三月二十八日
<日記>
三月二十八日(金)
優真くんが本当に無事だったのか気になって、優真くんのお家に押しかけました。
ご家族の方がいたら優真くんの状態を聞いて帰ろうと思っていたのですが、インターホンを押したら優真くんの声が返ってきました。
わたしはカメラに顔を近づけて優真くんの名前を呼びました。何度も何度も呼びました。けれど、優真くんには聞こえていないみたいでした。ずっと「もしもし」と繰り返しています。やがて、悪戯か、という呟きとともに通話が切られてしまいました。
やっぱり、優真くんはわたしを忘れ、わたしを認識できなくなっていました。
優真くんがわたしを見てくれない。声をかけても気づいてくれない。もうわたしの名前を呼んでくれない。
世界で独りぼっちになったような淋しさと、心の真ん中を繰り抜かれたような喪失感に襲われました。深い闇の底に落ちていくような絶望に、身体が痙攣するように震え出しました。
人目も気にせず、わんわん泣きながら帰っていたら異能科の職員さんが飛んできて、車でマンションまで送り届けてくれました。その間も、帰ってからも、わたしはみっともなく大声で泣きつづけました。
ふと、これは罰なのではないかと思いました。
人が持ってはいけない能力を持ってしまったから、わたしが魔女だから、その報いを受けたんじゃないか。
他人から〝好き〟を奪ってきたわたしが優真くんを好きになって、一人だけ幸せになろうとしたから、天罰が下ったんじゃないか。
わたしが優真くんの愛を疑ったから、ちゃんと愛されていると証明するついでに神様が意地悪をしたんじゃないか。
そうなのかもしれません。でも、それでも、こんなのはあんまりです。
優真くん以外なら何でも差し出します。何も要りません。何も望みません。だから、わたしから優真くんを奪わないでください。お願いします。お願いします。お願いします。
指を組んでお祈りしても、神様は何も言ってくれません。
泣き疲れていつの間にか眠っていました。
目が覚めて朦朧とした意識のまま顔を上げると、机に仲良く並ぶ、サモエドの優真くんとブリティッシュショートヘアのわたしが目に留まりました。ぴったりと寄り添って嬉しそうにしています。
その姿を見て、また涙が溢れました。溺れるように息ができなくなって、嗚咽が止まらなくて、その苦しみがさらに涙を誘います。
けれど、胸の痛みの中で、微かに光が瞬くのを感じました。わたしたちの関係は過去になったわけじゃないよと、二匹に励まされているような気がしたのです。
わたしは涙を拭いて、ネックレスを握り締めました。
もしもこれが優真くんの愛を疑った罰だというなら、もう二度と優真くんを疑わないと誓いました。記憶がなくなってもまた好きになると言ってくれた、優真くんの言葉を信じようと決意しました。
優真くんは一度だってわたしにひどいことをしませんでした。面白い話で笑わせてくれて、優しく抱き締めてくれて、たくさんたくさん愛してくれました。きっと、記憶がなくなってもそれは変わりません。なくなってしまった想い出はもう一度二人で作っていけばいいのです。
優真くんがわたしを見てくれるようになるまで、一週間の辛抱です。あと六日間堪えれば、これまで通りの二人に戻れるはずです。
わたしは、優真くんを信じています。




