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氷の魔女の料理屋さん~最愛の師匠を探してモフモフな食堂を始めました!~  作者: 遠野イナバ
第九章『メイドさん事件簿 file.810』

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35/51

35 犯人はキミですか

「──おい、ロゼッタさん起きろ。時間だぞ」


「……はっ!」


「やだロゼちゃん。頬に服の跡がついているわよ」


 顔を上げれば、呆れた顔で目を細めるアルバさんと、ケラケラと笑うジェシカさん。

 どうやらわたしは眠ってしまっていたようです。

 つまりいまのは、夢。

 読書中に寝落ちするとはなんたる失態でしょうか。


 口から垂れたヨダレを拭い取り、わたしは書棚に本を戻します。

 せっかく貴重な本が読める機会だったのに。

 わたしは書庫から出ていくふたりのあとを追いました。


 ◇


 厨房へと戻ると、料理屋さんが床に倒れていました。

 その傍らには若いシェフさん。青い顔で「料理長ー!」と叫んでいます。

 一体なにがあったんでしょうか?


「実は、料理長が魔法陣の紙を踏んでしまって」


 聞けば、見習いシェフさんが厨房の窓を開けたところ風が入ってきて、わたしとアルバさんが仕掛けた魔法陣の紙が吹き飛んでしまったそうなんです。


 それを料理長さんが拾うとしてうっかり踏んでしまい、電撃ビリビリと。


 ……えっと、料理長さんはドジっ子キャラなんですか?


 わたしはちゃんと『気をつけてくださいね』と忠告しましたのに。

 しかもそれ、わたしがとくべつ強い電撃が落ちるよう改良したものですし。


「ぐ、まだ見ぬ料理がそこに……ガクッ」


「料理長ぉー! 骨は拾うっす!」


 拾われても。

 なんの茶番か気絶なされた料理長さんを涙ぐみながら運ぶ見習いくんです。


「おや? あれは……」


 開け放たれた窓。

 その下には白い羽が落ちていました。

 鳥の羽です。

 拾ってみるとまだ温かい。


 わたしはあたりを見回します。

 シンク。調理台。かまど。半開きの棚──いた。


「失礼します」


 わたしはスパーン! と勢いよく戸を引きました。

 そこにいたのは白い鳩。

 ポッポ便に使われる鳩さんです。

 犯人はお前かシロハト。


「どうやらこの子が豆泥棒のようですね」


 むんずと掴んで棚から引きずり出せば、シロハトさんはポカーンとしています。

 文字通り豆鉄砲を食らったかのよう。

 しかしすぐにハッと我に返ったのか、ドドドとわたしの指をつついてきます。

 痛いです。


 え? 食事中だから放せ?


 そのようにアピールされても放しませんよ。

 ジェシカさんが目を丸くして、ポンと手のひらを合わせました。


「鳩……? ああ、もしかしてエサをあげる人が休みだから、とか?」


「はー、それでか。しかし賢いな。戸を引くのはともかく瓶のふたを開けるとは……」


「くるポッポー」


 アルバさんの感想に『まあな!』とでも言いたげにシロハトさんが胸を張ります。鳩胸だけに。


「いたたたっ、痛いです。わわ!」


 シロハトさんは身体をよじってわたしの手から飛び立つと、棚に戻って豆を貪り悔いはじめました。


 そこにほかのシロハトさんたちが窓からやってきます。

 二羽。

 どうやら順番待ちしているようです。


 鳩の世界にも『並ぶ』という概念があるのですね。

 初めて知りました。

 意外とルールが徹底されている鳩社会(多分この子たちだけ)の一端を垣間見ました。


「つまり、エサをあげる人がいればいいんですよね?」


 つつかれた指をさすってわたしは小さな木箱を手に取ります。

 そういうわけで、わたしは厨房の外に簡易的なエサ箱を作ってあげたのでした。

 エサやりの人が休暇から戻ってくるまで、ここから食べてくださいね。



 ◇ ◇ ◇



 山稜さんりょうに沈む夕陽に照らされて、赤く燃える城壁は、まるでユーハルドの初代王、緋竜王ひりゅうおうリーゼをたたえているようだなぁとがらにもなくわたしが感傷に浸っていると、ふいにアルバちゃんが足を止めました。


 見ているのは初代王リーゼの肖像画です。


 仕事が終わり、読みかけだった本を再読するべく書庫へとやってきたわたしたち。


 ですが、悲しいことにもう閲覧時間は終了しており、鍵をかけるから出ていくよう書庫番の人に言われてしまいました。


 そんな折に初代王の肖像画をしげしげと眺めるアルバちゃん。

 どうやら興味深々のご様子です。


 ──あ、ちなみに『アルバちゃん』というのは先ほどからそう呼ぶようになりました。


 めでたく彼女とはお友達になりまして。

 彼女もわたしのことを『ロゼ』と呼んでくださるそうです。


「どうましたか? そんなにこの肖像画が気になりますか?」


「いや、知ってはいたけどほんとに初代の王様って女だったんだな」


「え? ああ……そうみたいですね。赤毛の王、とは聞いていますけどけっこう若い方ですね」


 十代後半、いえ、へたをすれば十代半ばくらいかもしれません。


 現在のユーハルドの王位継承制度は男児優先ですから女性の王は珍しいのだとアルバちゃんが教えてくださいました。

 実際、この長い歴史の中でも数えるほどしか女王はいないのだとか。


(この人が……)


 リーゼ王。

 本当の名を、シェリアリーゼ。

 いまでこそ『緋竜王』と呼ばれ、数多の偉業を遂げた彼女ではありますが、『ポンコツでしょうもない娘だった』とエルフィードおじさまは笑って語ります。


 ──いつも振り回されるアイツが面白くてな。よく、王は考えることを知らない、って小言いってたっけ。


 と、懐かしそうに目を細めて話すエルフィードおじさまの横顔は少しばかり切なげで、だけどとても幸せそうで、その思い出をとても大切にしていることがうかがえました。


 アルバちゃんは初代王の肖像画を観察したあと、今度は隣に飾ってある魔導師の絵を見つめました。


 長いひげをたずさえたおじいさん。

 白いローブをまとったその人は、初代王と共にこの国を作った大魔導師だそうです。


 ──不死蝶ふしちょうの魔導師。


 はい、説明するまでもなくわたしの師匠です。


 実は、わたしの師匠はすごいすごい魔導師でして、森族エルフでもないのにとても長生きです。

 だからさきほど見た夢の通り、八十年前だというのにさほど変わらないお姿なんですね。


 わたしもその理由は知りませんけど、まあ師匠ですからね。

 なんでもアリですよ。つまり。


 ……え? 誰ですかこれ?

 ぜんぜん知らない人なんですけど。

 師匠こんなに老けてませんけど。

 しかもモノクルなんてかけてませんけど。

 ヒゲもさもさなんですけど。


 これ完全に別人なんじゃあ……とわたしがこの絵の飾っただろう役人さんの仕事を疑ったところで、アルバちゃんが『行こうぜ』と歩き出しました。

 ぽりぽりと鳩さんクッキーを食べながら。


 それ、気に入ったんですね。

 白いハンカチに包まれた、可愛らしいお土産。

 いただいた鳩さんクッキーを口へと放り投げ、わたしも書庫をあとにしました。


 ちなみに、メイドさんの仕事は今日でクビ。

 明日からまた魔女の依頼をこなす日々が続きそうです。

 ちょっと電撃やりすぎちゃいました。てへぺろ☆

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