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氷の魔女の料理屋さん~最愛の師匠を探してモフモフな食堂を始めました!~  作者: 遠野イナバ
最終章『眠りの村の調査依頼』

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45/52

45 聞こえてきたその声は

 その夜、懐かしい夢を見ました。

 わたしが初めて睡魔鳥すいまちょうと戦ったときのことです。


「きゅう……ダメです。ししょー」


 師匠の足元まで吹き飛ばされたわたしは雪に突っ伏したままつぶやきました。

 呆れた顔でわたしを見下ろす師匠。

 なぜ睡魔鳥の歌声を聞くと眠くなるのかと質問してきました。


「え? 歌声に魔力が宿っているからでは?」


 そうだ、と頷き、師匠はその原理を説明してくれました。

 そのうえで、歌声を聞かなければその効果は無いということも。


「はい。だから耳栓を……」


 わたしは手のひらに乗せた耳栓に視線を落とします。

 でも、師匠は言いました。

 常に耳をふさいで戦えるわけじゃない。

 個人戦ならともかく、仲間と戦うときは連携が取れなくなると。

 たしかにそうです。

 悩むわたしを見て師匠は、さらに質問を重ねました。


 そんなとき、キミならどうする? と──



 ◆ ◆ ◆


 翌日。

 わたしたちは再び崖までやってきました。

 作戦はこうです。


「わたしとアルバちゃんで前衛を務めます。団長さん率いる動ける派遣隊のみなさんは弓で援護をお願いします。──ノルさんは彼らのそばに」


 見守っていてくださいね、と告げてノルさんの頭を撫でれば、こくりと小さな頷きが返ってきます。


「これからわたしとアルバちゃんであの鳥に魔法をぶつけます。合図したら全員、例のものを装着してください。──では」


 戦闘開始。

 わたしは杖を構え、少し離れた場所から睡魔鳥めがけて炎の球を放ちました。


 こちらに気づいた睡魔鳥が羽を広げて向かってきます。


 その羽を射抜くようにアルバちゃんの雷撃が走り、しかし予想通り緑の羽が魔法を弾き、雷矢らいやは反射。

 近くの木にぶつかり轟音をとどろかせると、メキメキとみきが倒壊します。


 それをわたしが風の魔法で吹き飛ばして睡魔鳥にぶつけ、


「当たった!」


 茂みの奥から討伐隊の誰かが歓声が上げました。

 ですが、これしきのことで睡魔鳥は倒せません。

 すぐに態勢を立て直した睡魔鳥が羽を高く掲げて歌う姿勢に入りました。


「みなさん! 作戦通り、耳栓を!」


 対睡魔鳥防音グッズ、耳栓。

 旅立ちの前にペリードさん経由でエルフィードおじさまがくださった耳栓です。


 全員が装着するのを確認し、わたしもすぽり。

 これで睡魔鳥の歌声はおろか、仲間の声は聞こえません。


 わたしはアルバちゃんの動きを見ます。

 睡魔鳥の右に移動しました。

 ならこちらは左へ。

 挟撃する形で睡魔鳥に狙いを定め──


大きな炎(ノルイグニス)!」


 赤い炎と黄金の光が同時に睡魔鳥を襲い、激しい突風が吹き荒れました。


「つづいてこちらもプレゼント!」


 わたしが炎の槍を空から落とすと、アルバちゃんも一歩遅れて雷槍らいそうを繰り出します。

 砂塵さじんが舞う戦場。

 これほどの強攻撃を重ねれば、さすがの睡魔鳥も倒れるはず。


 しかし、そう思っていた自分の見通しが甘かったことをすぐに実感しました。


『グェェェェェ!』


 鋭いいななきを上げて睡魔鳥は上空へと飛びあがりました。

 バサバサと羽音がして、口から放たれるは螺旋らせんの嵐。激しい旋風せんぷうが、わたしたちを襲いました。


「きゃあああああ!」

「──っ!」


 互いに吹き飛び、耳からポロリと外れる耳栓。それを踏みつけるようにして睡魔鳥は地面へと降り立ちました。


「まずいぞ、ロゼ! このまま歌われたら」

「わかっています!」


 歌う隙など与えません。

 わたしはいちばん早く打てる炎の魔法を連射し、睡魔鳥の動きを封じます。


 派遣隊のみなさんの援護。

 アルバちゃんの雷の矢。

 防御に徹するしかなくなった睡魔鳥は、じりじりと後退しはじめました。


「これなら、行けます!」


 わたしは少しばかり長い詠唱へと移りました。

 刹那。

 炎の渦が睡魔鳥を包み込み、この場に降り積もる雪を溶かしていきます。


 そうして火力が落ち着いたころ。

 ぱぁんっ! と炎の壁を破って睡魔鳥が中から出てきたのでした。


「──む、無傷⁉ これでもですか!」

「チッ! 矢を放ち続けろ!」


 アルバちゃんが叫ぶと、派遣隊が放つ矢の雨が降ってきました。

 ですが、矢切れ。

 用意していた矢を使い果たしてしまい、最後の一本が睡魔鳥の足元に落ちるとぱたりと止んでしまいました。

 睡魔鳥がわたしめがけて蹴りを繰り出し──


「きゃあ!」

「ロゼ!」


 ずしゃーっと地面を転がり滑るわたし。

 ですが、不思議と体は痛くありません。

 その理由は起き上がるとすぐにわかりました。


「ア、アルバちゃんにもらった指輪が……」


 収穫祭パーティーの時に彼女からもらったらアミュレット。

 たしか一度だけ装着者の身を守ってくるものだったと記憶しています。


 それが割れて、こつんと地面に落ちました。

 呆然としたまま壊れた指輪を拾うと、さらに亀裂が走り、ぱきんと。

 指輪は粉々に砕け散りました。

 

「……」

「無事か⁉」


 アルバちゃんが駆け寄ってきてわたしの肩を掴みます。

 無事。

 ええ、無事ですわたしは。

 アルバちゃんが傍らで、調査隊のみなさんに向かって叫びます。


「おいお前ら! ここはいったん引く──」

「いいえ。続けます」

「──はあ⁉」


 アルバちゃんが素っ頓狂な声を上げました。

 わかっています。

 彼女は冷静です。

 この場で退却するのは正しいです。


 ですが、どのみちこのまま引いても物資はもう無いのです。

 外からの援軍は望めない。

 村の食糧も尽きかけている。

 なによりいま逃げ帰れば、全員の士気は下がり、もう二度とは戦えない。

 ここで決めなければあとがない。


 なにより、わたしは逃げたくない。

 なぜなら、


「アルバちゃんからもらった指輪を破壊したあの鳥、許すまじっ!」


 そうです。

 友だちからもらった大事なプレゼントを壊されて、怒らないヒトはいないでしょう。

 わたしは怒ります。

 激怒します。

 ブチギレです。

 よって、「滅びろ、クソどり!」と激情に任せてわたしは睡魔鳥に大火力の魔法を浴びせました。


 しかし無効。

 じゃあ、どうすれば。


 口から出た言葉とは裏腹に、幾分か平静さを欠いたわたしの思考はまとまらず、迫られた状況に焦るばかりです。

 そのときです。



『そのうるさい口を、塞いでしまえばいいんだよ』



 耳の奥で聞こえてきたその声は──


「ロゼェェェ!」


 突如、弾けるようにノルさんが茂みから飛び出し、ダンッ! と地面を叩きました。

 すると睡魔鳥の足元の土がうねり、その鳥足を固定しました。

 わたしは我に返り、叫びます。


「アルバちゃん! 一番強い雷魔法の発動の準備を! ノルさんはそのまま敵の固定を!」


 そうです。

 睡魔鳥の声帯には魔力が宿っている。

 だからその声を聞いてはいけない。


 そのための、耳栓でした。

 そのための、歌う隙を作らせない連続攻撃でした。

 でも、それが出来ない状況なら?


 そう、答えはひとつです。


「あなたに熱きいばらの贈りもの。──その口を閉じなさい! 炎の薔薇(ロゥゼ・メーラ)っ!」


 声が枯れるほど大きく叫ぶと、杖から炎のいばらが飛び出し、睡魔鳥のくちばしに巻きつきました。


『グエェ⁉』


 羽ばたき、逃げようとする睡魔鳥。

 ですが、ノルさんの魔法で足は地面に縫い付けられています。

 しゅるしゅると伸びるイバラが睡魔鳥の全身を覆いつくし、そして──


「いまです、アルバちゃん! 最大火力のイカズチをお見舞いしてください!」


 目を閉じ、数節にも渡る長い呪文を編んでいたアルバちゃんが、かっと目を見開き告げます。


「天竜神ヴィクタランの槍をここに! <雷竜の三叉槍(トリア・タランス)!>」 


 刹那、地鳴りのような轟音とともに空から巨大な雷槍が落ちてきて、睡魔鳥を串刺しにしました。


 すさまじい稲光いなびかり

 網膜が焼かれるような光に視界を奪われ、わたしの目に色が戻ってはじめて見えたのは、黒焦げになった睡魔鳥でした──


「……やったのか?」


 ノルさんのつぶやきが聞こえます。

 そして一瞬の静寂のあとに巻き起こる、野太い歓声。


「は、はあー……、つかれました……」

「だな、はあ……」


 ふたりともぐったりです。

 アルバちゃんと一緒に地べたに座りこんでいると、派遣隊のみなさんがやってきてすごいだなんだと褒めてくださいました。


 え? 胴上げ?

 すみません。勘弁してください。

 みなさんの絶賛に、疲れすぎて愛想笑いでしか返せないのが申し訳ない限りですけど、でも。

 

「……ありがとうございます、師匠」


 あのとき思い出した睡魔鳥の攻略法。

 聞こえてきた師匠の声に、小さくお礼を述べて、先に身体を起こしたアルバちゃんの手を取り、わたしは立ち上がりました。

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