第8話 貝殻の便利さ
「よし、それじゃあ行こうか」
「おう」
ルナが取ってくれたヤシの実で喉を潤し、準備を終える。
ルナのおかげで早々に飲み水を確保できたので、このあとは探索を開始する。やはり木々のある森の中は危険が多いということで、アイとルナと相談して海岸沿いへ進むことにした。
「そのペットボトルってのは水を入れられて便利だぜ」
「さすがにヤシの実を持ち歩くのは難しいからな」
探索にあたって、ヤシの実のココナツウォーターをペットボトルへと入れ替えた。飲み物を持ち運べるこのペットボトルは本当に便利である。漂流物なんかも全然ないみたいだし、このペットボトルはかなり重要だぞ。破損させないように気を付けないと。
「そういやさっきはアイと話して何かやってたみたいだけれど、何をしていたんだ?」
「まだできるかはわからないから、あとで教えるよ」
探索へ行く前にいくつか物を準備しておいた。アイのサポートがあったとはいえ、うまくできるかわからないので、ルナにはあとで教えるとしよう。
「おっ、この貝殻はでけえぞ」
「本当だ。戻る時に回収していくから、もう少しあっちの方に置いておこう」
こっちの方の海は浜辺ではなく岩場になっているので、その上を歩いて進んでいく。
岩場だが思ったよりも貝殻などが打ち上げられている。潮の満ち引きや波で意外と動くようだな。
『貝殻はお皿や小さな鍋の代わりになります。また、生きている貝は動きが遅いので、食料としても優秀です。ただし、毒のある貝もいるのでご注意ください』
「そうだな、特に大きな貝殻は便利だ。水や拠点を確保できたら食料としても確保していきたいところだ」
昨日いた砂浜よりも岩場の方が生物は多い。本格的に食料を確保する際にはもっと細かく見てみるといしよう。
「こっちの方はだんだんと岩場が険しくなっているから気を付けないと」
さらに奥へ進んでいくとヤシの木なんかは少なくなり、ひとつひとつの岩が大きくなってきた。
今の俺は革靴だから、とにかく滑りやすい。ある程度生活基盤が整ったら靴の方もなんとかしたいところだ。ルナは手作りっぽい靴を履いている。今度構造を見せてもらって参考にしよう。
「ここで行き止まりか。崖みたいになっているな。頑張れば登れそうだけれど、どうする?」
「無理はしない方がいい。怪我をしたら治療する道具もないからな」
岩場を進んでいくと10メートル以上の岩壁にぶち当たった。ルナなら登れるかもしれないらしいが、ここで無理をする必要はない。
『岩壁沿いに進んでいけば迷う可能性は少ないでしょう。また、回り道をして崖の上に登ればこの島の周囲をある程度視認できると思います』
「そうだな。少し危険かもしれないけれど、森の中に入ってみよう」
「よっしゃあ、任せておけ!」
ここから反対側、俺が最初にこの島にやってきた場所の方へ進むとここから歩いて2時間近くかかってしまう。さすがにそれはだいぶ時間のロスとなってしまうので、いよいよ森の中に入る。
浜辺からこの岩場までずっと続いている広大な森。迷ってしまう可能性や危険な生物のいる可能性が高いから、これまでずっと避けてきたが、いよいよ森の中に入る。
「……なあおっさん、これ動きにくいぜ」
「う~ん、さすがに手まで隠れてしまって邪魔になるか」
『森の中には毒を持つ虫や生物が存在するため、できるだけ肌を露出しない方がよいのですが、動きが阻害される方が問題はありそうです』
森の中へ入るためにルナと一緒に改めて準備をしている。
毒のある生物が存在する可能性があるらしく、暑くても長袖長ズボンの方がいいらしい。俺もルナも今の服しかないため、スーツよりもまだマシな長袖のワイシャツをルナに貸そうとしたのだが、少し大きくて手が隠れてしまっている。
ルナはその鋭い爪を武器にして戦うので、手が隠れてしまうのはまずい。袖をまくっても少し窮屈そうなので、そのままでいくことになった。
……長めのワイシャツを着たケモミミ少女の姿にはおっさんの俺にも少しぐっとくるところはあったのだが、今はそういう状況ではない。
「そんじゃあいくぜ」
「ああ、くれぐれも気を付けてくれ」
森の中にはルナが前に出る。男の俺が後ろとは情けないが、戦闘能力はおっさんの俺よりもルナの方が高いからな。
俺の方はというと、ワイシャツにズボンに革靴といつも通りの服装だが、腰のベルトに石斧を携えている。丈夫な木の棒の先端をナイフで割って、昨日作った大きな石のナイフを挟み、社員証の紐で結んだ石斧である。
もちろんアイの指示がなければこんな立派なものは作れなかっただろう。ちなみにこの石斧のように打ち付けた石や骨で作った石器を打製石器、それを砂や砥石で綺麗に磨き上げれば磨製石器となるらしい。遥か昔学生の時に習ったような気がする。
さあ、いよいよ森の中の探索だ。




