に何か変なところでもあったかと身体を捻って自分の恰好を気にしだすその仕草さえも可愛い。可愛すぎて一周回って有罪。いや、やっぱ無罪だわ。


「あのね、わたし、せっかくならお姉さんにお世話して貰いたくて。…だめ?」

「ダメなわけないですよ!勿論喜んで!!精一杯務めさせて頂きます!!」

「ありがとう。…それと、リーンにも何か持ってきてあげて?」


えっお坊ちゃんにも?と思ったけれど、今日のお坊ちゃまは機嫌がいいのか全然嫌味を言って来ないし、それどころか年相応の青年らしい表情を見せて貰ったことだし、…うーん、まあ、少しだけならいいかと頷く。まあ、それ以前に私が姫様のお願いを断るなんてこと絶対に有り得ませんので。「はい、お任せ下さい!」と胸を張って答えると、姫様は表情を緩ませて春のようにふわりと微笑んだ。うーん、可愛い。幸せ。この笑顔だけで、もう充分すぎるくらいに私の仕事へのお釣りが来てしまうのでは?

さて、それでは早速姫様のご期待とご要望に応えられるように精一杯お世話させて頂きますか!とさっきまでのおじさん相手とは比べ物にならないくらいの気合いだとかやる気だとかが沸いてくる。今、私、最高に漲ってる。現金だって?そりゃあおじさんと美少女の相手なら、おじ専でもない限りは全人類美少女の方がやる気出るでしょうよ。ましてやそれが恋している相手なら尚更にね!!


「…あ、そうそう、姫様!」

「なあに?」

「そのお洋服、とっても似合ってますね!普段の赤いドレスも素敵ですけど、その蜂蜜色のドレスも姫様に良く似合ってます!!もう最高です!!」


先ずはワインとグラスでも、と思ったけれど、その前に姫様に普段と違うそのドレスも似合っていることを伝えなければ。そう思った私は去年1年よりも少しだけ大胆に言葉を紡ぐ。でも、どうして今日は赤いドレスじゃないんだろう?姫様の瞳と同じ蜂蜜色のそのドレスだってとっても似合っているけれど、でも、私はやっぱり姫様と言えばあの深紅のワンピースドレスだと思うのだ。花のようにふんわりと広がった裾と、姫様の桜色の髪を際立たせる深い赤。あれが1番だと思うんだけどなあ。あ、でもパーティーくらいは別のお洋服着るよね。明日からはまたあのワンピースドレスに戻るよね。

…なんて考えながら、姫様がいつものように甘い笑顔で「ありがとう」と口にするのを待っていれば、私の予想に反して姫様は顔を真っ赤にすると「もう、早く行って!」と私を急かす。え、何?私今何か悪いこと言った?もしかして姫様はこのドレス、あんまり好きじゃなかったのかな?と咄嗟に考えるも、それは違うと女の勘が告げるから、私を押す姫様の小さな掌を背中に感じながらちらりと横目でお坊ちゃまを見遣った。おうおうおう、なんでお前はそんなに楽しそうに姫様を見つめてるんだ!?あのワンピースドレスに関して心当たりでもあるのか?お前何したんだよ!!姫様に何した?!


「え、何でですか姫様。何かあったんですか?!リーン様に何か言われたんですか?!大丈夫ですよ、とっても似合ってますから!!」

「何も言われてないからだいじょうぶ!だいじょうぶだから、わかったから、早く行ってよ、もう!」


いやいやなんで?私は姫様のことを心配してるんですけど!?だってその反応は絶対にあのお坊ちゃまに何か言われたでしょう。反応を見るに、似合っていない系の台詞ではないな?となるとあれか?私に言えないくらいに甘い言葉でも囁かれたんですか?私というものがありながら!いや全然告白とかなんもしてないけど!でも私の愛は伝わってますよね、姫様!!

背中に感じるのは小さな掌。非力ながらもグイグイと押しやってくるその手と、押される私と、そんな光景を見て遂に堪え切れずに笑い出したお坊ちゃま。なにこれ。終いには「おうおうおう、何楽しそうなことしてるわけ?あたしちゃんも混ぜろよな!!」だなんて言って例のあの美少女(本当に母親か?!)まで混じってきて、なんだかだんだん訳が分からなくなってくる。でもよく分からないはよく分からないなりに、なんだかとっても楽しい気分だから良しとしようかな!


「あ、そうだ。姫様!」

「もう、なあに?」

「お誕生日、おめでとうございます!!」


──こうして、また、私が姫様に焦がれる1年が始まるのだ。






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