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氷の魔女の料理屋さん~最愛の師匠を探してモフモフな食堂を始めました!~  作者: 遠野イナバ
最終章『眠りの村の調査依頼』

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48 オレンジリゾットを召し上がれ(完)

 ふわりと薫る芳醇ほうじゅんなオレンジの香り。

 オレンジリゾットを師匠にお出ししますと、ずっと欲しかった一言をいただけました。


「──うん、うまいよ。腕をあげたね」


 やった!

 歓喜です。


「よかったぁー……。村の人たちからお土産にオレンジの実をもらっておいて助かりました。──これでやっと師匠より美味しいご飯を作るという野望が達成できましたよ!」

「いやあ、ロゼちゃん。こいつのクソまずい料理を基準にしてたらダメだろ」


 師匠からの賛辞を噛み締めていると、器用にオレンジの実だけを避けて、リゾットを口に運ぶエルフィードおじさまから乾いた笑いが返ってきました。


 いいんです。

 そのクソまずい料理よりもド下手なところからここまで来たんですから。


 エルフィードおじさまが話題を変えます。


「そういや、睡魔鳥すいまちょうの討伐、ひとりで大変だっただろ。どう? 耳栓役に立った?」

「えっと、まあまあ……。あと、ひとりではなかったです。先に行っていた派遣隊のみなさんと、それから友達のアルバちゃんも一緒でしたので」

「友達? なんだ、ロゼちゃん人間の友達できたんか。前はオーゼン以外の人間は怖い~とか言ってビビってたくせに」


 むしろこいつが一番怖いぜ?

 とか失礼なことを言って、エルフィードおじさまが師匠に足を踏まれています。


 テーブルの下で。痛そうです。


 あとノルさんが『オレも一緒に戦った』とでも言いたげにわたしを見てきます。

 こちらはスルーで。


「アルバちゃんは特別です。優しいですし、うちの常連さんでもありますから」

「へえ、そっか。今度紹介して?」

「ダメです。おじさまには会わせません」

「ええ~、ロゼちゃん厳しいー」

「まあ、この時期はときおり睡魔鳥の被害が出るけれど、今回は少しタイミングが悪かったな。よく無事に帰ってきた」


 さて、と言ってスプーンをお皿に置くと、師匠は椅子から立ち上がり、懐から何かを取り出しました。

 青薔薇(あおばら)のブローチです。


「それ! ひいおばあさまの髪飾り(ブローチ)!」


 懐かしき、とある春の日。

 借金返済のためにと手放したひいおばあさまの形見です。

 宝石店に売りに出してから、たびたび店を訪ねて人手に渡っていないかチェックしていたのですが、いつしか売れてしまい、がっくりと肩を落としたのをよく覚えています。

 なぜ師匠がブローチを?


「隣国の露店で売られているのを見つけた。とくべつ買うつもりは無かったんだが、店主に押し付けられてね。……まあ、これも縁だ。キミに返しておこう」


 わたしの手のひらにぽんとブローチが置かれます。


「──では、疲れているだろうから私はもう帰るよ。ご馳走様。エルフィード、お前もあまり長居はするなよ」

「おう」

「ええ!? もう帰るんですか? お店に入ってわずか一時間三十八分で⁉ 先生、食べるの早すぎですよ! あとブローチありがとうございます!」

「どういたしまして。それからそれだけいれば『わずか』どころか充分長いと思うが……」


 あと、前半はほとんど喋っていたからだろうが、と若干呆れたような声が返ってきました。

 そうですけど。そうじゃないんですよ。


「……また、来てくれますか?」

「今度の休みに。予定が空いていれば、だけどね」


 それ、一体いつになるんですか……。

 わたしががっくりと肩を落とすと、師匠は少し困ったように微笑みました。


「悪いな。出来ない約束はしないんだ。だから代わりに、こう伝えよう」


 そこでいったん口を閉じ、慎重に言葉を選ぶようにして、



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。次は──そうだな。オレンジピザでも用意して待っていてくれ」



 そう告げて、師匠はお店を出て行ったのでした。


「……帰っちゃいました」

「まあまあ、そう落ち込むなって」


 ぽんっとわたしの頭を撫でて、おじさまは言います。


「誰に対しても昔からそうなんだよ、オーゼンは。その代わり、あいつが守ると言った約束は、()()。死んでも、いや──死ぬことなく守り通すのさ」


 言葉には魔力チカラが宿るからな、と切なげに呟いてからおじさまは表情を切り替え、『おかわり!』とお皿を渡してきました。

 いや、帰ってくださいよ、アナタも。



 ◇ ◇ ◇



 結局、リゾットを三杯もおかわりしてからエルフィードおじさまはお店を出ていかれました。


 今夜はわたしの家に泊まるとか仰るので近場の宿をおすすめしましたけど、あれは間違いなく師匠のお宅に突撃する気満々です。

 迷惑そうな師匠の顔が思い浮かびます。

 むしろわたしが突撃したいです。


「うまうま~、ところでロゼ。このあとどうすんだ? 店、続けるんか?」


 皿を持ち上げ、リゾットをすすっていたノルさんが振り向き、たずねてきました。

 お行儀が悪いです。

 わたしは絵日記をつけながら返します。


「一応は。師匠が来るって言ってくれましたし」

「うん。『今度の休みに。予定が空いていれば』だけどな。思いっきり、断言を避けた言い方だよなぁ。まるで彼女に『次はいつ会える?』って聞かれてはぐらかす男のよう……」

「言わないでください。悲しくなるので」

「でも、そういうところも好きなんだろ?」


 ノーコメントで。

 そう返すと、お前将来ダメな男に引っかかりそう、って言われました。

 余計なお世話です。


「とりあえず、目標達成! これで最悪お店が潰れても、師匠に会えたのでもう大丈夫ですね!」

「それ大丈夫なんか? つーか、支払いは? ベルルーク侯爵とやらに返す金があんだろ」

「……あ、そうでした」

「ほれやっぱり。──こりゃ、まだまだ店は続行だな」


 そんなわけで、わたしのお店はもうすこしだけ続きそうです。がんばります。




    ◆◇◇ エピローグ ◇◇◆



〈妖精国〉ユーハルド。

 その王都の一角に佇む食堂は、今日もたくさんのお客さんで賑わっています。


 そこの店主は氷で篝火かがりな魔女さんです。


 提供メニューはオムライスを始めとした各種料理。そのほかにも魔女の依頼も受けるという彼女のお店は王都でもそこそこ有名な料理屋さんです。


 はい、わたしのお店ですね。


 正直、王都でいちばんの人気店になれたかというと、まだまだですけど、それでもわたしは元気にやっています。


 これは、

 ずっと会いたくて、ずっと待っていた、わたしの長い長い師匠探しのお話です。


 と、日記の冒頭には書きましたが、いいえ。

 これはノルさんと出会ったお話。

 友達ができたお話。

 常連さんとの小さな日々のお話。


 そう、ずっとひとりぼっちで森にいたわたしにたくさんの知り合いが出来て、そして師匠と再会できた物語。


 わたしがひとりじゃなくなった物語。


 今日もお店にはたくさんの人が来てくれます。

 だからもう寂しくはありません。

 わたしは笑顔でみなさんをお迎えします。


「いらっしゃいませ!」



─ Fin ─

このあと番外編と人物紹介を載せて終了です。

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