第2話 王宮に行ったら、歓迎どころか恐怖の中心でした
朝、森の小道で目を覚ますと、すでに王宮の使者が待っていた。
「聖女様、陛下からの御迎えです」
え、もう? 昨日のドラゴン事件から一晩しか経ってないのに、王宮って……。
慌てて靴を履き、森を抜けると、馬車に乗せられ王宮へと向かった。
馬車の窓から見える村人たちは、私を見ると手を合わせ、泣きながら歓声を上げる。
「……怖い、なんで皆そんなに騒ぐの?」
私は不安と戸惑いで胸がいっぱいだった。
王宮に着くと、豪華な広間に通された。
玉座には若き国王が座り、側には宰相や貴族たちがずらり。
「聖女……いや、美月様、ようこそ我が王宮へ」
国王の声は震えていた。どうやら私がちょっとやそっとの力ではないことを知っているらしい。
歓迎式典が始まる。金色の光が差し込む中、貴族たちはひざまずき、私に花束を差し出す。
「いや、そんな……」
私は小さく手を振っただけなのに、周囲の花は一斉に開き、香りが広間を満たした。
貴族たちは恐怖と敬意で顔色を変える。
「聖女様、お手を……」
「いや、私はただ……」
しかし、式典中に突如、王宮の庭に黒い影が差し込んだ。
城の警備が緊張する中、空から巨大な魔物が現れたのだ。
「……うわっ、今度は何?」
私は思わず手をかざすと、光が放たれ、魔物は叫ぶ間もなく消滅した。
王宮中が静まり返る。
国王は額に汗を光らせ、宰相は机を叩いて震えた。
「……恐ろしい、まさか……」
「聖女様、一体何者なのですか……」
私はただ肩をすくめ、申し訳なさそうに答えた。
「うーん……私はただ、みんなが安全に暮らせたらいいなと思っただけで……」
しかしこの「ただの思いやり」が、世界最恐の災厄を生むらしい。
私の目の前で、貴族の一人が手を震わせて花瓶を落とした。
「花瓶……大丈夫です!」
手をかざすと、粉々になった陶器は元通りに戻った。
貴族たちは息を飲み、恐怖と尊敬の目で私を見る。
「……美月様、あなたに逆らう者はいない」
「ええ、いや、逆らう気もないし……」
私はただ、平凡に暮らしたいだけなのに。
式典の終わりに、国王は厳かに告げた。
「美月様、ぜひ我が国の守護者としてお力を貸してほしい」
私は小さく首をかしげた。
「守護者……ですか?」
神様の言葉を思い出す。――いや、私は役立たずなんだから、守護者なんて無理だってば。
だが、王宮を後にする頃には、すでに外の民も私を「救世主」と呼び、隣国は私の存在を恐れ始めていた。
なんでこんなことに……。
夜、宿に戻ってひと息つく。手元には小さなパン屋のチラシを描いたメモ帳。
「うーん……パン屋を開くには、もうちょっと平和な世界じゃないと……」
とぼやきながら、月明かりに照らされたメモ帳を見つめる美月。
しかしその背後で、世界は少しずつ、いや、猛烈な速度で彼女の存在を中心に回り始めていた。
敵も味方も――すでに「この少女だけは怒らせてはいけない」と認識していたのだった。
美月はまだ気づかない。
世界最恐の無自覚災厄としての、自らの役割に――。