濡れ衣付き婚約破棄&国外追放、プラス人攫い(合意のもとです)
「で、話戻すんだけど……シャンデイル皇国って飴細工が有名でしょう? だから一刻も早く皇国に行きたくて、この森を突っ切ることにしたんだ」
これにシルヴェインとノクタリオンは絶句した。
二人の心はただ一つ。
((飴のために命かける令嬢とか、意味わからん……))
なかなか辛辣な感想だが、実際そんな令嬢はこの世に一人しかいないため、二人は何も悪くない。
そしてこの世でただ一人、飴細工に命をかける少女は、眉間にキュッと皺を寄せる二人を見ながら首を傾げていた。この娘、割と鈍感である。
しばしの沈黙。
「…………よし」
「んっ?」
疑問の声を上げたのは、リネアルーラ。
何かを決めたという顔つきになったシルヴェインは、この後謎の言動を繰り返し、リネアルーラを翻弄する。
「…………ええ、っと、ルー……? あの、どうして私の手首を拘束しているのかなー……?」
「攫う」
「ピギャッ!?」
なんとも情けない悲鳴を漏らしたリネアルーラは涙目気味で、両手首を掴んでいるシルヴェインに『説明して!!』と訴える。
シルヴェインは真顔のまま言った。
「皇国に行きたいんだろう。俺たちも皇国に帰るところだ。一緒に来い」
「や、皇子様にそこまでしてもらうのは……」
「どうせ皇国に行ったって、行く宛がないだろう」
「え? まあ、そうだけど……」
言い淀む彼女にシルヴェインは、どこか面白そうに目を細めた。
「城に来い。養ってやる」
「やしなう」
もう一度『やしなう』と繰り返すリネアルーラは、ニホンでいう“スペキャ顔”だった。
何言ってるんだこいつ、と思っていることが丸わかりである。
「いやー……養うってそんな、ペット飼うみたいに……」
あはは、と誤魔化すように笑うリネアルーラに、シルヴェインは、なるほどと頷いた。
「ああ、いいな、それ」
「…………へ」
ぱちり、と目を瞬いた。
恐いほど整った顔が、真っ直ぐにリネアルーラを射抜く。
「俺がお前を飼ってやる。だから俺のところに来い」
差し伸ばされる手。僅かに緩んだ目元と唇。
リネアルーラは一瞬、ドキッとしてしまった。
だがそこは人生百周目。すぐにハッと我に返って、声を張り上げた。
「る、ルー! そ、そういうのは軽々しく言ったらダメだよ! それに、飼うなんて……ていうか私たち今日出会ったんだよ!?」
ど正論だった。だが自他ともに認める超マイペース人間(なおリネアルーラは知らない)シルヴェインは、至って平静に続ける。
「俺のところに来れば、極上の飴細工をくれてやる」
「…………………………………………………………」
甘いものに目がない元公爵令嬢は、長い沈黙の末差し出された手に、ポンっと右手を乗せた。
グーで。