第4話 日常のつもりが、世界が大騒ぎ
朝の光が差し込む王宮。
美月は昨夜の刺客騒動を思い返しながら、ゆっくりとベッドから起きた。
「ふう……なんで私、こんなことになってるんだろう」
もちろん、彼女は知らない。
昨日一晩で隣国は非常事態を敷き、魔王も「この少女だけは絶対に手を出すな」と部下に厳命したことを。
世界の情勢はすでに、美月中心に回っている。
朝食の間、王宮の廷臣たちはざわついていた。
「聖女様、今日も何か起こりませんか……?」
「いや、あの……私、ただパンを焼きたいだけで……」
しかし、話している最中、庭で水を撒いたら、庭の池は巨大な泉に変わった。
水鳥たちが舞い、花が一斉に咲き誇る。
廷臣たちは目を見開き、机を握りしめた。
「聖女様……これは……奇跡……!」
美月はただ笑って首をすくめた。
「えっと……あ、いや、これ、水撒いただけなんですけど……」
その頃、隣国の王城では緊急会議が開かれていた。
「……どうやら、あの聖女、美月という少女は、攻撃どころか存在そのものが災厄のようだ」
「我々の刺客はあっという間に消滅、兵も動けず、情報を送る間に全て封じられた」
魔術師たちは頭を抱え、将軍は顔面蒼白。
「……こんな相手、どうやって戦えというのだ……」
隣国の報告によれば、美月は今日も「普通にパンを作るつもり」で庭の水を撒いただけなのに、街の作物は豊作になり、民衆の病気は治り、数百人が集まる広場で祈っただけで空が晴れ渡ったという。
「……世界が、無自覚少女中心に動いている……」
将軍はため息をついた。
王宮での昼食後、美月はついにパン作りに挑戦することにした。
「せっかくだし、王宮のみんなに食べてもらおうかな」
材料を手に取った瞬間、周囲の調理器具が自動で動き、粉はふわりと混ざり、オーブンは勝手に温度を調整。
出来上がったパンは、見た目も香りも完璧。王宮中が感嘆の声を上げた。
「聖女様、これ……一体どうやって……?」
「いや、私、ただ手をかざしただけで……」
王宮の廷臣たちは恐怖と感動で言葉を失った。
その場にいた兵士がささやく。
「……この少女、怒らせたら国ごと消されるかも……」
美月はただ笑って、パンを一口。
「うん、美味しい!」
その瞬間、隣国の偵察報告によると、王宮周辺の畑はさらに豊作になり、民衆の間で「聖女様の御手が触れただけで幸せが訪れる」と噂になり始めた。
夜、王宮の窓から外を見下ろす美月は、小さなため息をついた。
「パン屋、開けるのかな……でも、こんな世界じゃ、普通に暮らせないかも」
しかし、彼女はまだ気づかない。
世界最恐の災厄として、日常のほんの些細な行動さえ、世界の秩序を揺るがすほどの影響力を持っていることを。
星空の下で、世界はゆっくり、しかし確実に、美月を中心に動いていた。
敵も味方も――彼女の意図とは関係なく、すべてが彼女の“無自覚チート”の影響下にあった。
美月は今日も、平凡な日常を夢見ながら、知らず知らずに世界を救っていた。