小さき危険生物
嫌味なほど爽やかな青空に、眩しい太陽。深緑の草木は小鳥と戯れ、煌めく湖はそよ風を受けて静かに揺れる。
その美しい光景を見て、リネアルーラはきゃあっとはしゃいだ声を上げた。
「いやぁ、めちゃくちゃ綺麗な景色だね! 来てよかったピクニック! あ、ピンクの小鳥がいる! あのお花もかわいい〜! あっ、あの赤い実は食べられるのかな?」
「待て待て待て落ち着け」
さっそくあっちこっちへ興味を移して動こうとする義姉に慌ててストップをかけるリメイヴァ。
それに対して「はーい! リネちゃん、今日も可愛い!」と幼稚園児よろしく手を上げるリネアルーラ。元気でよろしい。
ちなみに今彼女が食べようとしていた小さな実は、触れるだけで皮膚から猛毒が侵入して一瞬で死に至る超危険な実である。
リメイヴァは頭痛が痛いと言わんばかりに額を押さえてブツブツ声を漏らす。
「なんでオレはここにいるんだ……? 記憶が正しければ、今朝急に『ピクニックへゴーだぜマイブラザー!』と強制早起きをさせられて城を飛び出して『魔の森』と呼ばれる超危険な大自然の中に意気揚々と入ろうとしているコイツに慌てて付いて行ったような……あれオレ疲れてるのか……??」
「どしたのリメイヴァ。疲れちゃった? 膝枕する?」
「元凶はお前だ!」
えーと唇を尖らせる義姉に深々とため息を吐く。
というか、と浮かんだ疑念を彼女に問う。
「このことをシルヴェインは知ってるのか?」
「知らないはずだよ? 黙って抜け出したしね」
「おいバカッ!?」
「あれ、気づいてなかったの? わざわざ扉じゃなくて窓から外に飛び出た時点で察してくれてもいいと思ったんだけど」
「わかるか! というか絶対シルヴェイン気づいてるだろっ!?」
「大丈夫! 侍女の子たちに頼んでアリバイを作ってもらったし、侍従の人には私たちがいるってことになってる温室に誰も入らせないように言ってるし、ノクタリオンにはルーが私に会いに行こうとしたら足止めするように言ってあるから!」
「無駄に高いスペックをここぞとばかりに発揮するなっ!」
用意周到に対策を立てたリネアルーラが満面の笑みでダブルピースすると、対照的にリメイヴァは崩れ落ちた。
綺麗な芝生に寝っ転がってうつ伏せになり微動だにしない。
「無理……コイツの面倒をオレだけで見るとか無理……」
「それよりそろそろお昼にしようよ、お腹すいちゃった」
屍と化した弟の言葉をスルーして持っていたバケットの中身を取り出すリネアルーラは、紛れもないマイペース女であったと後に被害者L氏は語った。
赤いチェック柄のシートを引いて、その上にサンドイッチが載った木製の皿を乗せる。水筒(自作)の中身をカップに注ぐと、食欲を唆るいい匂いが広がった。
匂いに釣られたのか、食欲旺盛で定評があるリメイヴァがむくりと起き上がった。
いそいそとシートに近づき、次いで首を傾げる。
「……なんだこれ」
「左から順に、たまごサンド、ハムレタスサンド、カツサンド、フルーツサンド、それからコンソメスープだよ!」
きつね色に焼けたパンに挟まる新鮮な具材。見た目も可愛い種類豊富なサンドイッチにの隣には、彩り豊かな熱々のコンソメスープ。
本当はおにぎりも一緒に持って行こうと思っていたリネアルーラだったが、料理長に相談するの段階で、なんとそもそもお米がないという衝撃事実が判明。
泣く泣くサンドイッチのみを作ることになった彼女は、代わりとばかりにたくさんの種類を用意したのだ。
余談だが、リネアルーラが試作の時に料理長に渡したサンドイッチは、今後しばらく一部の料理人の間でブームとなり、近々世界初のサンドイッチ専門店が誕生するのだが、今の彼女の知ることではない。
「ほい、カツサンドどーぞ」
「……ありがとう。いただきます」
「あっ待って。先に手の消毒」
「じゃあなんで渡したっ?」
リネ作のアルコール消毒液をシュッシュして、カツサンドに齧り付くリメイヴァ。無言でもぐもぐと食べ続けるその姿は、まさに冬の準備に勤しむリスの如し。
微笑ましそうにその様子を見ながら、リネアルーラはデザートのはずの生クリームたっぷりフルーツサンドを咀嚼する。
十分ほどで全て完食した二人は、シートの上でお腹をさすりながら欠伸する。暖かな日差しが心地よい睡魔を呼び、満ち足りた心境で言葉を吐き出した。
「美味しかったねぇ。でもやっぱりおにぎり欲しかった」
「……まぁ、美味かった」
「わぉ、リメイヴァきゅんが超キュート」
「なんて??」
例によって出てきた意味不明な言葉に突っ込みつつ立ち上がったリメイヴァに、およ、とリネアルーラは眉を動かす。
「どこ行くの?」
「散歩」
そっけなく言って歩き出すリメイヴァに、リネアルーラが当然のようについていく。予想はしていたため、ため息を吐きつつ放置する。
美しい森の中をゆっくりと歩く二人は、端正な容姿も相まってまさしく逢引き中の恋人だ。見た目だけなら。喋らない限りなら。
先程までいた場所が見えなくなった頃には、満腹になった腹も落ち着いていた。
「みてみてリメイヴァ。これすごない?」
「何がだ……っておいそれ捨てろっ!」
「なんでよぅ、可愛いじゃんか」
ほれ、と手に乗った小さな虫を見せつけるリネアルーラ。その名はヒラズゲンセイ。真っ赤なボディが特徴の、猛毒持ちである。
そんな真紅の小さき危険生物は、無情にも弟の手によってペイッと投げ捨てられてしまった。
「村田ひとし23号おおぉぉぉぉっ!?」
モブ臭い名前を叫ばれながら、ブゥーンと飛んでいく村田ひとし23号。彼はこれから、愛する妻とその腹の中にいる子供たちの元へと帰還するのだ。家族想いな彼に幸あれ。
そしてそんな彼を捕らえたハンター・リネは、絶望に暮れて「ヤケ酒してくるぅぅ!」とシートがある方向へ走り出す。流れる真珠の如き涙が芝居臭かった。酒などないのにどうするつもりなのか。
呆れたリメイヴァは、とりあえずゆっくりと戻ることにした。
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