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お久しぶりです、おじさま!

「きーらーきーらーひーかーるーっ、おーそーらーのーほーしーよーっ♪」



 上機嫌に歌いながら、軽い足取りで王城の廊下を歩くリネアルーラ。

 ちなみに今は真っ昼間。星どころか月も見えない。

 そのままルンルンで向かったのは、緑と花の楽園――通称温室だった。



「ぴーっちぴちのっ、きーっらきらなっ、元気いっぱい食欲いっぱい、俺のかっわいいお花ちゃん〜♪」



 足を踏み入れてすぐに、聴き慣れた歌が聞こえてきた。もっとも、歌詞は毎回変わる上に音程もめちゃくちゃだが。

 そのやたら陽気な声に、にこにこしながら声の主を陰から覗き込む。


 白銀髪をふりふりして、明るくフレンドリーな笑顔を浮かべる美丈夫が……リネアルーラの目の前で、全長五メートルはある巨大食虫植物に、がぶっと頭を食べられた。

 もう一度言おう。頭を食べられた。



「ギャーーーッッ!! 待って待っておじさまぁ!?」



 慌てて飛び出して、勢いのまま巨大人喰いモンスターに華麗な飛び蹴り。衝撃でおじさまをペッと吐き出したモンスターは、そのままずごずごと蕾の中へと退散していった。

 そして吐き出された本人はというと、目をパチクリさせながら救世主リネアルーラを見て、親しげな笑顔を向けた。



「おおっ、リネちゃんリネちゃん! ひっさしぶりだねぇ〜!」


「お久しぶりですおじさまお元気そうでなによりです本当に!! なんっであんな見るからに危険そうな食虫植物に安易に近づくかなぁ!? 危機感死んでます!?」


「いやぁ実はね、この間息子に『あなたはこんなわけのわからない植物を集めて何がしたいんだ? 頭でもかじられたいのか?』って言われてね。そういえば試したことないなぁと思って実践したんだよ!」


「馬鹿!! 紛れもない馬鹿!!」



 打てば響くような反応に、珍しくツッコミ役に回ったリネアルーラは疲れた表情になる。

 謎の研究者ことおじさまは、相変わらずフレンドリーな雰囲気で、汗とモンスターの唾液を拭っている。



「いやぁ、本当に久しぶりだね!」


「そうだねぇ。おじさま、最近ずっと来てなかったもんね?」


「いやね、仕事ほっぽってここに入り浸ってたら、温室出禁になっちゃってね」


「なるほど把握」



 つまり自業自得である。

 とりあえずハンカチを貸して、おじさまと一緒に可愛らしい桃色の花を覗き込む。

 そのつるつるな葉っぱを撫で撫でしながら、今日相談したかったことを言う。



「あのねおじさま。私ね、最近弟ができたの」


「ああ! あの話題のリメイヴァくんだね! かっこよくて可愛いって話題沸騰中だよ!」


「そう!! リメイヴァはずっっごくかっこよくて可愛いの!!」



 声高々に力説するリネアルーラに、おじさまは笑顔でうんうん頷く。



「ちょっと無愛想なところがあるけど、私が何かお願いしたら文句言いつつもやってくれるし、昨日だってハンバーグ作ったら食後にボソッと『…………美味かった』ってちょっと恥ずかしそうに言ってくれて!」


「うんうん。リメイヴァくんいい子だねぇ」


「でもっ!!」



 そこで楽しげな様子から一変、悲壮感溢れる面持ちで両手両膝をついて項垂れる。そう、それは絶望のポーズ。



「リメイヴァがいまだに私を姉として見てくれないぃぃぃ……」


「り、リネちゃんっ」



 どんよりと声を絞り出す様子に、おじさまはわたわた両手を振り回す。

 たっぷり十分ほど悲観に暮れてから、強い決意を込めた表情でおじさまを見る。



「そんなわけで……どうにかしてリメイヴァとの仲を深めたいんだけど、どうしたらいいかな? って」


「ううーん」



 ただならぬ思いを感じ取ったおじさまは、顎に手をやって、可愛いズッ友のために真剣に考える。

 じっと考えて、ついに思いついた考えを叫ぶ。



「ピックニックっ!」


「ピクニック?」


「そうっ! 姉弟きょうだいといえばお出かけ。お出かけといえばピクニック! 二人で仲良くお弁当を食し、草木を愛でてのんびりすることで、お互いをより意識するんだよ!」


「なるほど! …………でも」



 勢いよく頷いて、またどんよりと顔を伏せる。



「それで、本当に仲良くなれるかな……」


「リネちゃん……」



 いつもの快活な様子からは想像ができないほど凹んでいる姿に、おじさまはちょっとだけうるっとした。

 そっと両手を取って、顔を上げたリネアルーラに、できるだけ明るくにこっと笑いかけた。



「リネちゃんって基本的に破天荒だし行動が読めないけど、誰かのためになったり、意味のあるものばかりだよね。冷静に考えてから、おどけた調子で実行してる」


「う……うん? まあ……」


「でも俺は、時には思考を放棄して、がむしゃらに進むのもいいと思うよ。大丈夫。リネちゃんならきっとリメイヴァくんと仲良くなれる!」


「おじさま……」


「ピクニックで仲良しになって……いや、なんならリメイヴァくんをメロメロにしちゃうんだ! リネちゃんなら絶対にできるよっ」


「おじさま……っ」



 感激したように、リネアルーラの瞳がうるっと潤んだ。

 じんわり浮かんできた笑みのまま、いつもの明るい調子で両手を握り返す。



(そうだよね。私ならきっとできる……!)



 自信を取り戻して、自分を鼓舞するように言う。



「そうだよね……理性だけで考えててもダメだよね! ありがとう、おじさま! 私頑張る!」


「うんうんっ」


「リメイヴァとピクニックして、どんなに些細なことでも私を拒絶できなくなるくらいデロッデロに甘やかして、私以外目に入らないくらい依存させてみせるっ!」


「うんう……ん? 待ってリネちゃん今なんて」


「そうと決まればお弁当の仕込みしなきゃ! おにぎりがいいかな、それともサンドイッチ? ……よし、料理長に意見聞こ! じゃあねおじさま。上手くいったら報告するからー!」


「リネちゃぁんっ!?」



 目をキラッキラさせながら語るリネアルーラを嬉しそうに見ていたおじさまだったが、突然飛び出したトンデモ発言に固まった。

 勢いよくダッシュで駆けていく姿を追うこともできず、半ば衝撃から抜けきれず見送る。

 いやまあ、元気になったようでよかったと思うし、仲良くなろうとしているのは微笑ましい。


 だが、だがだ。

 依存させるというのはどうなのか。というかそもそも依存ってさせられるようなものなのか? いや彼女ならできそうだな。いやいや突っ込むべきはそこじゃない。依存させるというのは倫理的にどうなのか。犯罪にならないのか? あれそうなるとその発端の一部といえる俺は犯罪の片棒を担いだといえるのでは。


 そんな疑問と思考が混乱した頭をぐるぐると駆け巡り。



「………………よし、俺は何も聞かなかった! うん!」



 おじさまは鼻をふんふん鳴らしつつ、猫を喰い殺したという巨大食虫植物の世話に精を出すのだった。

とんでもねーこと言った女

 おじさまに励まされて自信回復。そうだよね、私頑張る! とハッスルしてる。リメイヴァを絶対に堕とす所存。弟が可愛くて仕方がない。


「あ、いたいた料理長! 明日ピクニック行くんだけど、お弁当、おにぎりとサンドイッチ、どっちがいいかな? ……え、おにぎりとサンドイッチをご存知ないっ!?」



とんでもねーこと聞いたおじさん

 最後の最後でズッ友がやべーこと言ってた。記憶から抹消して猫殺し花に頭かじかじされてたら、側近が駆けつけて救出。お仕事サボってたのバレてガチ説教される。実は息子が二人。自慢の息子たちさ!


「いやー、リネちゃん元気になってよかったよかった。…………リメイヴァくん、大丈夫かな。おじさま心配」

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