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イケメン七の秘術(?)

 以前にも出てきたが、リネアルーラの前世は公安警察だ。

 それもかなりの実力者として知られていた。一言で言えば部署のエース。他とは一線を引く存在。


 紅茶を飲みながら、お茶菓子をもらうような軽さで機密情報を聞き出す。

 邪魔な虫を潰すように、涼しい顔で大量の敵を制圧する。

 幼気いたいけな少女のように笑いながら、指先一つでターゲットを堕とす。

 控えめに言って無敵。才色兼備なエリート公安警察。

 同業者たちは彼女に羨望の目を向け、敵は名前を聞くだけで震え上がる。そんな存在。


 なんでもマンな彼女だが、一際得意だったのが、情報収集。一晩あれば人を十くらいは丸裸にできる。


 つまり何を言いたいのかというと、最悪の可能性が頭をよぎった彼女が本気で情報収集すると、


「知っていますか、リネ様! マレセリウスの子爵には、裏オークションの噂があったんです!」

「他にも、歴史に明るい謎の人物と懇意にしているとか……!」

「まあ、そうなのですか? ぜひ聴かせて下さいまし」


 こうなる。

 婦人方とのお茶会の場でうふふと優雅に微笑むリネアルーラ。噂好きな令嬢を演じて情報収集に励む励む。

 しかも恐ろしいことに、情報提供者たる婦人方にはその自覚がない。あくまで噂話をしているだけ。

 毎日のように茶会を開いて、言葉巧みに欲しい情報を得ていく。

 着々と集まる情報に、リネアルーラはにっこにこである。


「もうほとんど元凶は見えてきてるよね。歴史に明るい謎人物と、裏オークション……こんないかにも“犯人です”って設定の人が潔白(シロ)とかない。うん、絶対そう!」


 自室で集めた情報を整理して、声高々に言うリネアルーラ。

 ちなみに整理といっても、紙などに書き起こしたわけではない。情報漏洩を避けるため、情報は全て彼女の脳内にある。


「とりまアレだね、内部捜査。裏オークションが先かなぁ」


 頭の中で、午前中の茶会の様子を思い返す。

 教えてくれたおしゃべりな婦人は言っていた。



『なんでも、年若い少年少女を攫って、高値で売っているのだとか。オークションの支配人は、噂ではかなり巧妙に姿を隠しているらしいですよ』

『少年少女、ですか……どうして売っているのでしょう』

『これは憶測なのですが……奴隷にしているのではないでしょうか』



「いやこの世界奴隷とかあったんかーい!!」


 あの場で言えなかった突っ込みを思いっきり叫ぶ。

 この世界では実に五十八の人生を歩んでいるが、全くの初耳だった。


「うんんん……そんなツッコミはともかくとして」


 気持ちを切り替えて、ちゃんと考える。


「裏オークション……どこでやってるのかなぁ」


 リネアルーラは考えた。

 茶会でちびちびと情報を集めているだけでは、やはり限界がある。もっと大きな証拠を掴まなければ、敵を捕えることは難しい。



 ここは逆転を狙った一発――裏オークションに、客として潜入する!

 敵を内部から直接接触し、光の下へ引き摺り出す!

 もちろん他の人たちには秘密。反対されること間違いなしだし、もしかしたら一緒に連れて行けと危険なことを言い出すかもしれない。

 だからこれは、自分だけで行わなければいけない任務なのだ!



 いざ、秘密のスパイ・ミッションへ!





「っていうつもりだったんだけどなぁ!?」


 リネアルーラは絶叫した。

 目の前にはシルヴェインの端正な顔。背後には壁。顔の横にはシルヴェインの腕が二本、リネアルーラを閉じ込めるかのように伸びている。


 そう、恋愛大好き女子なら胸キュン必須の、イケメン男子七の秘術(?)のひとつ。

 壁ドン、である。



「なぁリンネ。お前がここのところずっと集めていた情報――一体何に使うんだ?」

「あばばばばばばばばばば」



 耳元で響く声に戦慄せんりつするリネアルーラ。

 任務は開始前から詰んだ。心の底からヘルプミィ。




 ▼△▼△▼△▼△▼△




「いよいよ明日が、決行の日なり!」


 自室にて、そう叫ぶリネアルーラ。

 ここ数週間練ってきた作戦の実行日が、ついに翌日に迫った夜のことである。


「ルーにもノクタリオンにも隠し通したし! めっちゃ珍しく、真剣に作戦考えたし! 抜かりはなーいっ!」


 深夜だからか、やたらとテンションの高いリネアルーラ。これぞ噂の深夜テンション。

 拳を握った両手を上に掲げる。


「そうっ! つまりこれは、いわば私の作った出来レース! それほどまでに完璧な作戦を立てた私は、やはりてんさ――」



「ちょっといいかリンネ」



 まさかな声が聞こえた。

 ギギギギギと錆びついたロボットのように首を回し、扉の方を見る。

 シルヴェインが、いた。


「ピギィッ!?」

「訊きたいことがあるんだが……」


 そしてイケメンにしか似合わない壁ドンを披露され、先の所に戻るわけだ。本当にどうしてこうなった。




 壊れたように上下に震動するリネアルーラに、シルヴェインはそれはそれは美しい笑顔を浮かべる。なんというか、こう、背後に雷が落ちるような。


「答えられないのか、リンネ? 仕方ないな、代わりに言ってやる。――人身売買の疑いがある裏オークションへの潜入。違うか?」

「チガウヨ!? ソンナコトカンガエテナイヨ!?」


 ばれてーら。

 全て筒抜けだったらしい。完璧に隠せていたと思っていたがゆえに、驚きも増倍。心臓ゲロリンしそう。


「自惚れすぎたな。俺には、お前が把握している以上の人間と関わりがあるんだ」

「わーお絶望的な事実をありがとうー」


 死んだ魚の目で言うリネアルーラ。

 シルヴェインはなおも美しく笑いながら、こてりと小首を傾げる。


「飼い主に内緒事なんて、イケナイ子猫だな」


 するり、と頬を優しく撫でられる。


「悪戯好きな子猫には――お仕置きしないとな?」

「アーーーーッッ、すみませんでした全部吐きますぅ!!」


 こうしてリネアルーラは全部ゲロった。

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