追いつけ、ケチャップ
ケチャップは、いつも遅れていた。
ホットドッグが先に走り出し、マスタードはその横を風のように駆け抜ける。マヨネーズはふわりと舞い、ビーフシチューはどっしりと構えている。
「また遅れてるよ、ケチャップ!」
マスタードが振り返って叫ぶ。
「ごめん、すぐ追いつくから!」
ケチャップは赤い顔をさらに赤くして、必死に走った。
でも、追いつけない。
いつも、あと一歩のところで、誰かの皿にたどり着けない。
ある日、ケチャップはふと立ち止まった。
「どうして、みんなに追いつこうとしてるんだろう」
ふと見上げると、アイスクリームが空を飛んでいた。
「アイスクリーム!」
ケチャップは思わず叫んだ。
「I scream ICE CREAM!」
アイスクリームは金切り声で笑った。
「君は君のペースでいいんだよ」
アイスクリームはそう言って、空に溶けていった。
その夜、ケチャップはビーフシチューの隣に座った。
「一緒にいるよ」
ビーフシチューは静かに言った。
ケチャップは、ようやく気づいた。
追いつくことより、大切なことがある。
それは、誰かと一緒にいること。
たとえ遅れても、自分の味を忘れなければいい。
「マヨネーズはいかが?」
ケチャップはそっと差し出した。
「ありがとう。でも、今日は君の味がいいな」
ビーフシチューは微笑んだ。
ケチャップは、少しだけ自分を好きになれた気がした。
連載版もあります。
詩小説ショートショート集
わたしとAI君とのコラボレーションです。
このショートショートのもとになった詩は、連載版「われは詩人 でなければ死人 ーAIと詩を語るー」で読めます。
ショートショートタイトル「追いつけ、ケチャップ」の原詩は「Catch up, Ketchup」です。




