44 人生初のガールズトークです
夕飯を取り終え、わたしとノルさんは洞窟の外で夜空を眺めていました。
「星がきれいですねー」
「だな。さすがは山。空気が澄んでて、星がよく見えるぜ」
夜の山はとても静かで空気が冷たくて、疲労で鈍った思考も少しですけどクリアになります。
わたしはノルさん(熱源代わり)をひざに乗せて冬の星座を探しました。
するとそこにアルバさんがやってきます。
「あんまり外にいると身体冷やすぜ?」
差し出された木のコップ。
受け取り、口をつけるとホッとする味です。
ハーブティー。
以前、睡魔鳥の依頼を受けた時も夜の山に野宿をする羽目になり、師匠がご飯を作ってくれました。
わたしよりも料理スキルが高い師匠。
いつか師匠の味を越えて師匠に『うまい』と言わせてやるんです! と心に決めた日でもあります。
その際、食後に淹れてくれたハーブティーは今飲んでいるものと同じくポポット草を煎じたものでした。
ちょっと苦くて懐かしい味です。
「はあ……、師匠ならあんな睡魔鳥、一瞬で灰にできるのに。わたしはなんてダメダメなんでしょう」
「それを言ったら私もだ。あの鳥、魔法に対する耐性が異常に高い。もっと至近距離で魔法を当てるか、それこそ一瞬で倒せるほどの強力な魔法を浴びせるしか勝てる気がしねぇよ」
「ですよねー」
わたしたちはぼけーっと星空を眺めながら無言のままハーブティーをすすりました。
ふと、アルバちゃんが聞いてきます。
「そういえばさ、あんたの探してる師匠ってどんな奴なんだ? 前にも少しは聞いてるけど、すげぇ強ぇ魔導師なんだって?」
「はい。わたしが知る中で最強の魔導師といえば師匠だけです。以前討伐依頼を受けて睡魔鳥と戦った時も、手も足も出なかったわたしと比べて師匠は、その……、雪玉ひとつで睡魔鳥を倒していました」
「「雪玉?」」
アルバちゃんとノルさんが、『え?』みたいな顔をしています。
大丈夫です。
わたしも、『え?』ですから。
「正確には睡魔鳥の動きを封じてくださったんですけどね。そこにわたしの魔法をぶつける形で睡魔鳥を倒した──。まあ、わたしに手柄を譲ってくれた、というわけですよ」
「ふーん、なるほどね。篝火の魔女の睡魔鳥討伐の実績にはそういうカラクリがあったってわけか。どうりでアンタの魔法、言うほど強くないわけだ」
「う……、バレてましたか。ですが、いちおうこれでも魔導師の中では中の上クラスなんですよ?」
「中の上……。強いんだが弱いんだが微妙なランク」
小声で失礼なことをぬかすノルさんですが聞こえてますよ。
中の上は充分強いです。……多分。
「白髪に、黄昏色の瞳をしたバカ強ぇ魔導師ねぇ……」
「アルバちゃん、心当たりが?」
「いや、ねぇけど。小さい頃にそんな昔話を聞いたことあったなと思ってな。ま、本の中の存在だ。あんたの師匠とは違うよ」
アルバちゃんは木のコップから顔を上げると、にやりと笑ってわたしの顔を見つめました。
「で? その師匠とやらに会ったらどうすんだ。愛の告白でもするんか?」
「──へ⁉ し、しませんよ⁉ なにを言っているんですか、いきなり!」
「そうだぜ、アルバ。こいつには俺がいるし、なんならあの眼鏡の兄ちゃんが泣くと思うぜ」
「あー、あの兄ちゃんは……あれは脈ナシだろ、なあロゼ?」
「えぇ? いや、ペリードさんは優しい人ですからそういう意味は無いと思いますよ」
「ほらな?」
「だな……」
ふたりはなぜか遠い目をして星空を見上げました。
ですが、突然始まったガールズトーク。
わたしは反撃の意をこめて、ちょっとばかし拗ねた口調でアルバちゃんにお返しました。
「それを言ったら、アルバちゃんには想い人とかいないんですか?」
「いるけど」
え、そんなあっさりと?
「い、いるんですか⁉」
「え? あ、ああ……うん」
前のめりで訊ねれば、アルバちゃんは若干引き気味な感じで頷きました。
こ、これは!
ニュースですよ、ニュース! 超ビックニュースです!
さっそく根掘り葉掘り聞いてみました。
「だ、誰ですか⁉」
「内緒」
はい、躱されました。
でもアルバちゃんいわく、十二歳年上の人だそうです。
年上好きなんですね。意外です。
先に戻ってると言うアルバちゃんの背中を見送り、わたしは再び星空を眺めました。
「いやー、まさかアルバちゃんとガールズトークができる日が来るなんて。長生きはするもんですねぇ、ノルさん」
「うん、俺はそれになんて返したらいい?」
お前、年だけ言ったら婆さんだし、などと言いやがるノルさんには『お腹の毛をぐにゅっと刑』です。
モフモフです。




