三月二十七日
~(中略)~
<日記>
三月二十七日(木)
今日、優真くんに能力を使ってしまいました。
冬休みに優真くんと連絡が取れなかったのが淋しくて、ついにスマートフォンを買おうと決心し、電器屋さんに行って優真くんと選んできた帰りでした。
公園で休憩していると、優真くんが飲み物を買ってくると言って走っていきました。ところが、十五分待っても戻ってきません。不安になって公園を出て川の方角に歩いていると、女の子の泣き声が耳に触れました。
音の出所を辿って土手を下りたところに、びしょ濡れになって泣いている幼稚園児を見つけました。同時に、その近くに脱ぎ捨てられた、優真くんのコートが目に飛び込んできました。
慌てて川を覗くと、そこには水草に引っ掛かって川の中に漂っている優真くんの背中がありました。
わたしは必死に助けを呼びました。泳げもしないのに川に入ろうか迷い、でも誰かに気づいてもらわなくちゃと焦り、川と道路の間の土手を行ったり来たりしていました。どうしよう、どうしよう、と泣きながら、ひたすら叫びつづけました。
黒服の職員さんの影が遠くに見えたそのとき、見覚えのある女の人が駆けつけてくれました。よく見れば、それは同じ学校の白崎さんでした。
優真くんが溺れていると説明すると、白崎さんはお洒落な洋服が汚れるのも構わず川を泳ぎ、優真くんを引き上げてくれました。わたしは白崎さんにお礼を言うのも忘れて優真くんに飛びつき、容態を確認しました。顔が真っ青で、身体は氷のように冷たく、意識も、呼吸も、脈もありませんでした。すぐに心肺蘇生を試みましたが、まったく効果がありません。そのうち、誰かが呼んだらしい救急車のサイレンが聞こえてきました。
優真くんが死んじゃうと思ったら、息ができなくなって、どばどばと涙が溢れて、気づいたときには能力を使っていました。
優真くんは見る見るうちに血色がよくなり、すぐに穏やかな呼吸を始めました。
よかった、という安堵と、やってしまった、という後悔で茫然としました。
もし優真くんの一番大切な人がわたしだったら、優真くんはわたしを忘れてしまったことになります。
一緒にオムライスを食べに行ったことも、フリーマーケットの帰りに告白してくれたことも、海辺のベンチでキスをしたことも、優真くんの誕生日に初めてエッチをしたことも、わたしの誕生日にネックレスをくれたことも、たくさんデートをして、たくさん愛し合ったことも、全部、記憶から消えてしまったということです。
土手で座り込むわたしを置いて、白崎さんは優真くんに付き添って救急車に乗りました。わたしも、と言おうとしましたが、声が出ませんでした。どの道、わたしが行ったところで優真くんには気づいてもらえません。
わたしは蹲って泣くことしかできませんでした。




