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氷の魔女の料理屋さん~最愛の師匠を探してモフモフな食堂を始めました!~  作者: 遠野イナバ
第五章『菜園を作りたい』

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16/29

16 土の採取とオオカミ退治に行こうと思います

 あなた(わたし)は女神に出会うでしょう。

 悪しき敵。神のいかずち

 差し伸べられた手を取れば、女神は微笑み、あなた(わたし)の生涯の友となることでしょう。

 


「──なにこれ。意味がわからんし」

「エルフィードおじさまからの手紙のようですね」


 翌日。

 これから菜園用の土を採りに王都から歩いて一時間弱の場所にある『ニアの森』に行く準備をしていたら、窓から灰青はいあお色のハトが入ってきました。


 エルフィードおじさまが飼っているハトの『クルックー』さんです。


 くるっくー! と鳴くのでそう名付けたそうですけど、安直すぎて初めて名前を聞いたときに失笑したわたしです。


 ちなみに、大陸全土で広く使われている連絡手段のひとつに白ハトを使った『ポッポ便』というものがあります。

 言うまでもなく『ポッポ』というハトの名前が由来だそうです。ネーミングセンスよ。


 そんなわけで、いましがたやってきたクルックーさんから手紙を回収したところ、さきほどの謎の予言がついていました。


 おじさま曰く、今週の占いだそうです。

 ちょっと意味がよくわからないので手紙を丸めてゴミ箱へとシュートしました。


「さて、出かける前にアップルパイを……」


 十時のおやつタイム。

 先にアップルパイをもぐもく中のノルさんと並んで、さあ、いただきます!

 ──カランコロン。

 玄関のベルが鳴り響きました。

 入ってきたのは──お前か、メガネ。


「こんにちは。失礼するよ」

「ペ、ペリードさん⁉」


 慌てて席を立つわたしの前に差し出されるバラの花束。

 ペリード・ラン・ベルルーク。

 王都に着いた当初に少々やらかしてしまったわたしを助けてくれた人間です。


 その後、彼に案内される形で、ここでお店を開くことになったわけですけど、いやはやお久しぶりです。


 オープン日にはたいへんおいしいアップルパイ(彼が作ったらしい)と、きれいな花束ありがとうございました。

 そしてまた花束くれるんですね。

 真っ赤な小ぶりのバラがキュートです。


「店はどうかな? 繁盛しているかい?」


 近くの席に案内してアイスコーヒーとアップルパイ(わたしのおやつ…)をお出しすると、ペリードさんは店の近況を聞いてきました。

 ええ、見ての通り閑古鳥かんこどりですとも。

 

「今日は、兄さんから手紙を預かってきたんだ」


 ペリードさんは懐から便箋びんせんを取り出すと、机の上に置きました。

 封筒をひっくり返せば裏面には『アレクサンダー・ラン・ベルルーク』と。

 確か、ベルルーク侯爵家の次男がそんな名前だったような気がします。


「いまこちらで拝見しても?」

「もちろんだとも」


 わたしはカウンターからペーパーナイフを取り出しシュッと刃を滑らせ、便箋を開きました。

 中から出てきたのは二つ折りの紙。広げてみると、びっしりと文字が書かれています。

 どうやらそれはわたしへの依頼のようでした。


「森狼は知っているかな?」

「もりおおかみ……たしか、大陸全土に広く生息するオオカミですよね」

「うん、そう。実は最近、街道を通る商人たちが森狼に襲われる件数が増えているみたいでね。近々豊穣祭(ほうじょうさい)も開かれるし、早めに対策を打っておこうという話になってさ。そこでキミに森狼の討伐をお願いしたいと兄さん──ああ、いや、魔導師団長が言っていたんだ」


 魔導師団長。

 ペリードさんのお兄さんであり、みごとひったくり犯を捕らえたわたしを逆に囲いやがった兵士たちを束ねていた司令官さんです。

 アレクサンダーさん、名前は覚えましたよ。


「なるほど……。お話はわかりましたけど、なぜわたしに直接依頼を?」

「ロゼが一番適任だから、かな。──ほらキミ、うちの魔導師名簿に名前を残しているだろう?」


 魔導師名簿。

 ユーハルドでは優秀な魔導師の囲いこみをするために、魔導師たちに仕事の斡旋あっせんなどを行っています。

 その際に使われるのが魔導師名簿です。

 そこに名前を書いておくと、国からお仕事を紹介していただけるんですけど、そういえば以前わたしも師匠に連れられてこの国を訪ねた時に、名前を記した記憶があります。


 篝火かがりの魔導師、ロゼッタと──。


「篝火の魔導師といえば、あの魔導師殺しと呼ばれる睡魔鳥すいまちょうをたったひとりで討ち取った若き天才魔女。もう随分前のこととはいえ、キミの名前を覚えている者は軍部にも多い。それで今回ユーハルドに店を構えたなら、ぜひお願いしようという話になったんだ」


 まあ、うちの上層部はみんな〈篝火の魔導師〉を老婆だと思っているみたいだけどね、と苦笑しながらペリードさんは続けます。


「ちなみに報酬は弾むよ。金貨三枚でどうかな?」

「三枚⁉」


 わたしは思わず椅子から立ち上がり、身を乗り出して叫んでしまいました。

 裏返る声。

 ペリードさんが目を丸くしています。

 金貨三枚といったらリンゴ1500個分。

 超大金です。

 わたしは勢いよく手を挙げました。


「やります!!」

「本当かい? それは助かるよ。じゃあ、適度に狩ったら報告してくれ。城の門兵に言えば話は通してくれるから」

「はい。氷の魔女ロゼッタ。たしかにお仕事承りました。あなたに火の加護がありますように」


 握手を交わして商談成立です。ひゃっほぅ!

 

「……あ、そうだ。あの、ひとつお願いしてもいいでしょうか?」


 さきほどの喜びから一転。

 わたしはきりりと表情引き締め、ペリードさんにたずねました。


「登録名簿の内容、『篝火かがり』から『氷』の名前に変更してもらうことは可能ですか?」

「変更?」


 ペリードさんは怪訝そうに眉をひそめます。

 あごに指を置いて思案顔。

 ほんのわずかな時間、逡巡するようにわたしから視線を外したあと、ためらいがちに彼は頷きました。


「うん。ほかに同じ通り名が無ければ……たぶん大丈夫だとは思うよ。けれど、念のために理由を聞いてもいいかな?」

「なんとなくです」


 おっと、ペリードさん困惑顔。

 すみません。

 わたしの言葉が足りませんでした。


篝火かがりの通り名も気にいってはいるのですが氷のほうが好き、といいますか。なによりこの国では『氷』の名前で自分を売りこみたいなと思いまして」

「なるほど。そういうことなら兄さんに伝えておくよ。──それじゃあ、依頼の件は頼んだよ」


 ペリードさんは優雅に一礼すると玄関から出ていきました。

 ノルさんが机に飛び乗り、くるりとわたしのほうに身体を向けます。

 心なしか不機嫌そうです。


「ロゼ、あの兄ちゃんは誰だよ」

「ペリードさんですよ。この前もその前も会ったじゃないですか」

「そうだっけ?」


 野郎の顔なんざ覚えねぇよ、と仰るノルさんに懇切丁寧に説明して差し上げました。


「この国に五つしかない侯爵家の人間で、こちらに店を構える際に色々とご手配してくださったかたの弟さんです。ほら、金貨二枚の……」

「ああ、あの闇金ばりの家賃払えって言ってきたとこか」


 正確には家賃ではなく借金ですけどね。


 ベルルーク侯爵家。

 代々森族(うち)とユーハルド王家の折衝役せっしょうやくに就く家系でして、ペリードさんの一番上の兄。

 当代のベルルーク侯爵であらせられるスーフェン様は、わたしがユーハルドに滞在するあいだの後見人を務めてくださるとのことでして、困ったことがあれば便宜を図る、とのお話でした。

 ですから、たとえ月々の支払いが高額でも文句は言えないのです。悲しいことに。


「──さてと。そろそろニアの森に出かけますよ、ノルさん」


 菜園に使う土と、オオカミ退治。

 わたしは杖とからの砂袋を握りしめて店を出ました。

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