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第12話 まともな料理


「うん、これはいけるぞ!」


「ああ、ようやくまともな飯が食えたぜ!」


 焼いて塩をかけただけのタロイモがとてつもなくうまく感じる。


 焼きたてのタロイモは、外側がカリッとした食感で、中はホクホクしておりほのかに甘い。海水から作った塩がイモの素朴な風味を引き立て、口の中でふわっと広がる。焼いたイモの香りと塩っ気が疲れた体にじんわり染み入るようだ。


 昨日はヤシの実ばかりでまともな食べ物を食べることができなかったことに加えて、火が通った料理というのは人間らしくてとても落ち着く。それにこの塩味がたまらない。やはりココナツウォーターだけでは塩分が足りていなかったようだ。暑くてだいぶ汗もかいたし、身体が塩分を欲していたことがよく分かる。


 気付けば2人で焼いたイモをすべて食べ尽くしていた。


「いやあ~うまかったぜ。保存しておく分も全部食っちまったな」


「また見つければいいよ。いやあ本当にうまかった」


 この状況のおかげか、元の世界のイモよりもおいしいのかわからないが、俺が今まで食べてきたイモの中で一番うまいイモだった。デザートの桑の実を食べて口の中もさっぱりし、活力が込み上げてくる気分だ。


 今後のことも考えて多めに持ってきたのだが、お腹が空いていたのとあまりにおいしかったこともあってすべて食べてしまった。また森の中へ探しに行くとしよう。


「おし、そんじゃあ行こうぜ!」


「ああ、行こう」


 ちゃんとした昼食を取り、ココナツウォーターでしっかりと水分補給をする。出来あがった塩はプラスチックの弁当箱に入れ、外皮を取り除いたヤシの実と一緒にビジネスバッグの中に入れる。


 こんなことになるならビジネスバッグではなくリュックで通勤しておけばよかったな。とはいえ、荷物を運べるバッグがあるだけでだいぶ違う。今回の探索で得たタロイモや桑の実を手で持つ以上に運べたのはだいぶ助かった。


 上着のスーツも荷物になるのだが、何が役に立つかわからないから持っていく。この島にはない貴重な布だからな。他にも使えそうな大き目のヤシの実と貝殻を持っていく。火にかけたり皿にして使えそうだ。


 お世話になったヤシの木の群生地を離れ、丘の上から見えた川沿いの方へ進んでいく。まあ、もしも川の付近が拠点としてふさわしくなかったら戻ってくるだけである。




「ふう~とりあえずここまで着いたか。ここからは初めて通る道になるな」


『案内はお任せください。また、いつでも引き返すことが可能です』


「助かるよ」


 まずは海の方から先ほどやってきた岩壁の先の方までやってきた。さっきはここから丘の上に登って海の方へ戻っていったが、今回は丘のさらに先へと進む。


 アイが先ほど丘の上から見た地形をもとに、俺たちがどの方向にどれだけ歩いたかを計算して現在地を計算してくれるらしい。


 目印のない森の中を進むことになるため、本来であればナイフで木に印をつけて来た道を分かるようにするサバイバルの定番のやつが必要になるはずだったが、アイのおかげで大丈夫なようだ。


 さすがAIだけあって、もうそんなことが可能になるまで学習してくれている。本当にアイは頼りになるなあ。


「……そこそこ魔物なんかはいる島みたいだな。ほら、こいつは魔物のフンだ。こっちのはけもの道っぽいぞ」


 ルナが先頭を歩きつつ、地面をチェックしていく。ルナは狩りをした経験も豊富らしい。


 けもの道は野生動物が繰り返しそこを通る際にできた細い道で、そこに罠を仕掛けるのが効果的だとなんかの漫画で読んだことがあった気がする。


「なるほど。落ち着いたらけもの道に罠を仕掛けてみてもいいかもしれない」


「罠なんてなくても俺が狩ってきてやるぜ」


「狩りか……。万一ルナが怪我をしたら困るし、極力戦闘は避けたいところだな」


『切り傷に効果的な植物をいくつか発見しましたが、大きな怪我をされると現在の状況では治療することができません。私もルナが直接戦うことは避けるべきだと思います』


「そ、そうか!」


 俺とアイがルナの身を案じてそう言うと、なぜかルナは顔を少し赤くしながら嬉しそうにしている。


 白狼族は忌避されていたと聞いたし、もしかすると誰かに心配されることが少なかったのかもしれない。こんなに可愛らしい女の子なのに不憫だよなあ。


『マスター、竹です! 竹があります!』


 さらに森の奥へ進んでいくと、突然アイの大きな声が頭の中に響く。アイがこんなに興奮した様子で話すのは初めてだ。


 見ると少し先に細長く伸びている緑色の群生が見える。確かにこれは元の世界にあった竹だ。


「へえ~本当だ。こっちの世界にも竹はあったんだ」


「俺は初めて見る植物だな。うまかったりするのか?」


「いや、竹は食べられないよ。アイ、竹は何かの素材になるのか?」


『竹は古来から世界中で万能的な素材として扱われてきました。強度があるうえに高い柔軟性を備えております。水に強くて腐りにくく、拠点の屋根などに最適です。また、中が空洞になって節で分かれているため、水や物を入れる容器にもなります。菌を抑える抗菌作用もあり、加工もしやすく罠や弓などにも使えます。さらにまだ生えかけの状態であればタケノコとして食用も可能です』


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