第7話 無人島2日目
「それじゃあ今日はもう寝ようか。今は何もないから、明日は水や食料、それに拠点なんかを探したいところだ」
「おう、了解だ」
ヤシの実にある白い果肉をルナに食べてもらった。それほどおいしいというわけではないが、船の上でほとんど食べる物がなかったルナにとってはこの方が身体にいい。
俺もだいぶお腹が空いているし、何か食料を確保したいところだけれど、すでに日が暮れている。夜は動かずに体力を回復して明日の朝から行動するとしよう。
「悪いな、おっさん。暖かくて助かるぜ」
「……気にしないでいい」
ルナとの話が終わり、今は砂浜へ横になっている。
夜になるとシャツとショートパンツだけのルナは少し寒そうだったので、スーツの上着を貸してあげた。俺はワイシャツとズボンでちょうどよいくらいの気温である。
……それはいいのだが、隣で若い女の子が横になっているというのはなんだか落ち着かない。もちろんやましい気持ちなんてなく、無人島でそんな状況でもないことは百も承知だが、落ち着かないのは仕方がないのである。
『何かあればすぐに起こしますので、おふたりは安心して眠ってください』
「ああ、助かるよ」
アイはルナの反対側に座っている。なにか異常があればすぐに起こしてくれるそうなので安心して眠ることができる。
「それにしてもすごい星空だな」
「そうか? こんなん普通だろ」
「俺の世界だと、夜も明かりが多くてこんなに綺麗な星空はほとんど見えないんだよ」
「へえ~夜も明るいなんてすげえな!」
すっかりと日も落ちて、周囲は真っ暗だ。火も起こしていないので、周囲には星空の明かりしかない。
横になるとその広大な星空が一面に広がっていて、地球の夜空とはまるで別物だ。無数の星が、青や白、淡い赤や緑に瞬き、まるで生きているかのように輝いている。ひとつひとつの星が強く光を放ち、まるで手が届きそうなほど近く感じられた。
大気汚染もなく空気が澄んでいて、街のように電柱の明かりもないこの異世界の無人島だからこそみることができる星空なのだろう。まさか星空の集まった天の川まで肉眼で見えるとは思わなかった。
だけどこの広大な星空の中に俺の知っている星座はひとつもなく、改めてここが異世界だと感じた。
「ふああ……」
これだけ美しい星空をずっと見ていたいと思っても、まぶたがだんだんと重くなっていく。ベッドもない砂浜で横になっているにも関わらず、睡魔が一気に襲ってきた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「う~ん……」
眩しい日差しが目に入り込み、目を覚ます。身体を起こすとパラパラと白い砂粒が身体中から零れ落ちる。
そうか、ここは無人島だったか。
「くか~」
隣を見ると、そこには真っ白なお腹を見せたルナがいた。どうやら昨日かけていたスーツの上着は横に落ちてしまったらしい。
それにしても明るい場所で改めて見ると、ルナの白銀色の耳と尻尾は本当に綺麗な色をしている。獣人といっても耳と尻尾があるだけで他は普通の人と全然変わらないみたいだ。あとは爪が少し鋭いくらいか。
「ぐうっ!?」
「ど、どうした! 敵か!?」
しまった、俺の悲鳴でルナを起こしてしまった。
「いや、敵じゃない。昨日動き過ぎたから身体中がバキバキになっているみたいだ……」
「なんだよ、驚かせやがって」
『マスターは普段から運動をまったくしていなかったからですね。その状態で昨日あれだけ動いたらそうなることは確定的でした』
いつの間にかホログラムモードのアイが隣にいた。AIだから仕方ないけれど、もう少し心配している表情を見せてほしいものである。
アイの言う通り、元の世界ではまったく運動をしてこなかったこともあって、身体中が筋肉痛で悲鳴をあげている。
あとは砂浜で寝ていたこともあるかもしれない。早く寝床もなんとかしたいところだ。
「無事に一夜を過ごせたようだな。身体も……筋肉痛以外は問題なさそうだ。ルナの身体の調子はどうだ?」
「昨日はぐっすり眠れたぜ。その前は船で波に揺られてあんまし眠れなかったからな」
『私も十分に休息を取ることができました』
野生動物に襲われることもなく、無事に眠れたようだ。ルナもぐっすりと眠れたようだ。
……AIであるアイも休息をとるんだな。
「さて、これが最後のヤシの実だ。これでもう飲み物と食料がなくなった。まずはヤシの実を確保しよう」
「おう、任せろ!」
最期のココナツウォーターと白い果肉を半分に分ける。
昨日確保しておいたヤシの実はこれですべてなくなった。また一から探索を始めるとしよう。
「よっしゃあ! また命中したぜ!」
『お見事です』
「………………」
まずは昨日のヤシの木が多く生えている場所へ移動し、昨日と同じようにヤシの実を確保しているのだが、ルナの身体能力には驚かされた。
昨日は俺の体力のなさもあって、比較的低い場所にあるヤシの実を落としていったのだが、ルナは高い位置にある実をどんどんと落としていく。まだ始めてから30分も経っていないのに、すでに8個ものヤシの実を確保した。
昨日の俺の努力はなんだったのだろうかと思わずにはいられない。
「まあ、獣人は人族よりも身体能力が高いからな。だけど俺はあの実の中に水があることは知らなかったから、おっさんとアイのおかげだぜ」
「そう言ってくれると助かるよ」
気を遣ってくれているのもあるが、確かに適材適所だ。ルナのおかげでヤシの実は十分確保できそうである。
とはいえヤシの木は限りがあるし、飲み水をヤシの木だけに頼らずに新しい確保方法を模索し、拠点や食料を確保していこう。




