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Pirouette  作者: るるる
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番外編_姫様と私(2)


まるでおとぎ話の中から飛び出してきたような完璧超人の良家のお坊ちゃま。名前は、ええと──そう。リーン・ヴァルシオ。彼は驚くことに、本当におとぎ話の王子様か騎士のように姫様を助け出してしまった。国中が固唾を呑んで姫様の無事をお祈りする中、どんな手段を使ったかは知らないけれど、彼は確かに姫様を守り切った。

それから、ひと晩明けた今日のこと。国中が大騒ぎの馬鹿騒ぎ。昨日までのお葬式ムードは何処へやら、国中の人々が老若男女問わずに顔も名前も知らない姫様の生存を喜んでいるのはきっと、陛下と殿下の人柄あってのことだと思う。貧しく、飢える者たちの為にこの国をお創りになった陛下。その陛下を優しく支える殿下。誰がどこから見ても仲睦まじい夫婦のもとで育った方なのだから、きっと優しく美しい方なのだろう。まあ、尤も私はただのメイドだから、これから先もそのご尊顔を拝むことなんてないだろうけれど。


──なんて思っていたけれど、そうやらそう思っていたのは私だけだったようで。なんと陛下は王族貴族庶民関係なく、成人の儀を公開すると仰った。となれば城に人が殺到するのは当然のことで。私だって勿論、姫様がどんな方か興味はある。けれど冗談でも何でもなく、国中の人が押し掛ける勢いだったから辞退しようと思った。だって人混みとか嫌いだし。

でも悲しいかな、私は使用人の中でもいちばんの下っ端。たとえプライベートな時間であろうと上司命令には逆らえない。出席するように強要されてしまった。まあ、上司の言い分も分かる。直接の接点はないけれど、確かに広義ではお仕えしている方なのだから、ご尊顔を拝まずして使用人といえようか。とてもよくわかる。でもいかんせん人が多い。多すぎる。まあ、諦めて出席しますけどね。だって上司命令だし。それに、やっぱり姫様がどんな方か気になるもの。


「うえー…やっぱり滅茶苦茶人が多いなぁ…。」


つい普段のように独り言を口にしてしまうも、それは人で溢れかえった騒がしい城内では誰に拾われることもなく、喧騒の中に消えていった。まだ春は始まったばかりだというのに、人でごった返した城内は真夏のように蒸していてとても暑い。率直に言って帰りたい。とても帰りたい。いや、ここに住んでるけどさ。使用人棟に住んでるけどさ。でも帰りたい。

一周まわって姫様のことを逆恨みしそうになった時、急にあたりが静まり返った。漸く始まるのかと思うと安堵の溜息が漏れる。そして、ついさっきまで心の中でぶつくさ言っていたくせに、今度は姫様が見えるようにも少しだけ背伸びするあたりが自分らしいというかなんというか。まあ、でも人間というのは得てしてこういう生き物でしょう?




──大広間の扉が開く。


人々の視線が、一気に其方を向く。無論、私もそのひとり。あまり大きいとは言い難い身体を必死に人の波の間に忍ばせて、時に背伸びして、縮んで、どうにかこの国の姫様を一目見ようと藻掻く。でも此処からじゃあんまりよく見えない。途端にもう帰りたくなるのだから、自分はほとほとダメ人間だと思う。

けれど此処まで来て途中退席なんてもったいないし、なにより自分にはそれが許されていないから、少し不貞腐れながら陛下が祝言を読み上げるのを聞く。うわの空で聞くそれは、まったくもって微塵も頭の中に入ってこない。ていうか真面目に聞いてる人っているの?どうせみんな姫様ばっかり見てるんじゃないの?なんて心の中で毒づく。その間も式は淡々と進んでいくのだから、やっぱりかみさまは不平等だ。


そんなことをぼんやりと考えていれば、不意に歓声が上がったから慌てて視線を上げる。人が物思いに耽っている間に一体何があったんだと歓声を辿っていくと、其処には姫様を玉座に座らせる陛下とその人がいた。

玉座に腰掛けたその人は、少しばかりぽかんとした表情をしていた。子供らしい、あどけない顔だった。困ったように眉を下げ、陛下を見遣る瞳は少し不安げで、とても儚かった。けれど陛下に促されるままにぎこちなく、そしてふにゃりと微笑んでは恥ずかしそうに視線を右往左往させるその愛らしい顔と仕草に、一瞬で私は釘付けになった。まるで職人が手を掛けて作り上げたビスクドールのような繊細な顔立ちと、春を思わせる甘い色の髪。なんだこれ。とんでもなく可愛い。いや、こんな可愛かったらそりゃかみさまも欲しがるわと妙に納得する一方で、甘酸っぱい初恋の思いそんなものはないのようにときめく私の胸。落ち着かせようと胸に手を当てるけれど、おさまるどころかいっそう激しくなるばかりの動悸に、ぽつりと呟く。


「…やばい……私、恋しちゃったかも…。」


まだ不完全な気持ちを小さく声に出した瞬間、顔に熱が集まるのを感じた。やばい。本当にやばい。私ってばどうしちゃったんだろう?もしやこれが恋?私の初恋?冷静に考えておかしい。寧ろ冷静に考えなくたっておかしいとは思うけれど、とにかく、あの笑顔にやられたことだけは確かだった。今この場での唯一の救いがあるとするならば、それは私の漏らした呟きが人々の喧騒の中に溶けて消えていったことだけだと思った。






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