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氷の魔女の料理屋さん~最愛の師匠を探してモフモフな食堂を始めました!~  作者: 遠野イナバ
第九章『メイドさん事件簿 file.810』

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32 そしてこのあと事件(?)が……

 先日の、ジー爆破事件から一週間後のことでした。

 うっかりやらかしてしまったわたしは全焼した店の立て直しを自腹で行うことになりました。


 いちおう後見人であるベルルーク侯爵様にも相談の文を送ったのですが金貨一枚と共に、


『自己責任』


 とだけ書かれた手紙が戻ってきました。


「くるぽっぽー」


「慰めてくれるんですか? ありがとうございます」


 手紙を届けてくれた白鳩さんに乾燥コーンをあげて、 わたしはシビアな人間社会に『もう故郷もりに帰ろうかなあ』と心が折れかけました。


 さいわい、アルバさんが神殿の空き部屋を提供してくださったおかげで野宿の心配は無くなり、乾いたわたしの心もうるおいを取り戻したわけですけど、今後は店の修繕費を稼がなければなりません。


 そんなわけで、わたしが焼けた畑からニンジンやらイモやらを掘り起こしていていると(売るために)、ペリードさんがやってきました。


「侍女の仕事ですか」


「そう、今月いっぱいの短期の勤務になるけど、城の厨房で働ける人を探していてね。ロゼが適任だと思ったんだ」


 どうかな? とペリードさんは仰います。


「そこまで給金は高くないけど、仕事ぶりが認められれば定期的に声がかかるようになるだろうし、やっておいて損はないと思うんだ。人脈づくりも兼ねてね」


 たしかに。

 城といえば『王様の家』です。

 偉い人間たちがじゃんじゃん来ます。


 そういう人たちに顔を覚えてもらえれば、仕事にもつながりますからこれはよい機会かもしれません。

 ここは営業がてら行ってみますか。

 わたしは侍女の仕事を受けることにました。



 ◇ ◇ ◇



 端的に言って、そこはさながら会議場のようでした。

 気まぐれにも今回、依頼についてきてくれたアルバさんと厨房へと入ると、白いコック帽を被った四十路よそじくらいの男性と、同じくコック服を身にまとった若い青年が、辛気臭い顔を突き合わせてあれこれ議論を交わしていました。


「やっぱり、この暑さでバテないよう肉のフルコースがいいと思うんだよ」


 と、料理長さんらしき黒髪の男性が言いました。

 すると見習いシェフっぽい金髪の青年が首を横に振ります。


「いえ、肉よりも断然魚っす。魚のほうが栄養満点ですし、ここは魚のフルコースっすよ、料理長」


「いやいや、魚なんか食ってもたいして元気が出ないだろう。やっぱり肉だよ」


「いいえ、魚っす」


「肉」


「魚っす」


「肉!」


「魚!」


 えっと、どっちでもいいと思います。

 それと肉オンリーだろうと、魚オンリーだろうと栄養は偏ります。

 ここは仲良くバランスよく両方摂るのが一番ではないでしょうか。


「またやっているのね」


 隣から聞こえてきた小さな嘆息。

 横を見れば、これまた古風なメイド服に身を包んだジェシカさんが立っていました。

 え? なぜ城に?


「ジェ、ジェシカさん!? どうしてお城に?」


「ほら、わたしの前の職場ってここじゃない? 辞めたあともこうしてときどきお呼びがかかるのよ」


 はぁーっと再び長いため息。

 なるほど。


 じゃない? と聞かれたところで彼女の経歴にさほど詳しくないわたしは困ってしまいますけれど、ジェシカさんの元職場とはこのお城の厨房のようでした。


 いまは夏休みシーズン。

 つまり、夏季休暇を取る人が増えるとかで、お城では例年夏の人手不足に頭を悩ませているそうです。


 麦刈祭むぎがりさいもありますからね。

 地方の出身者は故郷に帰って畑の手伝いなどがあるでしょうし、そうじゃなくても暑いですから。

 海とか川とか高原とか。

 みなさん避暑地に出かけてバカンスを楽しまれているのでしょう。

 わたしも故郷の湖で水遊びがしたいです。


 ジェシカさんがおっしゃるにはこの厨房ではいま、彼女を入れてわずか三名で仕事を回しているそうです。


 そこに来て、なんのメニューを出すか。

 肉派と魚派のシュフたちで議論しても平行線。

 こうして毎日メニュー決めの論争が起きているとのことでした。


 たいへんですね。

 もういっそ、菜食メインにしておけば争わずに済むと思います。


「だったら肉と魚、どっちも使った料理にすればいいんじゃねぇの?」


 アルバさんが提案すると、くわっと目を開けてシェフふたりがこちらに顔を向けました。


「「それじゃあ、一食分の食材費が高くなるだろうがっ/なるっす!」」


 息ぴったりです。

 その調子でメニュー決めもぴたりと意見が合うといいのに。

 料理長さんが深く息を吐いて、こつこつと羽根ペンで台帳を叩きます。


「はあ……もうすぐ昼食の準備をせんといかんのに、こうも決まらないとはなぁ」


「ねぇ、ロゼちゃんたちもなにかいい案はない?」


「ええ? うーん……」


 聞けば、ここ最近の暑いせいで城に勤めるみなさんの食欲が落ちているとのことでした。

 

「メシを残すやつらには天罰をっス……」


 若いシュフさんが包丁を眺めながらなにやら物騒なことを呟いています。

 これは早急に対処しなければ。

 わたしは腕を組んで悩みます。

 夏バテに効く、おいしい料理。しかも肉も魚も入って、なおかつ低コストで出せるもの。


「……あ」

 

 調理台に置かれたベーコン。

 それから生魚(たぶん白身魚系)。

 わたしはピンと閃きました。


「でしたら、冷製カルボナーラと魚を使った冷たいスープはどうでしょう」


「冷製カルボナーラ?」


「魚を使った冷たいスープ?」


 きょとんとするシェフふたりにわたしは説明します。


「カルボナーラならベーコン(肉)が入っていますし、冷たくてもいけます。スープも、冷たいトマトスープに蒸した魚の切り身でも入れておけば、それっぽいものが作れますよ」


「それっぽいって……」


「それだ!」


 呆れた目をするアルバさんの隣で、料理長さんが椅子から立ち上がり、大慌てで下ごしらえを始めました。

 若いシェフさんも続きます。

 それをちらりと横目で見てジェシカさんはわたしたちに服を渡しました。


「じゃあ、ふたりはこれに着替えてきてね?」


 裾の長いクラシカルなメイド服。

 ジェシカさんから渡された制服に着替えて、わたしたちも調理に取りかかるのでした。

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