第10話 岩壁の上
岩壁沿いに歩くこと30分。ようやく岩壁が途切れるところまでやってきた。
そこまで遠いわけではなかったのだが、桑の実や他の食べられそうなものをいろいろと発見して時間が過ぎてしまった。タロイモの葉を発見できたのは大きかったな。今は探索を優先するが、あとで掘り起こすとしよう。
アイのデータは本当にありがたい。俺の世界に存在するものだけとはいえ、毒のないものを判別できる能力が無人島で歯これほど役に立つとはな。
「岩壁はここで終わりか」
「そうみたいだ。ここからは上の方へ行ってみるか?」
『この島のデータがもう少し欲しいので、高いところから島の様子が見たいです』
「よっしゃあ、そんじゃあ上に行こうぜ!」
ここからは岩壁の上の方へ歩いていく。少し見た感じでは崖の上にも植物が生えていた。こっち側はどうなっているのだろうな。
「広い森が広がっているみたいだ。奥の方は草原もあって、さらに奥には大きな山か」
「反対側は木々が多くて見えねえな。とりあえず家なんかは何もねえみたいだ」
少しずつ登っていくとこれまで木々が邪魔で見えなかった島の全貌が明らかになってくる。
これまでに歩いてきた方向には広々とした緑色に染まっていた。無人島というだけあって、人工物はなにひとつ見えない。今は無人でも廃村で建物や畑のあととかがあれば楽になるんだがな。
それにしても、無人島と聞いたからもう少し小さな島だと思っていたが、だいぶ広い。
「少しずつ木々は減っているな」
先ほど見た岩壁の上の方にも木は見えなかったし、海の方へ近付くにつれて緑は減っているのかもしれない。
進んでいくにつれて反対側の方も見えてきた。反対側は緩やかな丘になっているみたいだ。こっちの方もしばらく緑が続いている。
「!? おっさん、あっちに川があるぜ!」
「なに! ……本当だ。あんな小さく見えるのによく見つけられたなあ」
「おう、俺は人族よりも目はいいからな!」
ルナの言う通り、こっちの丘を降りた方向に一本の川が流れている。この距離からだと開けた場所が木々の隙間に少しだけ見えたのだが、よく見つけられたな。白狼族という種族は視覚も優れているらしい。
『川の上流に行けば澄んだ水源を確保できます。魚などの食料になる生物も多いため、川と海の付近に拠点を置くのがよいと考えられます』
「そうだな。今ある荷物を持って、あっちに移動しようか」
「賛成だぜ。とりあえず川があればいろいろとあるからな」
アイの意見に俺とルナが賛成する。やはり生活基盤を築くのなら川と海が近くにある方がいい。
これは幸先が良いな。
「……さすがにここから陸地は見えないか」
川を見つけたあともそのまま先に進み続け、最初に見た岩壁の上のところまで辿り着いた。
そこからこの島の一部や海の先を見ることはできたが、この島以外の陸地は見当たらなかった。
『この高さでは見えないようです。ですがもっと高い場所から見える可能性はありますし、別の場所から陸地が見える可能性はあります』
「そうだな。焦らずにいこう」
そう口にはしたものの、期待していないといえば嘘になる。
ルナが船で流されて数日でこの無人島へ辿り着いたということは陸地からそこまで離れていない。もしかしたらこの場所からならなにか見えるかと思ったのだが、そのアテは外れてしまった。
とはいえ、まだこの無人島についてから2日目だ。諦めずに探していくとしよう。
「それにしても本当に綺麗な景色だな」
「そうか? 別に何もないだけだぞ」
「俺がいた街だと、これだけ自然が広がっている場所は珍しいんだよ」
「へえ~随分と栄えた街にでもいたんだな」
目の前には広大な自然が広がっていた。
紺碧の海がどこまでも広がり、陽光を受けた波が銀色の鱗のように煌めいている。遠くの水平線はどこまでも続いているようで、群青色の海の上には水色の空が澄み渡っており、雲は羊の群れのようにのんびりと流れていく。潮風が頬を撫で、汗で濡れた服を心地よく冷やしてくれた。
こんな状況だというのに自然の美しさに感動せずにはいられない。思えばここ10年くらいまともに旅行へいった記憶もなかった。大げさかもしれないが、この広大な自然の美しさは俺の胸に訴えかけるものがある。
ほんの少しだけだが、この無人島にこれて良かったと思ってしまったぞ。