第21話 タケノコ
焼けたばかりで真っ黒に焦げて熱いタケノコの皮をゆっくりと剥がしていく。竹の箸を使ってなんとか皮を剥がすと、中からは真っ白でよく見かけるタケノコが姿を現した。
「おっ、うまそうな匂いがするな」
「うん、これはおいしそうだ」
皮を剥がすと、ふわっと立ち上った香ばしい香りが鼻をくすぐる。焼き立てのタケノコはこんなにもおいしそうな香りがするんだな。
石のナイフを使って蒸し焼きにしたタケノコを切り分けていく。この石のナイフもだいぶお世話になっているが、調理用の包丁くらいの大きさの物も欲しくなってきたな。あとでアイに相談するとしよう。
「うおっ、こいつはうめえ!」
「ああ、これは本当にうまいな!」
蒸し焼きにしたタケノコはとても瑞々しく、ひと口かじればしゃくっという心地よい歯ざわりが伝わり、そこから青々しくも淡い甘みが口の中に広がってくる。味付けは海から作った塩だけだけれど、むしろそれがタケノコ自体の旨さをこれ以上ないほどに引き出していた。
これほどおいしいタケノコを食べたのは初めてだ。むしろこれが本当にタケノコなのか疑ってしまうほどうまい。異世界のタケノコだからか、新鮮な状態だからか、この極限化の状況だからか理由はわからないけれど、とにかく本当においしかった。
『収穫してすぐの状態ならアク抜きをする必要はないので調理も楽です。とはいえ、タケノコも無限にあるわけではないので、別の食料の確保も必要ですね』
「確かにね。別の竹林なんかもあればいいんだけれど、今のところはそれも見当たらないな」
アイの言う通り、このタケノコはかなり贅沢な味の食料だけれど、あまり無計画に食べてしまうと、すぐになくなってしまう。この無人島にどれくらいいるのかはまだわからないが、長期間いるのなら、この万能な素材である竹のもとになるタケノコを取り尽すとかなりまずい。
「確かにな。このタケノコってやつもうめえけれど、やっぱし肉か魚が欲しいところだぜ」
『水や拠点を手に入れたことですし、明日からは本格的な食料確保に向けて動いていくことを進言します』
拠点も確保でき、いよいよ本格的に動くことになる。こんな状況なんだが、少しだけワクワクしている自分がいるな。ただひたすらに同じような作業を繰り返す社畜の状況に比べたら、1日1日がとても濃密だ。
思えばこうやって自分で何かを作ったり、料理をしたりすることなんてだいぶ久しぶりだ。人間命が懸かっていればなんでもできるものだな。今ならブラック企業の上司に辞表を叩きつけることもできる気がする。冷静に考えてみると、なんであんな会社にしがみついていたのか不思議だ。人間環境が変われば冷静に物事を見つめ直せるというのは本当だったらしい。
「屋根があるだけでもだいぶ変わるもんだな。虫なんかも気にせず寝られるのも助かるぜ!」
「……そうだな」
竹で作った屋根と壁のおかげで、遮るものが何もなかった機能や一昨日よりもだいぶ気が楽になった。拠点の周りに敷いた虫よけの草も機能してくれているようで、耳元でうるさかった虫の羽音なんかも気にならない。
周りに壁が一枚あるだけで、これほど周囲の状況が気にならなくなるとは思っていなかった。解放感があることも大事だが、寝る時だけは囲まれていた方が安心できる。
……のだが、真っ暗な密室の中ですぐ隣からはルナの息遣いまで聞こえてくるこの狭い空間では少しドキドキしてしまう。もちろん変な気を起こすつもりなんてないけれど、おっさんは常にセクハラをしていないか不安になるのである。
『見張りは私がしておりますので、おふたりはゆっくりとお休みください』
「鳴子もあることだし、アイも休息が必要ならちゃんと休むんだぞ」
『お気遣いありがとうございます。ですがホログラムモード中に疲労は感じませんので大丈夫です』
「そうか……」
アイはというと小屋の入り口にいつものように無表情で立っている。
特に疲労は感じないらしいけれど、なんだか女の子に見張りをしてもらうのは少しだけ罪悪感がある。……女の子の姿をしているだけでAIに性別はないらしいし、見張り中はガチムチの男の姿にでもなってもらうのもありか。
ちなみにアイのできることについても確認してみた。どうやら俺が寝ている間にも活動を続けることができ、俺から5メートル範囲内であれば自由に行動できるらしい。これまでも森の中で食料になりそうなものを発見してくれたりと助かっている。
さて、明日も忙しくなる。早く寝て明日に備えるとしよう。




