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氷の魔女の料理屋さん~最愛の師匠を探してモフモフな食堂を始めました!~  作者: 遠野イナバ
第七章『サラさんとお菓子教室』

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27 仲直りはおいしいスコーンを食べながら

「こんばんは、サラいますか?」

「ああ、えーと、ユーリさん。いらっしゃいませ」


 夜の営業を休止して、サラさんのスコーンづくりに付き合っていたわたしは、最近知り合ったサラさんのお兄さんことユーリさんを店の中へと招き入れました。


「兄さん! 見て見て。これ、わたしが作ったのよ」

「へぇ、サラ、お菓子なんて焼けたんだ。ひとつもらっていい?」

「この星型のがおすすめよ」


 わいわいと試食会を開き出した兄妹ふたりの横で、アルバさんが机に突っ伏していました。

 お疲様です。

 あのサラさんにふつうのスコーンを焼かせるとは、先生役おみごとでした。


「ロゼッタ先生もどうですか?」

「いえ、さきほどたくさん食べたので、もうお腹いっぱいです」


 おもに失敗作をですけど。

 ガリガリとしたスコーンに、わたしの歯は限界です。


「そういえば、ロゼッタさん、でしたか」


 思い出したようにユーリさんがこちらに顔を向けました。

 いまはノルさんがいないので、彼の奇行はありません。


 サラさんが淹れてくれた紅茶の香りを楽しみながら、わたしは彼の話に耳を傾けます。


「先日、貧民街近くの路地を歩いていませんでしたか?」

「え? はい。歩いていましたよ」

「ああ、やっぱり。僕が言うのもお節介かもしれませんけど、あのあたりは物騒なので、行くなら知人の男性を連れて行ったほうがいいですよ。ロゼッタさん、結構目立ってましたから」


 はにかみながら「美人ですし……」と続いた言葉に、満更でもないわたしは『はて』と首を曲げます。


「もしかしてユーリさんも、貧民街に?」

「はい。あそこには珍しいものが集まる店があるので、国に戻ってきた時は足を運ぶようにしてるんです。ロゼッタさんは……、誰かを探していらっしゃったようでしたけど」

「あー……、師匠を。探していまして。貧民街にいるかなあと思ったんですよ」

「師匠? ロゼッタ先生の先生ですか?」


 サラさんが首をかしげます。

 かくかくしかじか。わたしは探している師匠のことをおふたりに話しました。


 するとうつ伏せのままで聞いていたらしいアルバさんが顔を上げて、思い切り眉間にシワを寄せました。


「なんでそれ早く言わねぇんだよ。知ってたら、とっとと探してやったのに」

「ええ? でも、アルバさんお仕事お忙しいでしょうし、さすがにあちこちついて来てもらうのはちょっと……」

「そうじゃなくて。知り合いに聞くとか探す方法はほかにもあるだろ? そんな、いちいち歩いて探し回るなんて効率わりぃ真似はしねぇよ」

「知り合い……。ああ、確かに。そういう手がありましたね」


 エルフィードおじさまのようにわたしは顔が広くないので思いつかない作戦でした。

 そうですよ。

 知り合いに聞いて──って、あ、いや。気軽に相談できる知人や友人なんてわたしにはいませんでした。

 こういうときボッチはツラいです。


「そういうことでしたらわたしも。おばあさまや友達にも聞いてみます。ね、ユーリ兄さん」

「そうだね。ロゼッタさん、その人の特徴とかって教えてもらえますか?」


 ユーリさんは手帳を取り出すと、わたしが話す師匠の特徴をメモしていきました。

 白髪に、黄昏色たそがれいろの瞳。

 星の首飾りを所持した二十代くらいの男性。

 大陸中を旅してるっぽい。

 猫連れ。

 最後のは、まあ星霊なんですけど、そこは伏せてお伝えしました。


「なるほど……。何人か商人に知り合いがいるので、今度聞いてみます。もしかしたら外国にいるのかもしれませんし。念のために言付けを頼んでみますよ」


 ぱたんと手帳を閉じるとユーリさんは立ち上がりました。サラさんも椅子から降りて、大量のスコーンが入った木編みのかご(バスケット)を腕に下げます。

 兄妹ふたりは帰っていきました。

 アルバさんもふらつきながら玄関に向かいます。


「じゃあな、なんか分かったらまた来るよ」

「今日は本当に助かりました。またよろしくお願いします」

「もうマジ勘弁」


 ですよね。

 アルバさんは後ろ手をブラブラと振って店を出ていかれました。

 入れ代わるようにノルさんが入ってきます。


「……あ、ノルさん」

「あ……ロゼ、あのな?」


 そして互いに無言。

 気まずい沈黙を破るようにノルさんが口を開き、わたしの声と重なりました。


「ごめんなさい!」「わるかった!」


 ◇ ◇ ◇


 そのあとは語るまでも無いお話です。

 仲直りをしたわたしたちはちょっぴり味の悪いスコーンを食べて、離れていたあいだのことを語り合ったのでした。


「ほーん。じゃあ、探してくれるやつ増えたんだ。なら案外すぐに見つかるかもな」

「そうだといいんですけどね。なにせ師匠は神出鬼没なかたですから、一体どこにいるのやら」

「俺も今度トモダチに聞いてやるよ。最近仲良くなったやつがいるんだ」


 銀髪のかわいいメスなんだぜ、と自慢げに言うノルさんですけど、モフモフなお友達に聞いても……。


 ともかく。

 ユーハルドに来て早二ヶ月。


 やっとお店のほうも落ちついてきたので、今後は師匠探しに力を注ぎたいと思います。

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