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氷の魔女の料理屋さん~最愛の師匠を探してモフモフな食堂を始めました!~  作者: 遠野イナバ
外伝『師匠の卒業試験は鬼畜仕様でした』

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前編

 これは、当時のことです。

 師匠いわく、自分は人に教えるのが上手くないらしいから誰かを指導する時は課題を出すことにしている。それを見事クリアし、成長のほどを示してくれ。


 その言葉通り毎回出される課題をこなしていくことで、わたしは魔法の使い方を覚えていきました。

 その最終課題として言い渡されたのが──


睡魔鳥すいまちょうの討伐、ですか」

「そう。これから行く村では最近やたらと衰弱死を迎える奴が多いらしい。なんでも眠りについたまま目を覚まさないとかで、奇病だ呪いだなんだと神殿の連中が騒いでいたが……まあ睡魔鳥が原因だろうね」


 それをキミに討伐してもらう、と師匠は言います。


「あの鳥の羽は魔法を弾く。だから剣や槍を使うのが一般的だけど、いかんせんあの歌声のせいで接近できない。かといって余程の剛弓ごうきゅうでない限り弓では殺傷力に劣る。よって、結局は魔法だよりとなる。魔導師殺しの異名を持つ鳥。その羽を燃やせるほどの一撃を放てれば、晴れてキミは一人前の魔導師だ。──さて着いたな」


 淡々とした口調で説明し終えると、師匠は村の入口で足を止めました。


 小さな村です。

 丸太で組まれた門の先、村の中心では炎が上がり、亡骸が燃やされていました。

 火葬をしているのでしょう。

 すぐそばではお腹の大きな女の人が泣き崩れています。


 師匠は無言でその脇を通り過ぎると村長さんの家らしき戸を叩き、「どうぞ」と返事が返ってきた瞬間に家の中に入りました。

 おじいさんがびっくりしています。


「ああ、魔導師様でしたか。このたびはこんな辺境の村まで足をお運びいただき、まことに感謝を申し上げます」

「口上はいい。それよりも、この村では衰弱死をする奴がやたらと多いと聞いたが相違はないか?」

「はい、先月の話になります。山へ狩りに行った男衆おとこしゅうが帰って──」

「わかった。これから山に入るから住人たちには家の外に出ないよう伝えてくれ。それからこれを。気付け薬だ。念のため、全員飲むように」


 そう言って、机の上に薬袋を置くと師匠はすたすたと村長さんの家から出て行きました。


 師匠はあれで意外とせっかちなのです。

 村の状況は見ればなんとなく分かるので、なぜこうなかったのかの背景バックボーンまでは聞くまでもないと思ったのでしょう。


 でもわたしとしては気になったので、村長さんにおたずねしました。


 話はこうでした。

 先月、狩りに出掛けた村の若い男たちが戻ってこない。

 心配して村に残っていた者たちで捜索したところ、山中で倒れている男たちを見つけた。


 さいわい全員眠っているだけで、命に別状はない。

 村人たちは安心して彼らを村まで運んだ。

 しかし、起きない。

 声を掛けても、頬を叩いても、起きない。

 ずっと眠り続けて彼らはやがて息を引き取った──。


「そのあとにも山に入った者たちが眠り続けて亡くなる、ということが続きましてな。村の者たちには山への立ち入りを禁じたのですが、先日禁を破った者がおり……。出産を間近に控えた妻に精のつくケモノ肉をと狩りに行った者が命を落としました」


 暗い表情で語る村長さんにはかける言葉もありません。

 わたしはぺこりと頭をさげて退出しました。


 外に出ると、師匠が待っていました。

 扉の横。身体を壁に預ける形で腕を組み、遺灰を瓶に詰める女の人を眺めて師匠は言いました。


「その男も運が無かったね。この時期じゃ動物ひとつ見つけるのにも苦労するだろうに。そこへ来て睡魔鳥とは、大人しく妻のそばにいてやればよかったものを」


 いまの話、聞いてたんですかアナタ。

 だったら中に居てくださいよ。

 おかげでしんみりとした空気に当てられて、わたしまでどんより気分になっちゃったじゃないですか。


「さあ、山に入ろうか」

「え? 今からですか? あと数時間もすれば日が沈んじゃいますよ」

「それまでには片がついて戻れるよ。急いで」


 ということで、すたこらさっさと行ってしまった師匠をわたしは追いかけるのでした。


 ◇


 山に入って二時間ほど歩いたでしょうか。

 うっすらと空にかかる月。

 どう考えてもこのあと睡魔鳥を見つけて最速で倒したとしても、村に戻るころにあたりは暗くなっています。

 どういう計算をしたら『それまでには片がついて戻れるよ』になるのでしょうか。

 師匠の中での計算が気になるところです。


「あれが睡魔鳥だ」

「──へ? あ、あれがですか?」


 冬の山は足取りが悪く、疲れもあり下を向いて歩いていたわたしは師匠の声で顔を上げました。

 そこにいたのはずんぐりむっくりした鳥でした。

 巨大です。

 雪海(大陸北にある白い海)に住むというユキグマが立つとあれくらいになるかもしれません。


 きれいな緑の羽を広げて、くちばしで羽の手入れをしているようです。

 かわいいです。

 手なずて、お腹のあたりをもふもふしたいです。


「では、速やかに退治するように。時間もないからなるべく巻きで」


 そう言って師匠は近くの岩の上に腰をおろしました。

 そこから見学するんですね。

 ところで時間がないのはアナタの計算ミスですよ。わたしはちゃんと止めましたから。


「……ふぅ。あなたの身体を鉄串に! 縫いとめましょう、炙りましょう。炎の鉄串(ルイン・ナ・イグニス)!」


 高らかに呪文を叫びます。

 すると、三本の炎の槍が顕現して、睡魔鳥の頭上からスドドドッと落ちました。

 ちなみにこの魔法は師匠の十八番おはこのひとつです。

 対象物を炎の槍が串刺しにするので、相手が生きものならまず命はありません。


 わたしはぐっと拳を握り、勝利を確信しました。

 確信して、煙の中から出てきた睡魔鳥に蹴られました。痛いです。


「きゃあ!?」


 すざーっと地面を滑るわたし。

 見上げれば、目の前には鳥の足。

 知っていますか?

 鳥の足ってよく見ると気持ち悪いんですよ。しわしわしてて、細っこくて、骨ばっていて。

 それが眼前に迫ってきてわたしはもう悲鳴の嵐でした。


「いやああああああ! 気持ち悪いぃぃい! 炎の球(ノル・イグニス)!」


 急いで飛びあがり、逃げ、追ってくる睡魔鳥めがけて炎の球をおみまいします。

 ですが、次々とぶつかる攻撃には目もくれず、睡魔鳥はわたしを追いかけ回してきます。


『キュェェエ!』

「きゃああああ!」

『キュェェェェェエ!』

「きゃあああああああああああああ!」


 こんな感じの追いかけっこをぐるぐると。

 しまいには石につまづきわたしはすってんころりん。転んでしまいました。


「く……ノルイグニ──」


 そこでふいに、きれいな歌声が耳に入ってきました。

 その瞬間にわたしの意識は闇に溶けたのでした。


 ◇


「起きろ──起きろロゼッタ!」

「はっ!?」


 頬に強烈な痛みが走り、目を開けると、吐息がかかるくらいの距離に師匠がいました。

 やばいです。

 かっこいいです。

 心臓に悪いです。

 ドッと早鐘を打つ心臓を押さえて、わたしは自分が木の根元に身体を預ける形で座らされていることに気がつきました。


「やっと目を覚ましたか。あまりに起きないから滝つぼにでも投げ入れようと思ったところだよ」


 それ、わたし死んじゃいますよ!?


 わたしの頬から手を離して焚き火のそばに置かれた丸太に腰かける師匠。

 どうやらとうに日は落ち夜になっていました。


「す、すいません先生……。お手をわずらわせました。えっと、あれからどうなって?」

「睡魔鳥の歌声を聞いて眠ったキミがそのまま喰われそうになっていたから助けた。そしてこの場所に移動してキミが起きるのを待っていた。だけど起きないので少し手荒だが治療を施した、以上」

「治療……」


 わたしはつままれて痛くなった頬を擦りました。

 ヒリヒリします。

 これを治療と呼ぶかは議論の余地がありますけど、まあおかげで目が覚めたのでよしとしましょう。

 あ、冷やしタオルですか。ありがとうございます、師匠。


「これを食べたら今日はもう休むといい。それで明日また、アレに挑もう」

「は、はい! いただきます!」


 師匠からわんを受け取り、ひとくちこくり。

 身体の冷えも吹き飛ぶ温かいスープです。

 味は……正直おいしくないです、ごめんなさい。


 え? いやなにこの味……。

 おそらくそのへんから採った野草を使ったスープなのでしょうが、すごい雑味です。

 鍋を見れば濁った色。

 もしかしなくてもこれ、闇鍋ですか師匠?


「……あの、スープになにいれたんですか?」

「そのあたりに生えていたキノコと山菜と、ウサギの肉だけど」

「ウサ!? も、森の動物を採って食べたらダメですよ! 彼らはわたしたちの隣人。生活を共にする仲間なのに」

「それはまたおかしなことを言う。王都で鳥がうまいだなんだと言って、がっついていただろう?」

「が、かっついてませんよ!? それにあれは飼われた鳥だからいいんです!」

「なら、これも私が捕らえて飼い慣らしたウサギだ。一瞬だけどね。その上でさばいて鍋に入れた。これなら納得か?」

「ええ……なにその超理論」


 だいぶ強引な師匠の言い分に頷かざるをえないわたしは、もそもそと闇鍋をいただきました。


 ウサギさんすみません……。

 こんなにまずく調理されて可哀想に。

 どうせならおいしく料理されたかったですよね。

 でもちゃんと全部食べるのでどうかご安心ください。


 わたしは師匠手製のクソまずいスープをぐいっと飲み干しました。


「いつか、わたしがおいしいごはんを作って差し上げますね」

「そうか。期待しないで待っている」


 ひどい!

 確かにわたしも師匠に負けず劣らず──いえ、師匠のよりも料理がヘタですが!


「早く帰っておいしいごはんが食べたい……」

「なら、明日こそは睡魔鳥を倒すことだな──おやすみ、ロゼ」


 ホボット草のハーブティーで口の中の雑味を洗い流していると、ぽんっと布を渡されました。

 薄手の毛布です。

 それにくるまりわたしは横になりました。


「ふわ……」


 疲れもあり、すぐにやってくる眠気。

 ぼんやりとした頭で焚き火の奥にいる師匠の姿を見つめます。

 丸太の上に座って火の番をする師匠。

 なんだかこう、かがり火が発するほのかな光源もあり、昼間に見るときよりも大人の色気的なものが増してドキドキです。どうしよう。


(そういえば……)


 森族の里を出て王都に行ったときも、今回こうして依頼を受けて村まで来た道でもそうでした。

 旅の途中で何度か野宿をしましたけれど、わたしはこの人が寝ているところを見たことがありません。

 いつもこうして起きています。

 火の番なら交代で、と言っても「気にするな」と言って寝てくれません。


 いちおう師匠の星霊せいれい──リィグ様がいる時だけは見張りを彼に任せて寝ているようですけど、それでもわたしよりも遅く寝て、早く起きて、といった感じです。


(……寝顔、見てみたいな)


 そんなことを思い浮かべていると、おもむろに師匠がこちらを向きました。

 早く寝ろ、と言われました。

 はい、すぐに寝ます。おやすみなさい。

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