34 師匠との出会い
それはわたしが九十……いえ、うん歳の誕生日を迎えた年のことでした。
当時、お祖父様の家でお世話になっていたわたしは、一緒に住む叔母さんから夕飯用のキノコの採取を頼まれました。
さっそくいつもの狩り場(キノコがたくさん生えている場所)でキノコを摘むわたし。
ぽいぽいっとキノコをかごに投げ入れ、そろそろ帰りましょうか──と立ち上がると、森の奥からぎゃあぎゃあと騒がしい声が聞こえてきました。
「おい見ろよ、ミリア! あそこにすげぇ色のキノコが生えてるぜ! 食えっかな?」
「ダメです、殿下。毒が入っていたらどうなさるおつもりですか! ──ストラス、殿下をとめてください!」
「そうは言っても、すでに採ってるし。なあ、先生?」
「あれは一度腹でも壊さないと学習しないだろう。好きにさせておけ」
外からやってきた商人でしょうか?
わたしは木のかげから彼らを観察しました。
最初に聞こえた野蛮そうな声の主は、おそらくあの金髪の少年でしょう。
その次のきれいな声が、あの少女。
緑の髪とはまた珍しい。
さらに青年。
金髪の少年と同じくらいの年齢には見えますけど、落ち着いた様子から大人びて見えます。黒髪かっこいいです。
それから、白髪の青年。
人間の年齢で二十そこそこ……。
うーん、怖そうな人です。近づかないほうがいいとわたしの本能が告げています。
「変な人たち。さっさと戻ったほうがいいかもです」
回れ右してわたしが木陰から出ると、うしろから大きな声が投げられました。
「あーッ! あそこに第一村人発見! おーい、そこのお前! ここの里の森族か⁉ オレの名前はウェナン! ちょっと話いいかー⁉」」
うるさ。
耳の中がキーンとしています。
少年の声が梢を揺らして、森がざわざわと色めき立ちました。
黄金の光。
そこかしこから金色に輝く蝶たちが舞い飛び、少年の来訪を歓迎しているようでした。
慌てた様子で少女がわたしの前にやってきました。
「驚かせてすみません。わたしはミリア、ユーハルドからやってきた旅の者です。この里の長老様にお会いしたいのですが、案内を頼めますか?」
「……申し訳ありませんが人間を里に入れるわけには参りません。どうぞお引き取りください」
わたしが無感情な声で返すと、ミリアと名乗った少女は困惑した顔を浮かべました。
そんな彼女を見て白髪の男性が『おおよその検討はつく』と言って歩き出しました。
金髪の少年が追いかけます。
「そう言ってお前、さっきからこのへんグルグルしてるじゃねぇか! ──おい、ミリア、ストラス、早く!」
「へいへい」
「すみません、わたしたちはこれで失礼しますね」
「はあ……」
さくさくと森の奥へと向かう彼らの後ろ姿を冷たい目でわたしは見つめました。
人間。
彼らのせいでわたしたち森族は故郷を追われたと聞いています。
この魔霧の森にいるのはそんな彼らの手から逃れるため。
さっさとこの島から出て行けばいいのに。
そう思ってきびすを返そうとした時のことでした。
「あ、ウサギみっけ!」
さきほどのウェナンと名乗った少年の声です。
わたしが顔を向ければ彼の前にいっぴきのウサギがいました。
茂みから出てきたのでしょう。
頭に葉っぱをつけてかわいらしいです。
しかし、そうなごんだのもつかの間。
白髪の男性が動きます。
「いい土産になるな。狩って持っていくか。シチューにでも入れたらエルフィードが喜ぶだろう」
「──⁉」
ウサギさん大ピンチ!
というかいま、『エルフィード』と言いましたか?
つまり、わたしの大叔父様への土産にあのウサギを持っていくと。
それ、なにかのイヤガラセですか?
わたしはウサギを助けるべく、地を蹴りました。
白髪の男性の魔手がウサギに届く前に、わたしはウサギの前に滑り込みます。
守るように両腕を広げて叫びました。
「森の動物を傷つけてはダメです!」
それが、白髪の男性──のちにわたしの魔法の師匠となる人との出会いでした。




