常識外れな御令嬢
一通り騒いで満足したリネアルーラは、シルヴェインの問いに答えようと口を開き。
「実は私、ついさっき婚約破棄されちゃってさー」
「ちょっっと待ってください。情報が重すぎて脳が拒否反応を示しました」
開始五秒で一時中断した。
発言者であるノクタリオンを見やると、『頭が痛い』とばかりに額に手を当てていた。
「婚約破棄……ですか。いえ、まあ偶にあることですよね」
なんとか理解して息を吐いたノクタリオンだったが、数秒後にもう一度頭が痛くなる運命だった。
「だが何故、それでこんな森に来ることになるんだ」
「ちっちっち。ただの婚約破棄じゃないんだなあ。なんとっ、国外追放付き!」
「国外追放!?」
「しかもその原因が、私の元婚約者に近づいてきた令嬢による濡れ衣」
「一々内容が濃い!!」
ノクタリオンがうるさい。
シルヴェインとリネアルーラが胡乱な目を向けるが、本人の意識は別のところに飛んで行っているようだった。
(ノクタリオンって、クール系紳士キャラだと思ってたけど、意外とそうでもない……?)
リネアルーラの考え通りだった。
実はノクタリオン、公務やシルヴェインに関わること以外では、割と面白お兄さんだったりする。
表舞台ではキリッとしているが、私生活は割と雑だ。そのギャップがいいと言う女性もいるそう。
そんな面白お兄さんことノクタリオンを丸っと無視して、シルヴェインはリネアルーラに再び話しかけた。
「国外追放になったとはいえ、何も『魔の森』に来る必要はなかったんじゃないか?」
(そうだね、それは私もそう思う……)
シルヴェインの言葉に心底同意しながら、リネアルーラは大真面目に口を開いた。
「私ね、飴細工が食べたかったの!!」
「………………ん?」
「………………は?」
ノクタリオンは『いま話が飛んだような』と首を傾げ、シルヴェインは『まさか、いやまさかな。いくらコイツでも違うだろう』と優秀な脳が叩き出した結論をすぐさま否定する。
そんな二人は視界に入っていないのか、リネアルーラは突然『はっっ!!』という顔をしてシルヴェインに詰め寄った。
「ルー! あの、『シャンデイル皇国に入るな!』とか言わないよね!?」
「え、あ、ああ……別に言わないが」
「ほんとに? 絶対だよ? やっぱナシは駄目だからね!」
シルヴェインは『何故そんなことを訊くのだ』と疑問を抱き、同時に先ほど否定した結論が再び頭に浮かぶ。
しかし、あまりにも常識外れなそれを脳が拒否反応を示してしまい、彼は正解を手放すこととなった。
また、シルヴェインには確認すべきことがあったのも、正解を手放すこととなった一因だろう。
「おい」
「ふふふっ、これで飴細工が食べられる……ん? ルー、どうしたの?」
「その“ルー”というのは、俺か」
「YES! だって長いじゃんか、シルヴェインって。あ、もしかして嫌だった? だったら直すけど」
「……いや、そのままでいい」
「そーお?」
首をひねるリネアルーラを横目に、シルヴェインは自分の中にある感情がなんなのかわかりかねていた。
リネアルーラに『ルー』と呼ばれると、どうしてだが胸が疼いた。体の中心がぽかぽかとして、唇が勝手に弧を描く。
ぽろりと、口から言葉が溢れ出た。
「お前にそう呼ばれるのは、気分がいい」
「…………ルー。その顔、絶対他の人に見せちゃダメだよ。死ぬから」
「?」
リネアルーラがスンッと真顔で言った言葉に、シルヴェインは意味がわからなかったがとりあえず頷いておいた。
リネアルーラの、
「…………ルー。その顔、絶対他の人に見せちゃダメだよ。死ぬから」
は、
「…………ルー。その(妖艶すぎる)顔、絶対他の人に見せちゃダメだよ。(かっこよすぎて女性陣が)死ぬから」
と言う意味。
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