01 さよなら故郷
こちらは同作「氷の魔女の料理屋さん(地の文が三人称文体)」の一人称verです。
全部で50話くらいを予定しています。
よろしくお願いします。
その人は、待っても待ってもわたしの前に現れることはありませんでした。
八年前の秋の日。『また来るよ』と言って、頭を撫でてくれたその人の手のぬくもりを、わたしはいまでも覚えています。
冷たい手。
けれど、その心のうちが温かいことをわたしは知っています。
会いに行こう。
そして、その人においしいご飯を届けよう。
これは、わたしがその人──師匠に会うまでをつづった日記を元に語る物語。
ずっと会いたくて、ずっと待っていた、わたしの長い長い師匠探しのお話です。
◇◆ 第一章 ◆◇
金色に輝く蝶が舞い飛ぶ幻想的な森の中で、わたしは扉の前に立って深く息を吐き出しました。
手には杖を。
背中にはお気に入りのリュックを背負い、がちゃりと家に鍵をかければ、さあ、これから旅立ちです。
「さぁ、気合いを入れてユーハルドへ向かいましょう!」
「──朝から元気だなぁ」
「! エルフィードおじさま」
あくび混じりに声をかけられ振り返ると、うしろに黒髪の美青年が立っていました。
わたしの大叔父様です。
永遠の友という古い名前を持つ彼の見た目は、人間でいえば二十歳前後といったところでしょうか。
狩人スタイルの伝統的な森族の衣装に身を包んだ大叔父様は、ぱっとみ軽薄そうな印象ですが、ええ、見た目通りのヒトですとも。
息を吸うように女性を口説き、『愛の狩人』を自称する残念な大叔父様は、よく人里に降りてはあれこれ面白いものを見つけてわたしにくださいます。
今日もなにかガラクタでも持ってきてくれたのでしょうか。いらないですけど。
「よ、見送りに来てやったぜ。出発するの今日だろ?」
「え? ……ああ、はい。これから森を出てユーハルドに向かいます」
「そうか。じゃあ、これ餞別だ。向こうで困ったことがあったらこいつを門兵にでも渡しな。特別待遇でいいとこ紹介してもらえるはずだぜ」
「はあ……」
エルフィードおじさまが白い便箋を渡してきました。
高そうな便箋です。
植物の模様をあしらった美しい便箋を裏返せば、赤い封蝋がべたりと貼り付いていました。
ベルルーク?
どこかで聞いた名前ですね。
わたしは便箋を受け取り、カバンにしまいます。
「ロゼ、広い世界を見てこい。そうすりゃアイツと再開する頃には、少しは色んなものが見えるようになっているだろうさ」
大叔父様はしみじみと遠くの空を見て言いました。
その横顔はなんかこう、娘を送り出す父親のようです。
別にわたしはこのヒトの娘でもなんでもないんですけどね。
挙げ句の果てには「どういう意味ですか?」と尋ねれば、「俺のほうがアイツよりカッコいいってことだよ」と返ってきました。
だからこのヒトは残念なんですよ。
「それは無いのでご安心ください」
「えー、ロゼちゃんひどいー」
わたしは大叔父様に手を降って、白く染まった森をあとにしました。




