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氷の魔女の料理屋さん~最愛の師匠を探してモフモフな食堂を始めました!~  作者: 遠野イナバ
第五章『菜園を作りたい』

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15 菜園を作りましょう

 店のカウンターに座り、わたしは帳簿をつけていました。


『ロゼッタの料理工房アトリエ』を開いて早三週間。

 いまだ客足の少なさには頭を抱えてしまいますが、それでも先日考案した『大人様ランチ』が意外と好評なようで、一日平均五人くらいはお客さんが入るようになりました。

 進歩です。


 それで現在、帳簿を開いてさきほど仕入れた野菜の値段を書き込んでいたわけですが、


「材料費が高い」


 野菜に肉に果物。そのほかいろいろ。

 毎朝八時にノルさんのお散歩がてら、当日使う食材を噴水広場の市場まで買いに行っているんですけど、これがなんとも高いのです。


 一応訂正しておくと、王都の市場で売られている食材は割安です。

 むしろ森族わたしたちの里にやって来る行商人さんから買うほうがよっぽど高いです。

 新鮮かつ低価格。ユーハルドは安くてよい品がそろっています。

 さすがは農業国です。

 この国以上に安くておいしい食材は手に入らないでしょう。

 けれど、いまのわたしにこの価格は少々高いわけでして。


「もっとお客さんが入れば食材が無駄にならないのに……」


 そう。

 毎日充分な食材の量を確保してお店を開いてるんですけど、売上から仕入れにかかる金額を引いた額。

 つまり、利益がマイナスです。

 赤字です。

 帳簿の文字は赤一色。

 冗談抜きで利益が出ない。

 このまま経営を続けていたら、ひと月持たずに店はつぶれてしまうことでしょう。


 そんなわけで、わたしは帳簿とにらめっこしていました。


「どうしたロゼ。顔、ブサイクになってんぞ」

「失礼ですね。わたしはいつでも可愛いですよ」

「自分で言うんだ……ノルさんちょっと引いちゃったよ」

「冗談ですよ。それよりもノルさんも考えてくださいよ。どうやったら仕入れ値が下がるか」


 わたしが机に突っ伏せば、ノルさんが帳簿をのぞいて「うわぁ」などとつぶやいています。


 わたしのほうが、うわぁですよ。

 ノルさん、足に泥がついています。

 それで机の上にあがるとか、売上以前に衛生うんぬんで営業停止になっちゃいますよ。


 わたしはノルさんのおみ足を雑巾で拭いて差し上げました。


「ふつうに仕入れる量、減らせば?」

「それだと万が一、お客さんいっぱい来たら対応できないじゃないですか」

「うん。だって来ねぇだろ? そんなのに」


 ひどいです。


「……でもまあ、そうなりますよねぇ」

「おう。あすからそうしろ。つうか、その『万が一』が来たときは、ノルさんが人間の姿に変身して買い出しに行ってやるよ。そうすりゃ安心だろ」

「ありがとうございます」


 ちなみにノルさんが人間に化けると、声のイメージそのままオジサンになります。

 ですので緊急時以外はウサギの姿で居てもらっています。可愛くないので。


「やっぱり仕入れも自分でやったほうがいいですかね。キノコとかお肉とか、森に行けば取れるでしょうし」

「いやあ、うっかり毒キノコとか摘んだら洒落になんねぇんだろ。あと、ジビエ系は解体が大変だよ?」

「解体……たしかに」


 キノコの選別でしたら森族エルフの専売特許ですけど動物の解体はちょっと。

 森の動物を傷つけるなかれ。

 いちおう森族にはそのような掟があります。

 わたしは守りませんけれど。


「じゃあ、菜園でも作りましょうか」

「菜園?」


 怪訝そうなノルさんの視線を跳ね除け、わたしは店の裏庭に移動します。

 先日からちょくちょくお邪魔しているセリカさんの家には立派な菜園があります。


 ニンジンや葉物野菜。

 もうじき春キャベツが出来るとのことで、採れたらおすそ分けしてくださると仰っていました。

 いただいたらロールキャベツにして食べたいです。


 わたしは庭の土を撫でながら、ノルさんに未来の菜園図を語ります。


「ニンジンにキャベツにトマト。うまくいけば野菜がタダで手に入ります。そうすれば、仕入れ代がかなり節約できるはずです」

「いいとは思うけど……。それ、野菜取れるのいつになるよ」

「夏、あたりですかね? いまから苗を植えてトマトならなんとかまぁ……」

「……うん。がんばれ」


 そんなわけで、あしたは店を閉めて菜園づくりをしたいと思います。

 どうかたくさん野菜が取れますように!

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