第19話 拠点の完成
「よし、まずはこんなものか?」
『はい。長さも問題ないです』
「ふい~。結構大変だったな」
ルナと一緒に竹を同じ大きさに切りそろえ、それを半分に割っていく。その竹を上下に並べつつ屋根になる長さ分の竹を用意することができた。
上下に重ねると倍の重量となり、あまり重いと支柱がもたないため、それほど太くない竹を選んで加工していったのだが、それでも結構な重労働だった。
「冷たい水がうまいぜ!」
「ああ。川の水で冷やしただけでもだいぶ違うものだな」
休憩をしつつ、川の水で冷やしていた竹筒の水筒に入れておいた水を飲む。
この炎天下の中、川で冷やした水は身体に沁みる。そういえば昔は山でキャンプをした時にスイカを川で冷やして食べたものだ。
『釘があれば1本ずつ完璧に固定できたのですが、現状釘の代わりになりそうな物がないので、ツタを使って固定していきましょう』
「了解だ」
休憩を終えて作業を再開する。
この無人島では釘一本とっても代わりの物を用意しなければならない。竹を釘くらいの大きさに加工するのもアイが提案してくれたが、ノコギリやヤスリなんかがなくて加工が難しいのである。竹を斬る時もノコギリではなく石斧だったからそこまで正確に切れていない。
今回はルナの爪で竹に穴をあけ、そこに森の中で見つけたツルを通して竹を固定していく。落ち着いたらいろんな加工道具も作っていきたいところだ。
『マスター、ファイトです!』
「ああ、一発だぜ!」
「おい、本当に大丈夫かよ……?」
俺の世界のCMなのでルナが知らないのも当然である。というか、今の若い世代の子たちも知らないだろうなあ。俺も疲れすぎていてテンションがおかしくなっているのかもしれない。
俺は今崖の前に両手を突き出していた。そして俺の肩の上にはルナが立って乗っており、崖にその鋭い爪で溝を掘っている。ルナは女性なのでそれほど重くないのだが、体力のないおっさんの俺にとってはかなりきつい。
とはいえ脚立や台なんかはなく、ルナが下では俺は壁に溝を掘ることができないから、文字通り踏ん張るしかないのだ。
「おっさん、次だ」
「了解だ」
ルナが崖に溝を掘る度に少しずつ右にずれていく。あとはこの溝に先ほど作った竹の屋根の片側を突っ込み、反対側は竹の支柱で作った物干し竿に乗せて最後にツタで固定すれば屋根は完成となる。
まったく、おっさんには厳しい限りだ。
「ぶは~やっとできた……」
「すっげ~もう立派な屋根じゃん!」
『マスターお疲れさまでした』
今は疲れすぎて横になっている。さすがに体力の限界だ。
しかし苦労の甲斐もあって、俺の視界の先には日差しを遮る立派な竹の屋根が出来上がっていた。岩壁側に竹の屋根を差し込み、そのまま支柱側の方にもルナを肩に乗せてツタで屋根を固定することができた。
なんだか屋根があるだけで、昨日や一昨日とはまったく異なる気分だ。やはり屋根があるだけで拠点という認識がはっきりとできるのだろう。
『あとは四方に屋根と同じ竹の壁を作れば拠点は完成です。それと支柱が2本だけでは少し不安なので、崖以外の3面にサブの支柱を固定しましょう』
「おふ……」
屋根が付いただけではまだ完成ではなかった。次は屋根に立てかけるだけとはいえ、あと3面も同じ作業をしなければならないようだ。
「少し休もうぜ。竹はあとで一緒に集めりゃいいからよ」
「面目ない……」
「気にすんな。むしろ頑張っているほうだと思うぜ」
連日無人島を歩き回っていろいろな物を集めてきたこともあって俺の体力は限界だった。申し訳ないが、少しだけ休ませてもらおう。
ルナだけ竹を取りに行ってもらうのもありだけれど、この状態で危険な魔物が現れたら俺がまずいことを察してルナも一緒に休んでくれるのだろう。種族の差別によってこれまでにいろいろとあったというのに、本当に優しい子である。
『マスター、休憩しながらもできる作業がありますので、今のうちにそちらをやりましょう』
「……了解」
アイは主人の俺に対してもう少し優しくしてくれてもいいんだよ?
まあ、少なくとも今はアイの言う通り周囲の環境を整えるのは早いに越したことないことはわかってはいるが。
『ルナ、マスター、お疲れさまでした。これで完成となります』
「よっしゃあ! たった1日で作った割にはいい感じじゃねえか?」
「ああ。今の俺にはうちの安アパートよりも輝いて見えるぞ!」
1日がかりで立派な拠点が出来上がった。立派と言っても、四方を竹の壁で囲っただけの小さな小屋と呼ぶにしても貧相な拠点であるが、俺の人生の中で一番苦労して作ったと言っても過言ではないこの拠点は俺の安アパートよりも光って見えた。
ほとんどルナのおかげであるが、よくたった1日で作れたものだよ。




